T.T.S.
FileNo.3 The truth in her memory Chapter 2-7
7
現場に残された物的証拠は、被害者の生活圏内ということもあって途轍もない数に上るが、犯人に直結する証拠品となると、途端に数が減る。
第一の手掛かりは、4名の犠牲者の内1名、マイク・バイヤーズの殺害現場にあった血の手形だ。ベッドの中で臥床したまま頸を一閃された被害者の脇、手近なサイドボードに残されたそれは、どの被害者の指紋とも掌紋とも一致しなかった。
すなわち、もっとも犯人のものと思われる物的証拠の可能性が高かったのだが、その正体は隣の部屋で死亡していた住人、ウィル・シンクレアのイタズラだった。
事件当日、23時過ぎまでサークルの飲み会に参加していたウィルだったが、その帰路で同道していた友人のジム・ハリントンの突然の鼻血を介抱しており、血はジムのものだったのだ。
「うーわ、紛らわし」
「ちなみにそのジムって野郎な、やたら採血拒否すっから血液検査に掛けたら薬物反応が出てな、ついでにパクッといた」
「ついでにパクッといた、じゃないわよファンモク。私が検査キットを携帯してたからよかったけど、採血だけって誓約したのに」
「口頭だけなんだからなんとでもなんだろ?イスハーク」
「いや何言ってんですか、普通にヤバいですよファンさん」
「ビビってんじゃねえよロサ。その辺どうにかすんのがお前とジェシカの役目だろ」
「アタシめんどくさいのヤだからロサちん頑張ってー」
「ええー⁉」
「おーい、そろそろ本題に戻っていいかな?」
弁護士資格を持つ警察官、ジェシカ・リッター。
元所轄署交通課白バイ隊の弾丸娘、ファンモク・ユノ。
監察医にして鑑識官、イスハーク・チム。
ストーカー的粘着気質でどこまでも情熱的に対象を追う度胸の塊、弓削田ロサ。
実にまとまりのない、しかしあまりに優秀な面々が、好き勝手喚き散らすのを前に、絵美はにこやかに語りかける。
「さもないと、全員幸太郎にぶん殴られるよ」
カツン、と部下たちの後ろで、床を突く音がする。
現代を生きる剣豪の凄みは、効果覿面だった。
あれだけ姦しかった場は、一瞬で水を打ったように静まり返る。
「ん……じゃあ捜査状況共有、進めよっか。ロサ、アレどうだった?」
第二物証は、寮内の映像だった。
それも、寮に設置してある監視カメラだけではない。動画投稿を趣味と実益を兼ねたビジネスにしていた被害者の1人、ダスティン・ウィーラーの視覚情報がすべて記録されていた。
つまり、容疑者の面が割れそうなのだ。
その確認をロサに任せた、のだが。
「それが、ですね……犯行時間の部分だけ綺麗に全部消されてて……」
「削除したのは?」
不自然に口を噤むロサに、絵美は追及する。
だが、答えはロサからは出てこなかった。
代わりに響いたのは、聞いたこともない間の抜けた声だ。
「私でーす」
「……絵美、客だ」
木佐の言葉に目を向けると、見慣れない彼がいた。
どういうわけか、いつもの殺気立った雰囲気が鳴りを潜め、戸惑うような、恐れるような、不安げな顔でこちらを見ている。
だからだろう。
その巨漢の影からひょっこり顔を出した笑みが、妙に不気味に見えた。
「初めまして正岡絵美さん。私T.T.S.の職員、甘鈴蝶と申します。本日は折り入ってお話ししたいことがありまして、失礼しますね」
現場に残された物的証拠は、被害者の生活圏内ということもあって途轍もない数に上るが、犯人に直結する証拠品となると、途端に数が減る。
第一の手掛かりは、4名の犠牲者の内1名、マイク・バイヤーズの殺害現場にあった血の手形だ。ベッドの中で臥床したまま頸を一閃された被害者の脇、手近なサイドボードに残されたそれは、どの被害者の指紋とも掌紋とも一致しなかった。
すなわち、もっとも犯人のものと思われる物的証拠の可能性が高かったのだが、その正体は隣の部屋で死亡していた住人、ウィル・シンクレアのイタズラだった。
事件当日、23時過ぎまでサークルの飲み会に参加していたウィルだったが、その帰路で同道していた友人のジム・ハリントンの突然の鼻血を介抱しており、血はジムのものだったのだ。
「うーわ、紛らわし」
「ちなみにそのジムって野郎な、やたら採血拒否すっから血液検査に掛けたら薬物反応が出てな、ついでにパクッといた」
「ついでにパクッといた、じゃないわよファンモク。私が検査キットを携帯してたからよかったけど、採血だけって誓約したのに」
「口頭だけなんだからなんとでもなんだろ?イスハーク」
「いや何言ってんですか、普通にヤバいですよファンさん」
「ビビってんじゃねえよロサ。その辺どうにかすんのがお前とジェシカの役目だろ」
「アタシめんどくさいのヤだからロサちん頑張ってー」
「ええー⁉」
「おーい、そろそろ本題に戻っていいかな?」
弁護士資格を持つ警察官、ジェシカ・リッター。
元所轄署交通課白バイ隊の弾丸娘、ファンモク・ユノ。
監察医にして鑑識官、イスハーク・チム。
ストーカー的粘着気質でどこまでも情熱的に対象を追う度胸の塊、弓削田ロサ。
実にまとまりのない、しかしあまりに優秀な面々が、好き勝手喚き散らすのを前に、絵美はにこやかに語りかける。
「さもないと、全員幸太郎にぶん殴られるよ」
カツン、と部下たちの後ろで、床を突く音がする。
現代を生きる剣豪の凄みは、効果覿面だった。
あれだけ姦しかった場は、一瞬で水を打ったように静まり返る。
「ん……じゃあ捜査状況共有、進めよっか。ロサ、アレどうだった?」
第二物証は、寮内の映像だった。
それも、寮に設置してある監視カメラだけではない。動画投稿を趣味と実益を兼ねたビジネスにしていた被害者の1人、ダスティン・ウィーラーの視覚情報がすべて記録されていた。
つまり、容疑者の面が割れそうなのだ。
その確認をロサに任せた、のだが。
「それが、ですね……犯行時間の部分だけ綺麗に全部消されてて……」
「削除したのは?」
不自然に口を噤むロサに、絵美は追及する。
だが、答えはロサからは出てこなかった。
代わりに響いたのは、聞いたこともない間の抜けた声だ。
「私でーす」
「……絵美、客だ」
木佐の言葉に目を向けると、見慣れない彼がいた。
どういうわけか、いつもの殺気立った雰囲気が鳴りを潜め、戸惑うような、恐れるような、不安げな顔でこちらを見ている。
だからだろう。
その巨漢の影からひょっこり顔を出した笑みが、妙に不気味に見えた。
「初めまして正岡絵美さん。私T.T.S.の職員、甘鈴蝶と申します。本日は折り入ってお話ししたいことがありまして、失礼しますね」
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