T.T.S.
FileNo.3 The truth in her memory Chapter 2-2
2
~2168年9月6日AM12:42 東京~
警視庁で行われた挨拶会は、絵美を気疲れでクタクタにするためにあるようだった。
襟が立派な割に治安維持の緊迫感に欠けたお偉方は、若輩者の彼女を表面上は歓迎してくれた。
だが、中身は警察庁長官の肝入りで入庁を果たした絵美に対して、嫉妬から来る警戒と取り入るためのおべっかをぶつけるだけの魔境だ。
社交界の真似事に辟易としたが、なんとか乗り切った。
「随分とお疲れのようですね、警視正殿」
「勘弁して下さい。マジで」
「たっぷり洗礼を受けたようで……本当にお疲れ様です。でも、昔からああですよ、あの人たちは」
「そうですか……正直、もうご遠慮願いたいです。が、そうもいかないのでしょうね……」
そう言えば、数少ない挨拶会での成果が1つ、あった。
ちょっと八つ当たり気味だが、運転席の屋根に手をつく木佐に目一杯にこやかに笑いかける。
「警察庁に戻ります。帰りの運転、引き続きお願いしますね。木佐剣道範士特例十段」
瞬間、木佐の表情が強張る。
だが、それも刹那のこと。
すぐに「参ったね」と呟き、力なく笑った。
「好きで続けてたら、いつの間にかね……そんな御大層な名前を貰っちまったばっかりに、本庁勤めから官庁勤めに一気に撥ね上げられちまいました」
ようやく木佐の素顔を垣間見れて、絵美の舌も滑らかになる。
「あら、特例措置で廃止されていた九段と十段を復活させた今を生きる大剣豪様がご謙遜?」
「……官庁勤め向きじゃないか、嬢ちゃん」
「そうかもね。でも、基本的に私もアナタみたいに現場に立ちたいタイプよ」
剣道範士とは、日本剣道界での最高位を表す称号だ。数多いる剣士の中で最も強い位置に着くことは、それだけでも十分に大変なことだ。
だが、更に木佐は、2000年に審査廃止とされた十段の段位さえこじ開けた。
当世において比類なき彼の強さは、特例という形以外では表せないと判断されたわけだ。
正に、規格外の超人剣士。
比類なき才能と鍛錬の結晶。
それが、木佐幸太郎という男だった。
「決めたわ。私のチームに入ってもらうわよ、木佐警視」
「……?何の話だ?」
「今日から3ヶ月の間にチームを作るの。宮崎アイリーン長官の許可も取ったわ。本部を現場に置く攻勢の捜査チームよ。メンバーはこれから集めるけど、まずはアナタから。なんなら、邏卒時代みたいにサーベルでも帯刀出来るようにもするわよ」
「へー、なるほど、そりゃ面白い」
「……真面目に聞いてないわね」
「書面でも出されりゃ従うよ。こちとら不良警視扱いされてる身だ。ボスは喜んで手放すだろうぜ」
どうやら、警察庁はこの男を上手く使えていないらしい。
ならば、それこそ絵美の仕事だ。
「いいわ、早速アナタは異動よ。早く書類出したいから急いで警察庁に向かって」
言うだけ言って車に飛び乗った絵美を見て、木佐は苦笑いしながら運転席に滑り込む。
しかしながら、その目は今日一の輝きを放っていた。
~2168年9月6日AM12:42 東京~
警視庁で行われた挨拶会は、絵美を気疲れでクタクタにするためにあるようだった。
襟が立派な割に治安維持の緊迫感に欠けたお偉方は、若輩者の彼女を表面上は歓迎してくれた。
だが、中身は警察庁長官の肝入りで入庁を果たした絵美に対して、嫉妬から来る警戒と取り入るためのおべっかをぶつけるだけの魔境だ。
社交界の真似事に辟易としたが、なんとか乗り切った。
「随分とお疲れのようですね、警視正殿」
「勘弁して下さい。マジで」
「たっぷり洗礼を受けたようで……本当にお疲れ様です。でも、昔からああですよ、あの人たちは」
「そうですか……正直、もうご遠慮願いたいです。が、そうもいかないのでしょうね……」
そう言えば、数少ない挨拶会での成果が1つ、あった。
ちょっと八つ当たり気味だが、運転席の屋根に手をつく木佐に目一杯にこやかに笑いかける。
「警察庁に戻ります。帰りの運転、引き続きお願いしますね。木佐剣道範士特例十段」
瞬間、木佐の表情が強張る。
だが、それも刹那のこと。
すぐに「参ったね」と呟き、力なく笑った。
「好きで続けてたら、いつの間にかね……そんな御大層な名前を貰っちまったばっかりに、本庁勤めから官庁勤めに一気に撥ね上げられちまいました」
ようやく木佐の素顔を垣間見れて、絵美の舌も滑らかになる。
「あら、特例措置で廃止されていた九段と十段を復活させた今を生きる大剣豪様がご謙遜?」
「……官庁勤め向きじゃないか、嬢ちゃん」
「そうかもね。でも、基本的に私もアナタみたいに現場に立ちたいタイプよ」
剣道範士とは、日本剣道界での最高位を表す称号だ。数多いる剣士の中で最も強い位置に着くことは、それだけでも十分に大変なことだ。
だが、更に木佐は、2000年に審査廃止とされた十段の段位さえこじ開けた。
当世において比類なき彼の強さは、特例という形以外では表せないと判断されたわけだ。
正に、規格外の超人剣士。
比類なき才能と鍛錬の結晶。
それが、木佐幸太郎という男だった。
「決めたわ。私のチームに入ってもらうわよ、木佐警視」
「……?何の話だ?」
「今日から3ヶ月の間にチームを作るの。宮崎アイリーン長官の許可も取ったわ。本部を現場に置く攻勢の捜査チームよ。メンバーはこれから集めるけど、まずはアナタから。なんなら、邏卒時代みたいにサーベルでも帯刀出来るようにもするわよ」
「へー、なるほど、そりゃ面白い」
「……真面目に聞いてないわね」
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どうやら、警察庁はこの男を上手く使えていないらしい。
ならば、それこそ絵美の仕事だ。
「いいわ、早速アナタは異動よ。早く書類出したいから急いで警察庁に向かって」
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しかしながら、その目は今日一の輝きを放っていた。
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