T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.3 The truth in her memory Introduction

~2176年10月6日AM3:15 東京~

 大型の台風が都心を浸していた。
 まるで洗濯機に入れられたような乱雑で入り乱れた水にも、しつこいビル群の汚れはビクともしない。
 ビルがただ厳然とそこにあるように、汚れも自分の居場所を譲らない。
 さながら、警察組織の構造そのものだ。
 しつこい汚れほど誇らしげに聳え立つ。
 反吐が出る光景だ。
 合羽に当たる雨粒が鬱陶しく感じ出したところで、ふと、懐に違和感を覚えた。
 何事かと懐を弄ると、旧時代の遺物が短く震えている。
 かつてスマートフォンと呼ばれ、持て囃された代物は、アヤツらからの連絡を受け、震えていた。
 WITや NITの出現により駆逐されたデバイスだが、隆盛を誇ったものは中々廃れにくいものだ。
 未だに年寄りやマニア、コレクターたちは愛用し、環境は生きている。

「いよいよ俺の番になったってことでいいんだな?」

 不慣れなデバイスの操作に若干手間取ったが、中身を確認して、口元が緩んだ。
 ようやくだ。
 ようやく俺は自分を解放できる。

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