T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Last Chapter-5
5
~2176年9月30日AM13:10
廃国独自自治区バルセロナ~
甲斐甲斐しく手当てを施す皇幸美と紫姫音の姿を見て、T.T.S.Master皇幸美は舌を巻く。
「あれま、本当に手懐けちゃってるよ」
T.T.S.No.2が1人の少女を救ったと聞いた時は、一体どんな冗談かと思った。
任務として護ったというのなら分かるが、救ったとなると、それはい源が情を掛けたということだ。彼の人物像を考えれば、これはかなり特殊なケースといえる。驚くべき事態だ。
あまつさえそれを実際に目にしてしまうと、鈴蝶は呆然とするしかなかった。そして、なぜだか湧き上がる、久しくなかった驚きと感動に震えた。
その衝撃たるや、絵美に話し掛けられていることにやっと気づくほどだ。
「Masterちょっといいですか?」
「え、ああ、うん。いいよ」
「皇幸美と服部エリザベートの処遇ですが、I.T.C.スタッフの寄宿舎に借り受けという形にしていただきたいんですが、可能ですか?」
「ん?ちょっと待って、幸美ちゃんの話は聞いたけど、エリザベートちゃんもなの?」
「はい。本人たっての希望で」
「そっか、まああの子は言い出したら聞かないだろうし、しかたないか……」
「それと、先ほど搬送された皇内務副大臣から言伝です。“娘の意思を尊重していただき感謝するが、私も政府も公私の境界線を薄める気はない。そちらも充分弁えていただきたい”と」
「弁えていただきたい、とはまた随分と上から言ってくれる……しかしまあ、当然の釘刺しだね。……でも、それを胸に刻むべきはT.T.S.じゃなくて幸美ちゃんたちでしょうに……」
「Master」
ふと、絵美が視線を鈴蝶の背後に投げる。
追って目を向けると、骨折や破傷箇所に治療ツールをペタペタと貼られた服部エリザベートが立っていた。
ペコリと短髪頭を下げる彼女は、力なく笑う。
「お嬢様のみならず、私の居場所まで手配していただき、本当にありがとうございます。不躾ながら、お話伺わせていただきました」
「そうですか。ならばご協力いただけますね?まあ、していただくしかないんですが」
T.T.S.Masterに正面から脅されても、エリザベートは決して怯まなかった。
「心得ております。お嬢様は皇栄太の名前を使う気はないですし、私にも基本的にはありません。い様や貴方がお嬢様の名を使わない限り、約束は厳守します」
「あのお嬢さんの名前には、まだそこまでの価値は」
「つきますよ。必ず」
喰い気味に断言したエリザベートの目に、確かな自信を認めた鈴蝶は、口の端を釣り上げる。
「そうですか。ならその時が来たら、お互い存分に利用し合いましょうか」
「ええ、楽しみにしております」
シェイクハンドをしてエリザベートと別れると、鈴蝶は最後の現場仕事に取り掛かる。
「さて、絵美ちゃん。今日は随分と好き勝手に動き回ってくれたね」
視線を向けないのは、せめてもの情けだ。
今回は上手くいった。
が、指揮系統の分裂という、ありえない振る舞いをした罰は、受けてもらわなければならない。
「……はい」
「……まったく、貴女は……」
一切言いわけをしない潔さも、今のこの状況下では褒めていいのかさえ分からない。
心を鬼にするなら、今だ。
「謹慎してもらう。1週間の自宅謹慎だ。その身体に残るウイルスを全部落として来なさい。その間、ジェーンちゃんとアギーちゃんに頑張ってもらうから、2人にお礼の品も用意しておきなさい」
「……はい」
「それと、この後みんなでエドワードの墓参りに行くから、先導しなさい」
「はい」
「さしあたって、まずは源ちゃんの補助をしなさい。小娘1人にはまだまだ任せられないからね」
「了解しました。精一杯務めます。……Master」
自らを追い抜いていく絵美が立ち止まり、こちらを顧みる。その顔に、もはや憂いはなかった。
「深く感謝します。これからもよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
どうにか、これからもT.T.S.は続けていけそうだ。
~2176年9月30日AM13:10
廃国独自自治区バルセロナ~
甲斐甲斐しく手当てを施す皇幸美と紫姫音の姿を見て、T.T.S.Master皇幸美は舌を巻く。
「あれま、本当に手懐けちゃってるよ」
T.T.S.No.2が1人の少女を救ったと聞いた時は、一体どんな冗談かと思った。
任務として護ったというのなら分かるが、救ったとなると、それはい源が情を掛けたということだ。彼の人物像を考えれば、これはかなり特殊なケースといえる。驚くべき事態だ。
あまつさえそれを実際に目にしてしまうと、鈴蝶は呆然とするしかなかった。そして、なぜだか湧き上がる、久しくなかった驚きと感動に震えた。
その衝撃たるや、絵美に話し掛けられていることにやっと気づくほどだ。
「Masterちょっといいですか?」
「え、ああ、うん。いいよ」
「皇幸美と服部エリザベートの処遇ですが、I.T.C.スタッフの寄宿舎に借り受けという形にしていただきたいんですが、可能ですか?」
「ん?ちょっと待って、幸美ちゃんの話は聞いたけど、エリザベートちゃんもなの?」
「はい。本人たっての希望で」
「そっか、まああの子は言い出したら聞かないだろうし、しかたないか……」
「それと、先ほど搬送された皇内務副大臣から言伝です。“娘の意思を尊重していただき感謝するが、私も政府も公私の境界線を薄める気はない。そちらも充分弁えていただきたい”と」
「弁えていただきたい、とはまた随分と上から言ってくれる……しかしまあ、当然の釘刺しだね。……でも、それを胸に刻むべきはT.T.S.じゃなくて幸美ちゃんたちでしょうに……」
「Master」
ふと、絵美が視線を鈴蝶の背後に投げる。
追って目を向けると、骨折や破傷箇所に治療ツールをペタペタと貼られた服部エリザベートが立っていた。
ペコリと短髪頭を下げる彼女は、力なく笑う。
「お嬢様のみならず、私の居場所まで手配していただき、本当にありがとうございます。不躾ながら、お話伺わせていただきました」
「そうですか。ならばご協力いただけますね?まあ、していただくしかないんですが」
T.T.S.Masterに正面から脅されても、エリザベートは決して怯まなかった。
「心得ております。お嬢様は皇栄太の名前を使う気はないですし、私にも基本的にはありません。い様や貴方がお嬢様の名を使わない限り、約束は厳守します」
「あのお嬢さんの名前には、まだそこまでの価値は」
「つきますよ。必ず」
喰い気味に断言したエリザベートの目に、確かな自信を認めた鈴蝶は、口の端を釣り上げる。
「そうですか。ならその時が来たら、お互い存分に利用し合いましょうか」
「ええ、楽しみにしております」
シェイクハンドをしてエリザベートと別れると、鈴蝶は最後の現場仕事に取り掛かる。
「さて、絵美ちゃん。今日は随分と好き勝手に動き回ってくれたね」
視線を向けないのは、せめてもの情けだ。
今回は上手くいった。
が、指揮系統の分裂という、ありえない振る舞いをした罰は、受けてもらわなければならない。
「……はい」
「……まったく、貴女は……」
一切言いわけをしない潔さも、今のこの状況下では褒めていいのかさえ分からない。
心を鬼にするなら、今だ。
「謹慎してもらう。1週間の自宅謹慎だ。その身体に残るウイルスを全部落として来なさい。その間、ジェーンちゃんとアギーちゃんに頑張ってもらうから、2人にお礼の品も用意しておきなさい」
「……はい」
「それと、この後みんなでエドワードの墓参りに行くから、先導しなさい」
「はい」
「さしあたって、まずは源ちゃんの補助をしなさい。小娘1人にはまだまだ任せられないからね」
「了解しました。精一杯務めます。……Master」
自らを追い抜いていく絵美が立ち止まり、こちらを顧みる。その顔に、もはや憂いはなかった。
「深く感謝します。これからもよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
どうにか、これからもT.T.S.は続けていけそうだ。
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