T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 4-13
13
到着しかけた市場が、振り出しと同じ距離にある。
『あばら痛ぇな畜生。だが予想してたかいがあったぜ』
間違いなく、骨になんらかの損傷を受けた。
それでも、得たものはある。
インパクトの瞬間、源は見た。神罰を免れる目でなければ、捉えることも叶わなかっただろう。ニコラエ・ツェペシュは地中から現れ、真っ黒なガントレット状の武器で自身の脇腹を殴り上げた。
『生体組織梱包はニコラエの武器庫でもあるわけか』
加えて、受けたインパクトの感触にも憶えがある。
『それにあの武器……間違いねぇ、ミスリルだ』
源の使用する武器の一つ、凶運の掴み手。その材質は共有結合結晶構造を取る新種の金属元素ミスリル。
火星地底部で発見されたこの元素は、電流のベクトルを切り替えることで色が変わり、同時に衝撃を吸収、放出出来る特性を持つ。衝撃を放出し切った際の灰色の輝きを持つ外見とその希少性から、トールキンの指輪物語に出て来る金属の名を与えられた。
「どうしたT.T.S.。狙いが外れたか?」
ニコラエの声に顔を上げると、彼はまるでなにもなかったように源の前に立ち塞がる。
「能天気なヤツだな、俺を振り出しに戻せて随分嬉しそぉじゃねぇか」
「強がってんじゃねぇよ、グレゴリーを乗っ取っていたアマは抜けたみてえだぞ。ピクリとも動かねえ。お前1人でどうすんだ?」
マイクロフトの言葉通り、紗琥耶の身体は再び四散し、細胞組織的振る舞いを欠いていた。
回復は急いでいるのだろうが、戦闘出来るようになるまでには時間を要するだろう。
だが、それでも源が屈するには早すぎる。
そもそも敵の現状認識が違うのだから。
「別に1人じゃねぇぞ」
「そうね、1人じゃない」
源の隣に、女が1人現れた。
RRは強大な敵だ。かつて、彼らほどT.T.S.を知っている相手はいなかった。メンバーの面、時間跳躍任務に当たる人員の数と、彼らの情報収集能力は実に見事なものだった。さすがにメンバー全員の戦闘体系までは割り出せてはいないようだが、戦闘能力が最も高い紗琥耶への対策は十全だった。
だが、そんな彼らにもミスはあった。
最終決戦の時間を現在にしたことだ。
服用した薬品ゆえに過去に行けず、鬱憤の溜まった彼女が存分に動けるこの時間に。
「わかったわよ、生体組織梱包のカラクリ」
正岡絵美は力強い目を煌かせていた。彼女がこの瞬間をどれほど待ち詫びたことか。
「そぉか。んで?用は済んだか?」
立ち上がり、並び立つ絵美に目を走らせる。
彼女は頷いて、声を張り上げた。
「ええ。準備はいいわね、アグネス」
「……うん。もう、やってる。構えて」
市場の上から聞こえたアグネスの声に、ニコラエは振り返る。腕が折れ、脚を挫いてなお、アグネスはそこに立っていた。
源たちと共に光学迷彩で身を隠して時間跳躍した絵美は、真っ先にアグネス・リーを解放しに走った。敵勢を味方に回せる彼女の能力は絶大な威力を発揮し、再び盤面をひっくり返す。
「なるほど、やはりT.T.S.は手強いな」
マイクロフトから送られる虚ろな視線と銃口を前に、ニコラエは目を細める。
「精神保護をしておけと言ったんだがな」
「まぁ、安心しろや、マイクロフトは証人だ。みすみす殺すよぉな真似はしねぇ」
「そうか。それで?俺の相手はお前でいいのか?い源」
「あぁ、お前が持ってんだろ?亜実体物質空間の門のスイッチってのはよ?」
「そうだ。私が持っている。欲しいだろう?片手間」
「欲しぃねぇ……くんねぇ?」
ニコラエは口の端を釣り上げた。
「奪ってみろ」
その言葉に、源も凶悪な笑みを浮かべる。
「いぃねぇ、乗った」
「待って、源、アンタは」
歩み出ようとした源を、絵美が制する。
さすがの源も、これには舌打ちした。
「野暮だぞ絵美、俺だって今日はウンザリしてんだ。その一端、担ってる自覚ねぇのか?あぁ?」
「うっ……それは……」
「じゃ、決まりな。精々センチメンタルに流されて体調管理を怠った自分でも恨んでろ」
歯噛みする絵美を押し退けて、源はニコラエに向けて歩み寄る。3Mほどの距離を空けて相対した2人は、強い眼差しで互いを睨めつけた。
「最期の相手がお前で嬉しいよ、神を掴む手」
「そっちの名前も知ってんのか。じゃぁまぁ、冥途の土産に見てけ」
い源の長い一日は、やっと終わりそうだ。
到着しかけた市場が、振り出しと同じ距離にある。
『あばら痛ぇな畜生。だが予想してたかいがあったぜ』
間違いなく、骨になんらかの損傷を受けた。
それでも、得たものはある。
インパクトの瞬間、源は見た。神罰を免れる目でなければ、捉えることも叶わなかっただろう。ニコラエ・ツェペシュは地中から現れ、真っ黒なガントレット状の武器で自身の脇腹を殴り上げた。
『生体組織梱包はニコラエの武器庫でもあるわけか』
加えて、受けたインパクトの感触にも憶えがある。
『それにあの武器……間違いねぇ、ミスリルだ』
源の使用する武器の一つ、凶運の掴み手。その材質は共有結合結晶構造を取る新種の金属元素ミスリル。
火星地底部で発見されたこの元素は、電流のベクトルを切り替えることで色が変わり、同時に衝撃を吸収、放出出来る特性を持つ。衝撃を放出し切った際の灰色の輝きを持つ外見とその希少性から、トールキンの指輪物語に出て来る金属の名を与えられた。
「どうしたT.T.S.。狙いが外れたか?」
ニコラエの声に顔を上げると、彼はまるでなにもなかったように源の前に立ち塞がる。
「能天気なヤツだな、俺を振り出しに戻せて随分嬉しそぉじゃねぇか」
「強がってんじゃねぇよ、グレゴリーを乗っ取っていたアマは抜けたみてえだぞ。ピクリとも動かねえ。お前1人でどうすんだ?」
マイクロフトの言葉通り、紗琥耶の身体は再び四散し、細胞組織的振る舞いを欠いていた。
回復は急いでいるのだろうが、戦闘出来るようになるまでには時間を要するだろう。
だが、それでも源が屈するには早すぎる。
そもそも敵の現状認識が違うのだから。
「別に1人じゃねぇぞ」
「そうね、1人じゃない」
源の隣に、女が1人現れた。
RRは強大な敵だ。かつて、彼らほどT.T.S.を知っている相手はいなかった。メンバーの面、時間跳躍任務に当たる人員の数と、彼らの情報収集能力は実に見事なものだった。さすがにメンバー全員の戦闘体系までは割り出せてはいないようだが、戦闘能力が最も高い紗琥耶への対策は十全だった。
だが、そんな彼らにもミスはあった。
最終決戦の時間を現在にしたことだ。
服用した薬品ゆえに過去に行けず、鬱憤の溜まった彼女が存分に動けるこの時間に。
「わかったわよ、生体組織梱包のカラクリ」
正岡絵美は力強い目を煌かせていた。彼女がこの瞬間をどれほど待ち詫びたことか。
「そぉか。んで?用は済んだか?」
立ち上がり、並び立つ絵美に目を走らせる。
彼女は頷いて、声を張り上げた。
「ええ。準備はいいわね、アグネス」
「……うん。もう、やってる。構えて」
市場の上から聞こえたアグネスの声に、ニコラエは振り返る。腕が折れ、脚を挫いてなお、アグネスはそこに立っていた。
源たちと共に光学迷彩で身を隠して時間跳躍した絵美は、真っ先にアグネス・リーを解放しに走った。敵勢を味方に回せる彼女の能力は絶大な威力を発揮し、再び盤面をひっくり返す。
「なるほど、やはりT.T.S.は手強いな」
マイクロフトから送られる虚ろな視線と銃口を前に、ニコラエは目を細める。
「精神保護をしておけと言ったんだがな」
「まぁ、安心しろや、マイクロフトは証人だ。みすみす殺すよぉな真似はしねぇ」
「そうか。それで?俺の相手はお前でいいのか?い源」
「あぁ、お前が持ってんだろ?亜実体物質空間の門のスイッチってのはよ?」
「そうだ。私が持っている。欲しいだろう?片手間」
「欲しぃねぇ……くんねぇ?」
ニコラエは口の端を釣り上げた。
「奪ってみろ」
その言葉に、源も凶悪な笑みを浮かべる。
「いぃねぇ、乗った」
「待って、源、アンタは」
歩み出ようとした源を、絵美が制する。
さすがの源も、これには舌打ちした。
「野暮だぞ絵美、俺だって今日はウンザリしてんだ。その一端、担ってる自覚ねぇのか?あぁ?」
「うっ……それは……」
「じゃ、決まりな。精々センチメンタルに流されて体調管理を怠った自分でも恨んでろ」
歯噛みする絵美を押し退けて、源はニコラエに向けて歩み寄る。3Mほどの距離を空けて相対した2人は、強い眼差しで互いを睨めつけた。
「最期の相手がお前で嬉しいよ、神を掴む手」
「そっちの名前も知ってんのか。じゃぁまぁ、冥途の土産に見てけ」
い源の長い一日は、やっと終わりそうだ。
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