T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 3-19
19
~1937年5月15日PM2:44
カタルーニャ共和国 バルセロナ~
どっと押し寄せた重力に、源は意識を揺り戻す。同時に、酷い頭痛と鼻を衝く血と精液の臭いに顔を顰めた。意識交換の代償自重の感覚を久しく感じつつ上体を起こそうとすると、上半身に載ったなにかに阻害される。
「……どけガキ」
見なくても、それが皇幸美だとすぐに分かった。当然だ。僅かな間とはいえ、源は幸美だったのだから。ゆえに、指示を発したところで彼女が退かないことも分かっていたが、言わないわけにはいかなかった。
なぜなら。
「意識交換とか超エロいことしてんじゃん。なんでアタシ誘わねえんだ馬鹿」
全裸の紗琥耶が源の頭上で仁王立ちになっている。眼前に開帳された秘部からゴボリと子種を垂らされ、源は幸美を抱えて急いで立ち上がった。
「テメェ」
毒づきながらも、源は愉快そうに笑う紗琥耶の様子に安堵する。どうやら、紫姫音は紗琥耶の脳内麻薬調整を上手くやってくれたようだ。源の内臓は守られた。
それはそうと、源の腹の辺りの服を掴む手が離れない。
「……おぃ、歩き辛ぇだろ。離れろ」
ヒシと源に抱き着いた幸美が離れなかった。
肩を掴んで引き離そうとするも、頑として離れない。
「いい懐きっぷりじゃない、どうやって堕としたの?」
「るせぇ、とっとと服着ろ」
ニヤニヤ笑う紗琥耶をピシャリと塞いで、源は今一度幸美に語りかけた。
「おぃ、もぉ大丈夫なんじゃねぇのかよ」
「……たでしょう」
「あ?」
「見たでしょう。私の全部」
さすがに、どう答えたらいいものかと考えてしまう。
幸美の言う通り、源は彼女のすべてを見た。断片的だが、彼女の人生そのものを、彼女の意識で追体験した。それこそ、彼女のもっとも隠したい秘密さえ見てしまった。
それだけに、普段は思っていることをそのまま口に出す源も、思わず言葉を濁してしまう。
「……忘れた」
「ウソ!絶対憶えてる!」
『そりゃバレるよな』
顔のすぐ下にいるにもかかわらず、まるでキスするかのような思い切りのいい背伸びに、自然と体が仰け反った。
分かってはいたのに、幸美に対する後ろめたさから咄嗟に吐いた嘘を、後悔する。
「忘れよぉとしてんだから忘れさせろよ」
「やっぱり覚えてるじゃない!」
「だから忘れよぉとしてんだろぉが」
「責任取りなさいよ」
ずずい、と更に距離を詰められて告げられた一言に、耳を疑った。
「あ?」
「私のしょ、初潮まで見たんだから責任取りなさいよ!」
恥ずかしさを振り払うように幸美は叫ぶ。
即座に、服を纏った紗琥耶が反応した。
「なにそれ詳しく!」
「黙れ痴女!テメェは話に入ってくんな!」
ギャーギャーと騒がしいやりとりが続く中、源の身体を唐突な悪寒が襲った。
《源》
それは、さながら地の底から響く怨念のような声音で、源にだけ届けられた呪詛だ。紫姫音の放つ殺気は、百戦錬磨の源ですら冷や汗を垂らすレベルの迫力があった。
AIだろうが、女として生まれた以上、死ぬまで女なのだろう。
《かえったら、くわしく、ね》
もう浸食されていないはずの胃が、キリキリと痛んだ。
しかしながら、いつまでもこんな血と死体と精液に塗れた場所で人の好嫌について話をしている場合ではない。
やるべきことに目を向けなければならなかった。
「どぉでもいぃが。テメェいぃ加減あのアホのこと思い出したんだろぉな?」
源と紗琥耶という2人の超人をして、いまだに打倒の叶わぬ因縁の敵。その正体が、なにより重要なことだった。
「ああ、それね、思い出したわよ」
「よし、なら教えろ。アイツは誰だ?」
「エドの元相棒。あいつがアタシと組む前のね」
「……そぉか」
どうにも、命日というのは奇妙な縁を結ぶらしい。エドは源にとって呵責を懐くほど良心を向けた相手ではないが、つくづく因縁なのだろう。それとも、元相棒のよしみとして、同じ日に同じ相手に殺されたいとでもいうのだろうか。
「お前とことん調べつくされてんじゃねぇか。本当に勝てんのか?」
情報は更新されたが、状況は芳しくなかった。
かつてトマス・エドワード・ペンドラゴンと肩を並べ、紗琥耶と入れ替わりでその任を解かれた者。恐らく、紗琥耶を狙う理由もその辺りの事情だろう。
それはつまり、源や絵美とは比べ物にならないほど紗琥耶のことを知っているということであり、こうして時間跳躍先に現れた以上、T.T.S.になってからの彼女の動向も追っているということだ。
『旗色悪すぎんだろ』
源はエドと本気で闘ったことはないが、しっかりと準備をしてなお、苦戦を覚悟しなければならない相手だ。そんなエドが背中を預けられる男と対峙するならば、やはり相応の準備と覚悟がいる。
だが、現状源と紗琥耶にはそれぞれネックがあった。片や精神的にも肉体的にも消耗して満身創痍、片や手の内は筒抜けとあっては、いくら超人的な力があろうと危うい。
ゆえに、源は改めて打診するしかなかった。
「もぉなりふり構ってらんねぇんだ。現在がヤベェ、協力しろ」
「イイよ」
「は?」
正中に走るファスナーを上げながら、紗琥耶はあっさり同意する。余りにあっさりしているので、源の方が呆けたほどだ。
「3P、してやるって言ってんだよ。で?どんな戦術でイキたいの?」
どういう風の吹き回しかは分からないが、紗琥耶が乗り気なのは僥倖だ。
話を一気につけるべく、源は口を開いた。
~1937年5月15日PM2:44
カタルーニャ共和国 バルセロナ~
どっと押し寄せた重力に、源は意識を揺り戻す。同時に、酷い頭痛と鼻を衝く血と精液の臭いに顔を顰めた。意識交換の代償自重の感覚を久しく感じつつ上体を起こそうとすると、上半身に載ったなにかに阻害される。
「……どけガキ」
見なくても、それが皇幸美だとすぐに分かった。当然だ。僅かな間とはいえ、源は幸美だったのだから。ゆえに、指示を発したところで彼女が退かないことも分かっていたが、言わないわけにはいかなかった。
なぜなら。
「意識交換とか超エロいことしてんじゃん。なんでアタシ誘わねえんだ馬鹿」
全裸の紗琥耶が源の頭上で仁王立ちになっている。眼前に開帳された秘部からゴボリと子種を垂らされ、源は幸美を抱えて急いで立ち上がった。
「テメェ」
毒づきながらも、源は愉快そうに笑う紗琥耶の様子に安堵する。どうやら、紫姫音は紗琥耶の脳内麻薬調整を上手くやってくれたようだ。源の内臓は守られた。
それはそうと、源の腹の辺りの服を掴む手が離れない。
「……おぃ、歩き辛ぇだろ。離れろ」
ヒシと源に抱き着いた幸美が離れなかった。
肩を掴んで引き離そうとするも、頑として離れない。
「いい懐きっぷりじゃない、どうやって堕としたの?」
「るせぇ、とっとと服着ろ」
ニヤニヤ笑う紗琥耶をピシャリと塞いで、源は今一度幸美に語りかけた。
「おぃ、もぉ大丈夫なんじゃねぇのかよ」
「……たでしょう」
「あ?」
「見たでしょう。私の全部」
さすがに、どう答えたらいいものかと考えてしまう。
幸美の言う通り、源は彼女のすべてを見た。断片的だが、彼女の人生そのものを、彼女の意識で追体験した。それこそ、彼女のもっとも隠したい秘密さえ見てしまった。
それだけに、普段は思っていることをそのまま口に出す源も、思わず言葉を濁してしまう。
「……忘れた」
「ウソ!絶対憶えてる!」
『そりゃバレるよな』
顔のすぐ下にいるにもかかわらず、まるでキスするかのような思い切りのいい背伸びに、自然と体が仰け反った。
分かってはいたのに、幸美に対する後ろめたさから咄嗟に吐いた嘘を、後悔する。
「忘れよぉとしてんだから忘れさせろよ」
「やっぱり覚えてるじゃない!」
「だから忘れよぉとしてんだろぉが」
「責任取りなさいよ」
ずずい、と更に距離を詰められて告げられた一言に、耳を疑った。
「あ?」
「私のしょ、初潮まで見たんだから責任取りなさいよ!」
恥ずかしさを振り払うように幸美は叫ぶ。
即座に、服を纏った紗琥耶が反応した。
「なにそれ詳しく!」
「黙れ痴女!テメェは話に入ってくんな!」
ギャーギャーと騒がしいやりとりが続く中、源の身体を唐突な悪寒が襲った。
《源》
それは、さながら地の底から響く怨念のような声音で、源にだけ届けられた呪詛だ。紫姫音の放つ殺気は、百戦錬磨の源ですら冷や汗を垂らすレベルの迫力があった。
AIだろうが、女として生まれた以上、死ぬまで女なのだろう。
《かえったら、くわしく、ね》
もう浸食されていないはずの胃が、キリキリと痛んだ。
しかしながら、いつまでもこんな血と死体と精液に塗れた場所で人の好嫌について話をしている場合ではない。
やるべきことに目を向けなければならなかった。
「どぉでもいぃが。テメェいぃ加減あのアホのこと思い出したんだろぉな?」
源と紗琥耶という2人の超人をして、いまだに打倒の叶わぬ因縁の敵。その正体が、なにより重要なことだった。
「ああ、それね、思い出したわよ」
「よし、なら教えろ。アイツは誰だ?」
「エドの元相棒。あいつがアタシと組む前のね」
「……そぉか」
どうにも、命日というのは奇妙な縁を結ぶらしい。エドは源にとって呵責を懐くほど良心を向けた相手ではないが、つくづく因縁なのだろう。それとも、元相棒のよしみとして、同じ日に同じ相手に殺されたいとでもいうのだろうか。
「お前とことん調べつくされてんじゃねぇか。本当に勝てんのか?」
情報は更新されたが、状況は芳しくなかった。
かつてトマス・エドワード・ペンドラゴンと肩を並べ、紗琥耶と入れ替わりでその任を解かれた者。恐らく、紗琥耶を狙う理由もその辺りの事情だろう。
それはつまり、源や絵美とは比べ物にならないほど紗琥耶のことを知っているということであり、こうして時間跳躍先に現れた以上、T.T.S.になってからの彼女の動向も追っているということだ。
『旗色悪すぎんだろ』
源はエドと本気で闘ったことはないが、しっかりと準備をしてなお、苦戦を覚悟しなければならない相手だ。そんなエドが背中を預けられる男と対峙するならば、やはり相応の準備と覚悟がいる。
だが、現状源と紗琥耶にはそれぞれネックがあった。片や精神的にも肉体的にも消耗して満身創痍、片や手の内は筒抜けとあっては、いくら超人的な力があろうと危うい。
ゆえに、源は改めて打診するしかなかった。
「もぉなりふり構ってらんねぇんだ。現在がヤベェ、協力しろ」
「イイよ」
「は?」
正中に走るファスナーを上げながら、紗琥耶はあっさり同意する。余りにあっさりしているので、源の方が呆けたほどだ。
「3P、してやるって言ってんだよ。で?どんな戦術でイキたいの?」
どういう風の吹き回しかは分からないが、紗琥耶が乗り気なのは僥倖だ。
話を一気につけるべく、源は口を開いた。
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