T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 3-11
11
『んでこんなことになってんだ』
裸電球が一つぶら下がっているだけの狭い地下室だった。土とレンガの混成した壁は、地上で砲撃が上がる度にパラパラと崩れ、空気に不純物を混ぜ込んでいく。
「運が悪かったと諦めるんだな」
流暢なスペイン語と共に指示されたテーブルには、見慣れた部品が並んでいた。組み合わせれば拳銃になるそれらを前に、源は対面の老人を伺った。この地区唯一の銃職人と紹介された彼は、不安そうに傍らに目線を送る。
倣って視線を転じると、二人の少女がひざまずかされ、銃を突きつけられていた。
「クズ共め……」
恨めしそうに呻く老人に、二等兵が銃把を振るう。
米神を殴られた老人が呻くのを冷めた目で見つつ、源は取り囲む四人のナチス親衛隊員の階級を確かめた。
『低階級ばっかだな』
だが、それにしては場の空気の作り方が手慣れている。
統率、とまではいかなくとも、この低階級のSS達には、全員がこのゲームを楽しめるよう懸念材料を極力取り除く手腕があった。この部屋の敬語も二人一組と念がいっている。
「なるほど、テメェら元突撃隊か。どぉりで長いナイフを持ってねぇわけだ。恐ぇえんだろぉな、さぞかしよ」
ドイツ語で笑いながら言うと、背後の一等兵が側頭部を殴ってきた。
「図星か……さぞ怖かったんだろぉな、長いナイフの夜が。そんでSSの悪評を自作自演ってか?」
長いナイフの夜事件。1934年にナチスが行った大規模な内部粛清だ。ナチスに反旗を翻した突撃隊の幕僚長エルンスト・レームなどを暗殺したこの事件で、100名以上の命が法的措置を経ずに奪われた。
その生き残りか、あるいは亡命後に再入隊したのか、今では低階級で留め置かれたまま馬車馬のごとくこき使われているのだろう。
再び同じ場所を殴られ、視界がぶれる中で、源は改めて思う。
『んでこんなことになってんだろぉな』
紗琥耶と別れ、皇幸美の追跡を再開した源は、アッサリと彼女を探し出した。
幸美は身の危険を感じたのか、自身の武装を決意したようで、その足取りは路地という路地を彷徨い、やがて一軒の鍛冶屋へと向いていた。中に娯楽に飢えたナチ軍人がいるとも知らずに。
正面切って殴り込みに行ってもよかったのだが、乱戦のどさくさに紛れてまた幸美に逃げられるのも面倒くさい。
だからこうして虜囚になる道を選んだのだが、どうにも相手が面倒だった。まあ、今更な話だが。
「しゃぁねぇ爺さん。互いに恨みっこなしでいこうぜ」
ズキズキと痛む頭とそこからの出血は無視して、源は対面の老人に微笑みかけた。老人は怯える目を引き締めて頷く。
「乗ってやっからよ。テメェらの遊びのルール、説明しろ。とっとと終わらせっからよ」
「いい度胸だ。手前らの手元にある銃は両方ともクソッタレボニファシオ・エチェベリアのスターだ。それぞれパーツはすべて揃ってるが、弾丸はテーブル中央の9mmラルゴー一発だけだ。もうわかったな?」
シンプルな話だ。
「相手よりも先にスターを組んで殺せ。勝った方を連れと一緒に助けてやる」
シンプルで下世話で悪趣味極まるゲームだが、乗らない限りはこの場を切り抜けられない。
だが、源はこの老銃職人の命を奪うことは出来なかった。一般人である彼の命が、今後どう世界に影響するかがわからないからだ。
しかし、それならば、奪っても支障のない命を奪えばいいだけのこと。そのためにも、源はこの勝負に乗らなければならない。幸い、あてはある。
「なら始めてもらおうか。まずは運試しからな」
そう言って、SSはゴム製棍棒を取り出して老人に向けて振り被った。ハッとして振り返った源の米神にも、ゴム製棍棒が振り下ろされる。
「Gute Nachrichten!!」
その言葉を最後に、源の意識は一時消失した。
『んでこんなことになってんだ』
裸電球が一つぶら下がっているだけの狭い地下室だった。土とレンガの混成した壁は、地上で砲撃が上がる度にパラパラと崩れ、空気に不純物を混ぜ込んでいく。
「運が悪かったと諦めるんだな」
流暢なスペイン語と共に指示されたテーブルには、見慣れた部品が並んでいた。組み合わせれば拳銃になるそれらを前に、源は対面の老人を伺った。この地区唯一の銃職人と紹介された彼は、不安そうに傍らに目線を送る。
倣って視線を転じると、二人の少女がひざまずかされ、銃を突きつけられていた。
「クズ共め……」
恨めしそうに呻く老人に、二等兵が銃把を振るう。
米神を殴られた老人が呻くのを冷めた目で見つつ、源は取り囲む四人のナチス親衛隊員の階級を確かめた。
『低階級ばっかだな』
だが、それにしては場の空気の作り方が手慣れている。
統率、とまではいかなくとも、この低階級のSS達には、全員がこのゲームを楽しめるよう懸念材料を極力取り除く手腕があった。この部屋の敬語も二人一組と念がいっている。
「なるほど、テメェら元突撃隊か。どぉりで長いナイフを持ってねぇわけだ。恐ぇえんだろぉな、さぞかしよ」
ドイツ語で笑いながら言うと、背後の一等兵が側頭部を殴ってきた。
「図星か……さぞ怖かったんだろぉな、長いナイフの夜が。そんでSSの悪評を自作自演ってか?」
長いナイフの夜事件。1934年にナチスが行った大規模な内部粛清だ。ナチスに反旗を翻した突撃隊の幕僚長エルンスト・レームなどを暗殺したこの事件で、100名以上の命が法的措置を経ずに奪われた。
その生き残りか、あるいは亡命後に再入隊したのか、今では低階級で留め置かれたまま馬車馬のごとくこき使われているのだろう。
再び同じ場所を殴られ、視界がぶれる中で、源は改めて思う。
『んでこんなことになってんだろぉな』
紗琥耶と別れ、皇幸美の追跡を再開した源は、アッサリと彼女を探し出した。
幸美は身の危険を感じたのか、自身の武装を決意したようで、その足取りは路地という路地を彷徨い、やがて一軒の鍛冶屋へと向いていた。中に娯楽に飢えたナチ軍人がいるとも知らずに。
正面切って殴り込みに行ってもよかったのだが、乱戦のどさくさに紛れてまた幸美に逃げられるのも面倒くさい。
だからこうして虜囚になる道を選んだのだが、どうにも相手が面倒だった。まあ、今更な話だが。
「しゃぁねぇ爺さん。互いに恨みっこなしでいこうぜ」
ズキズキと痛む頭とそこからの出血は無視して、源は対面の老人に微笑みかけた。老人は怯える目を引き締めて頷く。
「乗ってやっからよ。テメェらの遊びのルール、説明しろ。とっとと終わらせっからよ」
「いい度胸だ。手前らの手元にある銃は両方ともクソッタレボニファシオ・エチェベリアのスターだ。それぞれパーツはすべて揃ってるが、弾丸はテーブル中央の9mmラルゴー一発だけだ。もうわかったな?」
シンプルな話だ。
「相手よりも先にスターを組んで殺せ。勝った方を連れと一緒に助けてやる」
シンプルで下世話で悪趣味極まるゲームだが、乗らない限りはこの場を切り抜けられない。
だが、源はこの老銃職人の命を奪うことは出来なかった。一般人である彼の命が、今後どう世界に影響するかがわからないからだ。
しかし、それならば、奪っても支障のない命を奪えばいいだけのこと。そのためにも、源はこの勝負に乗らなければならない。幸い、あてはある。
「なら始めてもらおうか。まずは運試しからな」
そう言って、SSはゴム製棍棒を取り出して老人に向けて振り被った。ハッとして振り返った源の米神にも、ゴム製棍棒が振り下ろされる。
「Gute Nachrichten!!」
その言葉を最後に、源の意識は一時消失した。
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