T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 3-1

No.3 ONE-SIDE GAMER  [彼女の満たされない理由2]


~1937年5月15日AM11:32 カタルーニャ共和国 バルセロナ~





 あまりにあり得ない光景に笑いそうになった。
 想像だにしない状況だ。
 今、源は紗琥耶の回復を護っている。
 まさか紗琥耶の護衛をする時が来るとは思わなかった。
 思いの外広範囲に散っていた彼女のナノマシンは、もはや彼女自身の回収不可能な範囲にまで及んだ。
 加えて、敵のチャフが一部のナノマシンを静電気で吸着しており、それらを回収して回るよりは自己生成させた方が遥かに効率的かつ安全性も高いと判断した。
 紗琥耶の身体を構築しているナノマシンは、ほぼすべてが彼女の細胞を再現しており、癌化した彼女自前の細胞の暴走を抑制する役割も担っている。
 この技術自体は2176年では一般化した医療技術であり、もはや癌は人類を脅かす病たりえない存在となっていた。
 それならば、多少の時間的ロスには目を瞑って、一般的な細胞増殖の要領で自力回復することにした、と言う訳だ。


「辱めてくれるわね。アンタに護衛されるなんて」


 苦々しく吐き捨てるように紗琥耶はこぼす。
 源は聞こえていないふりをしながら煙草に火を点けた。


「いつ終わんだ?」


「あと10分前後」


「かかんなぁ」


 ウンザリした口調で伸びをしていると、かつて同じように彼女の回復を待っていた記憶が蘇る。


『そぉだ、前はもっとおとなしかっぐったりしてたなコイツ』

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