T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 2-10
10
ロマネスク様式とゴシック様式の混在する街並みを、紗琥耶は鼻歌を歌いながら闊歩する。
「お嬢さん♪お挿れなさい♪鉛をたくさん身体中、火照りで茹だってイク前に♪」
源が聞けば渋面で「帰りてぇ」と呻くこと請け合いの言葉を吐く紗琥耶だが、彼女の前方と後方からは絶えず鉛玉が雨霰と降り注がれている。
一個小隊が前方に6人、後方に6人と見事な分隊作戦を展開していた。
その統率は、民兵にできる動きではない。訓練された兵士達の動きだ。
しかし、彼女が意に介することはなかった。
現に、何発もの弾丸が紗琥耶の身体にあたり、通り抜けている。
異常な光景に動揺した兵士達は、怒号や悲鳴が上げながら右往左往していた。
戦場では妙な噂が広まることが多いが、その一端はこのようなT.T.S.の目撃例であることも少なくない。
そんななか、紗琥耶はすぐ脇の路地に蹲る小猫を見つけて、道を折れた。
「ちっちっちっちっちっ、こっちおいでー」
怯え切った子猫を抱き上げて顎を撫でてやる。
一見意味のない行動だが、これにも立派な理由があった。
「イオ、この子の毛の付着成分、全部洗い出して」
〈了解しました〉
よっぽどの猫嫌いでない限り、こんな殺伐とした場所で怯える小猫を見付けたら頭を撫でてやりたくなるのが人情だ。ましてや相手は華のティーンエイジャーの女子、猫に触れない訳がない。
何かに触れると言う行為は、多くの情報を残す。例え小猫一匹取っても変わらない事実だ。
〈頭頂部より準強力粉を発見、蛋白、脂質、炭水化物の比率より、インスタント麺の原材料と類推〉
『はいビンゴー』
あと20年は待たねば世に現れない素材を手に付けた人物。
未来から来た者の確たる証拠を得た紗琥耶だったが、すぐに彼女を追って来た数人の兵士による面制圧が背後から襲った。
だが、同時に彼らは息を呑んだ。
青ざめた。
弾丸が通らない。
先ほどまでは幾ら撃たれても死ななかった不死身の女は今、無敵の防弾女に代わっていた。
「あのさぁ」
そして、あまつさえその防弾女は。
「いい加減鬱陶しいんだよね、雑兵ごときがさ」
Gespenstと、ある兵士が呟いた。女性の声だった。
もし源がいたら、即座に反応しただろう。
紗琥耶もドイツ語には明るい、ドイツ語で「化物」を意味する呟きに、目を細めた。
「へえ、アンタたちアイツと同郷なんだ」
スッと紗琥耶は小猫の目を手で覆い、もう片方の手を挙げる。
怯えた兵士たちが身構えるより早く、彼らの後頭部が爆発した。
「助かるわ。ナチってどれだけ殺しても問題ないんだから」
T.T.S.の規定上、普通は時空間跳躍先の現地人に手を下す事は認められていない。
しかし、人を資材としか見ていないファシズムの兵に関して言えば、末端の歩兵レベルになれば消耗品も同然、どこで誰が死んだかなど、誰も気にしないのだ。
「イこっか♪」
プルプルと震える小猫を撫でて、紗琥耶は路地を進んで行く。
ロマネスク様式とゴシック様式の混在する街並みを、紗琥耶は鼻歌を歌いながら闊歩する。
「お嬢さん♪お挿れなさい♪鉛をたくさん身体中、火照りで茹だってイク前に♪」
源が聞けば渋面で「帰りてぇ」と呻くこと請け合いの言葉を吐く紗琥耶だが、彼女の前方と後方からは絶えず鉛玉が雨霰と降り注がれている。
一個小隊が前方に6人、後方に6人と見事な分隊作戦を展開していた。
その統率は、民兵にできる動きではない。訓練された兵士達の動きだ。
しかし、彼女が意に介することはなかった。
現に、何発もの弾丸が紗琥耶の身体にあたり、通り抜けている。
異常な光景に動揺した兵士達は、怒号や悲鳴が上げながら右往左往していた。
戦場では妙な噂が広まることが多いが、その一端はこのようなT.T.S.の目撃例であることも少なくない。
そんななか、紗琥耶はすぐ脇の路地に蹲る小猫を見つけて、道を折れた。
「ちっちっちっちっちっ、こっちおいでー」
怯え切った子猫を抱き上げて顎を撫でてやる。
一見意味のない行動だが、これにも立派な理由があった。
「イオ、この子の毛の付着成分、全部洗い出して」
〈了解しました〉
よっぽどの猫嫌いでない限り、こんな殺伐とした場所で怯える小猫を見付けたら頭を撫でてやりたくなるのが人情だ。ましてや相手は華のティーンエイジャーの女子、猫に触れない訳がない。
何かに触れると言う行為は、多くの情報を残す。例え小猫一匹取っても変わらない事実だ。
〈頭頂部より準強力粉を発見、蛋白、脂質、炭水化物の比率より、インスタント麺の原材料と類推〉
『はいビンゴー』
あと20年は待たねば世に現れない素材を手に付けた人物。
未来から来た者の確たる証拠を得た紗琥耶だったが、すぐに彼女を追って来た数人の兵士による面制圧が背後から襲った。
だが、同時に彼らは息を呑んだ。
青ざめた。
弾丸が通らない。
先ほどまでは幾ら撃たれても死ななかった不死身の女は今、無敵の防弾女に代わっていた。
「あのさぁ」
そして、あまつさえその防弾女は。
「いい加減鬱陶しいんだよね、雑兵ごときがさ」
Gespenstと、ある兵士が呟いた。女性の声だった。
もし源がいたら、即座に反応しただろう。
紗琥耶もドイツ語には明るい、ドイツ語で「化物」を意味する呟きに、目を細めた。
「へえ、アンタたちアイツと同郷なんだ」
スッと紗琥耶は小猫の目を手で覆い、もう片方の手を挙げる。
怯えた兵士たちが身構えるより早く、彼らの後頭部が爆発した。
「助かるわ。ナチってどれだけ殺しても問題ないんだから」
T.T.S.の規定上、普通は時空間跳躍先の現地人に手を下す事は認められていない。
しかし、人を資材としか見ていないファシズムの兵に関して言えば、末端の歩兵レベルになれば消耗品も同然、どこで誰が死んだかなど、誰も気にしないのだ。
「イこっか♪」
プルプルと震える小猫を撫でて、紗琥耶は路地を進んで行く。
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