T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 2-7
7
地下1000km、下部マントルと呼ばれる地層。
21世紀初頭の人類では到達出来なかったそのフロアに、タイムマシンTLJ-4300SHの片割れ、吽號はある。
上下左右それぞれに展開する4枚のシャッターが開いた先には、半径500M程の半球状の空間が広がっていた。
フロアには多数の人感センサーが機銃やレーザー銃の銃口と共に四方八方に睨みを利かす。その数、計で20万台。地下施設の性質上、指向に限りはなく、天井や壁、床の隅々までもが射程に入っていた。
その一角が今、スーッと左右に道を開け、細い通路を作り出す。
源と紗琥耶の二人は、さながらモーセに先導されるイスラエル人の様にそこを進んで行った。
二人の向かう先、半球の中心には、四本の四角柱が屹立している。
柱の下には溝が四方八方に広がっており、今その柱達は間隔を狭めるべく静かに移動していた。そうして8畳程のスペースになった所で柱は動きを止め、代わりに薄緑色の光を纏い始める。
時を同じくして、地を這う無数の自律移動型ロボットの一つが、柱の方向に駆けて行った。床の感圧センサーに触れない様リニア式に浮遊するロボットは、柱の創り出す空間の前でピタリと動きを止め、その身に載せたタラップを伸ばす。
モーフィングの様に変化して行く景色の中、タラップが伸び切った先で大きな変化があった。
柱が纏うのと同色の光が、床として広がって行く。
VRの世界が顕在化した様なヴァーチャルな光景に、源と紗琥耶は眉一つ動かさずに足を踏み出した。
だが、確かにそこに床はあって、彼等はしっかり足を踏み締める。
亜実体物質。それがTLJ-4300SH吽號の正体だった。
概念と物質の境界を彷徨う物もどきは、地下に潜る際のワープ機構にも利用されている。
「相変わらずベタベタ髪が貼りつくのよねぇ……まあ?全身ヌメヌメで挿入れるにはいいんだけどさ」
「そぉか。生憎今お前に突っ込む奴ぁ誰もいねぇよ」
このフロアに至る直前にソリッドゾルの水槽に頭の先まで浸かって来た二人は、髪はベッタリと潰れ、全身が光沢を纏ってテカテカと床の色を反射させていた。
「跳ぶぞ?」
「いつでもイケるわよぉ」
源は視界に立ち上がる暗号通信プログラムに語り掛けた。
「ジジィ、行けんぞ。跳ばせ」
言うが早く、床と同じ光が壁と天井を形成し、輝き出す。
同時に、二人の身体が纏ったソリッドゾルも輝き出した。こちらは鮮やかな虹色だ。
目が痛くなる程強まって行く光に、二人は揃って目を瞑る。
ビリビリとソリッドゾルに走る紫電を感じながら、スズメバチの羽音の様な電磁波の音が多重な層を成すのを聞き届けた。
顔を顰める二人の輪郭はやがて光に飲まれて行く。
自分の手さえ確認出来ない光の渦の中、二人の体重が徐々に消えて行き、やがて二人は質量と言う概念から解放された。
いよいよ時間を超える瞬間を迎えた二人は、再び戻れるかも分からないこの時代に一旦別れを告げる。
「T.T.S.No.1。これより時空間跳躍イきまぁす」
「T.T.S.No.2。時空間跳躍してくらぁ。後ぁよろしくな」
2176年9月30日PM1:20。
二人の人間が、この世界から忽然と姿を消した。
地下1000km、下部マントルと呼ばれる地層。
21世紀初頭の人類では到達出来なかったそのフロアに、タイムマシンTLJ-4300SHの片割れ、吽號はある。
上下左右それぞれに展開する4枚のシャッターが開いた先には、半径500M程の半球状の空間が広がっていた。
フロアには多数の人感センサーが機銃やレーザー銃の銃口と共に四方八方に睨みを利かす。その数、計で20万台。地下施設の性質上、指向に限りはなく、天井や壁、床の隅々までもが射程に入っていた。
その一角が今、スーッと左右に道を開け、細い通路を作り出す。
源と紗琥耶の二人は、さながらモーセに先導されるイスラエル人の様にそこを進んで行った。
二人の向かう先、半球の中心には、四本の四角柱が屹立している。
柱の下には溝が四方八方に広がっており、今その柱達は間隔を狭めるべく静かに移動していた。そうして8畳程のスペースになった所で柱は動きを止め、代わりに薄緑色の光を纏い始める。
時を同じくして、地を這う無数の自律移動型ロボットの一つが、柱の方向に駆けて行った。床の感圧センサーに触れない様リニア式に浮遊するロボットは、柱の創り出す空間の前でピタリと動きを止め、その身に載せたタラップを伸ばす。
モーフィングの様に変化して行く景色の中、タラップが伸び切った先で大きな変化があった。
柱が纏うのと同色の光が、床として広がって行く。
VRの世界が顕在化した様なヴァーチャルな光景に、源と紗琥耶は眉一つ動かさずに足を踏み出した。
だが、確かにそこに床はあって、彼等はしっかり足を踏み締める。
亜実体物質。それがTLJ-4300SH吽號の正体だった。
概念と物質の境界を彷徨う物もどきは、地下に潜る際のワープ機構にも利用されている。
「相変わらずベタベタ髪が貼りつくのよねぇ……まあ?全身ヌメヌメで挿入れるにはいいんだけどさ」
「そぉか。生憎今お前に突っ込む奴ぁ誰もいねぇよ」
このフロアに至る直前にソリッドゾルの水槽に頭の先まで浸かって来た二人は、髪はベッタリと潰れ、全身が光沢を纏ってテカテカと床の色を反射させていた。
「跳ぶぞ?」
「いつでもイケるわよぉ」
源は視界に立ち上がる暗号通信プログラムに語り掛けた。
「ジジィ、行けんぞ。跳ばせ」
言うが早く、床と同じ光が壁と天井を形成し、輝き出す。
同時に、二人の身体が纏ったソリッドゾルも輝き出した。こちらは鮮やかな虹色だ。
目が痛くなる程強まって行く光に、二人は揃って目を瞑る。
ビリビリとソリッドゾルに走る紫電を感じながら、スズメバチの羽音の様な電磁波の音が多重な層を成すのを聞き届けた。
顔を顰める二人の輪郭はやがて光に飲まれて行く。
自分の手さえ確認出来ない光の渦の中、二人の体重が徐々に消えて行き、やがて二人は質量と言う概念から解放された。
いよいよ時間を超える瞬間を迎えた二人は、再び戻れるかも分からないこの時代に一旦別れを告げる。
「T.T.S.No.1。これより時空間跳躍イきまぁす」
「T.T.S.No.2。時空間跳躍してくらぁ。後ぁよろしくな」
2176年9月30日PM1:20。
二人の人間が、この世界から忽然と姿を消した。
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