T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 1-3
~2176年9月30日AM11:23 東京~
目を開けると、自宅とは違う天井がそこにあった。
合掌造りの様な急傾斜で高く伸びる天をぼんやり眺めていると、段々と違和感を憶えて行く。
「ここって……」
ズキリと痛む頭に顔を顰めつつ、身体を起こす。
拳大の超小型ドローンが複数台飛び回り、スキャニングレーザーで全身を隈なく調べていた。
ボーっとその光景を眺めていると、傍らのカーテンが開き、絵美の視線はそちらに吸い寄せられた。
「あら、お目覚めね?」
太い声と大きな身体が、絵美を迎えた。
「オースティン、さん?」
マダムオースティン。
T.T.S.のフィジカル面の健康管理を一手に担う専属医師だ。
女性の心を持ちながらも、「力仕事も多いから」と男性の肉体である事を選んだLGBTの崇高な医療人だ。
「珍しく紗琥耶ちゃんが連絡して来たと思ったら、これまた珍しく絵美ちゃんが倒れた、なんて聞いたから驚いたわよ」
ベッドサイドに来たマダムオースティンは、そう言いながら絵美の頭を優しく撫でた。
絵美は、されるがままになりながら、小さく呟く。
「……すみません、ご迷惑をお掛けして」
マダムオースティンは優しく微笑んで応える。
「病人が謝るものではないわ。それに、貴女は普段から皆を纏め上げているんだから、少しは休まなきゃ」
皆、と言う言葉で、絵美は思いを巡らせた。
そもそも自分がどうやって遠く離れた職場の病院まで来たのか、を。
「……そうだ、紗琥耶」
起き上がろうとする絵美を、マダムオースティンがそっと抑え、寝かし付ける。
「過労とインフルエンザのダブルパンチよ。紗琥耶ちゃんにも伝えてあるから、お礼は後にして、今は寝ておきなさい。それに聞いたわよ、昨日の夜、随分遅くに帰宅したそうじゃない。駄目じゃない、雨の日にそんな無茶しちゃ」
「……ごめんなさい」
マダムオースティンは再び絵美の頭を撫で始める。
「お花、買って帰ったんですってね」
「ええ……今日、命日ですから」
「そうね……でも、だからって貴女が身体を壊す必要はどこにもないの。自分を大事になさい」
「……はい」
母娘の様な遣り取りを続ける中で、絵美の心は落ち着いて行った。
だが、平穏とはあっけなく脅かされるのが世の常で。
遠くから、混沌が近付いて来る。
「もうどこよ!ドア多すぎて分っかんない!」
「だろぉな、そぉ言う構造してんだから」
「ちょっと!あんたも走ってよ!」
「何で俺が走んなきゃなんねぇんだよ、テメェが落ち着きゃ済む話だろぉが」
片方はよく聞く声、もう一つは、久しぶりに聞く声だ。
そして両者は共に、考え得る限り最も絵美にストレスを与える連中だ。
自然と顰めていた顔をジーっと見られる気配がして、絵美は顔を手で覆った。
『ごめんなさいマダム……本っ当にごめんなさい……』
もはやインフルエンザ由来かストレス由来なのか分からない頭痛にイライラしながら、絵美は静かに自身の靴を拾い上げる。
そして絵美は。
「絵美さん!」
勢いよく扉を開けたロサの顔面目掛けて思い切り靴を投げ付けた。
目を開けると、自宅とは違う天井がそこにあった。
合掌造りの様な急傾斜で高く伸びる天をぼんやり眺めていると、段々と違和感を憶えて行く。
「ここって……」
ズキリと痛む頭に顔を顰めつつ、身体を起こす。
拳大の超小型ドローンが複数台飛び回り、スキャニングレーザーで全身を隈なく調べていた。
ボーっとその光景を眺めていると、傍らのカーテンが開き、絵美の視線はそちらに吸い寄せられた。
「あら、お目覚めね?」
太い声と大きな身体が、絵美を迎えた。
「オースティン、さん?」
マダムオースティン。
T.T.S.のフィジカル面の健康管理を一手に担う専属医師だ。
女性の心を持ちながらも、「力仕事も多いから」と男性の肉体である事を選んだLGBTの崇高な医療人だ。
「珍しく紗琥耶ちゃんが連絡して来たと思ったら、これまた珍しく絵美ちゃんが倒れた、なんて聞いたから驚いたわよ」
ベッドサイドに来たマダムオースティンは、そう言いながら絵美の頭を優しく撫でた。
絵美は、されるがままになりながら、小さく呟く。
「……すみません、ご迷惑をお掛けして」
マダムオースティンは優しく微笑んで応える。
「病人が謝るものではないわ。それに、貴女は普段から皆を纏め上げているんだから、少しは休まなきゃ」
皆、と言う言葉で、絵美は思いを巡らせた。
そもそも自分がどうやって遠く離れた職場の病院まで来たのか、を。
「……そうだ、紗琥耶」
起き上がろうとする絵美を、マダムオースティンがそっと抑え、寝かし付ける。
「過労とインフルエンザのダブルパンチよ。紗琥耶ちゃんにも伝えてあるから、お礼は後にして、今は寝ておきなさい。それに聞いたわよ、昨日の夜、随分遅くに帰宅したそうじゃない。駄目じゃない、雨の日にそんな無茶しちゃ」
「……ごめんなさい」
マダムオースティンは再び絵美の頭を撫で始める。
「お花、買って帰ったんですってね」
「ええ……今日、命日ですから」
「そうね……でも、だからって貴女が身体を壊す必要はどこにもないの。自分を大事になさい」
「……はい」
母娘の様な遣り取りを続ける中で、絵美の心は落ち着いて行った。
だが、平穏とはあっけなく脅かされるのが世の常で。
遠くから、混沌が近付いて来る。
「もうどこよ!ドア多すぎて分っかんない!」
「だろぉな、そぉ言う構造してんだから」
「ちょっと!あんたも走ってよ!」
「何で俺が走んなきゃなんねぇんだよ、テメェが落ち着きゃ済む話だろぉが」
片方はよく聞く声、もう一つは、久しぶりに聞く声だ。
そして両者は共に、考え得る限り最も絵美にストレスを与える連中だ。
自然と顰めていた顔をジーっと見られる気配がして、絵美は顔を手で覆った。
『ごめんなさいマダム……本っ当にごめんなさい……』
もはやインフルエンザ由来かストレス由来なのか分からない頭痛にイライラしながら、絵美は静かに自身の靴を拾い上げる。
そして絵美は。
「絵美さん!」
勢いよく扉を開けたロサの顔面目掛けて思い切り靴を投げ付けた。
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