T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.0 The Christmas Miraculous offstage Chapter 3-8




 城野夕貴。
 彼女の名前を漢字の意味上で対義に置く。
 但し、城だけは素に変えて考える。


 (城)人と玄人。
 野原と山岳。
 夕日と朝日。
 貴顕と眉焦。


 そら、浮かび上がった。
 罪深き物の名が。
 玄山朝眉。
 彼女に父はいない。
 死別か?
 否。
 離婚か?
 否。
 父は遠い所にいるのだ、と彼女の母は言った。


 では、彼女の母は何者なのか?


 彼女の母は元政治家志望だった。
 しかしその夢は、大学最後の一年、アルバイトの秘書として働き出したある日、呆気なくも儚く、散った。


 仕えていた議員の性的暴行で、夕貴を身籠ったのだ。


 彼女の母の両親は、目も眩む様な数の0の列と老後の楽園を前に、アッサリ娘と娘の夢を切り捨てた。


 そうして、彼女の母は学んだ。
 悔いて、恨んだ。
 怨憎して、憎悪して、嫌悪した。
 その対象は、議員にも両親にも、青臭かったかつての自身にも向いた。
 だから、そんな昔の自分にどんどん似る彼女が。
 そして、そんな彼女が、あの議員の息子と恋仲にあるという事実が。
 恐ろしくて、憎らしくて仕方がなかったのかもしれない。


 最期は、実に寂しいものだった。
 血のソースと人間の死体を具にしたサンドウィッチは、生地の布団にたっぷりとソースを含ませ、左手首を一閃した包丁をも挟んでいた。
 そしてサンドウィッチにはナプキンを添えるのが常識である様に、その枕元には三通の書簡が添えられていた。


 内容は、実にシンプルなものだった。


 大隈秀介のDNA照合結果。


 城野夕貴のDNA照合結果。


 そして。


 ごめんなさい、とだけ綴られた便箋一枚。


 そうして、その年のクリスマスイブ。
 城野夕貴は死者となった。

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