T.T.S.
FileNo.0 The Christmas Miraculous offstage Chapter 3-6
6
寒さだけではないのだろう、震える唇を何とかこじ開けて、大隈は尋ねた。
「未来人なんだな?本当に?」
「ええ」
これまで沈黙を通し脇役に徹して来た絵美が頷くと、いよいよ大隈は逃げ場をなくして視線を地に落とした。
肩を落としたご先祖様に、玄山は語り掛ける。
「まあそういった訳で、俺は貴方の子孫な訳だ」
そう言い終える間際、大隈の、玄山と同じ声が漏れ出た。
しかしながら、それは風に流された音節にしかならなかった。
玄山は訊き返す。
「……何だって?」
「すまなかった!」
唐突に、大隈は声高に謝罪し腰を折って頭を下げた。
その素直さに、ストレートフラッシュの二人は目を見合わせる。
何故なら、それは彼等が想定していた、言い換えれば、この時代の警察が読み取った犯人像とは余りに掛け離れた行動だったからだ。
プロファイリング。遠い未来ではロストテクノロジーと成れ果てた人物洞察術が割り出した人物像は、大隈秀介という人物を大まかにこう分析した。
【沈着冷静かつ冷酷無比に目標を達成する酷薄なまでの手際の良さを持つ一方、殺害状況は破廉恥な程に衆人環視の下で行われた側面から、被疑者の容疑者に対する並々ならぬ憎悪を伺わせる。遺体すら辱めるその人道無視かつ宥恕のない姿勢にはある種の異常性すらも感じさせる。その徹底ぶりには精神病質性を伺わせる。】
つまり、大隈秀介は精神病質者であると警察は睨んだのだ。
では、この大隈の姿はなんだ。
遠い未来に責任を感じ、その血を分けた者に己の非を侘び、頭を下げている。
それは、普通の人間のする事だ。
社会的責任を認知し、一般倫理の下に身を置き、まともに未来を思い描ける人間の採る行為だ。
プロファイリングが正しいのならば、あの分析が正鵠を射ているというのならば、そんな事は有り得ない。こんな状況は起こり得ない。
しかしそれは、今になってみれば当たり前の事だ。
本件の真の下手人は大隈秀介ではない。
今し方本人が言った様に、未来からの闖入者が引き起こした。
つまり――
低く低く下げられた大隈の肩に手を当て、下手人は笑顔で言った。
「いいじゃないですか、あんなクズより価値の無い売女なんて」
たとえ外見と遺伝子情報が同一であれど、気性や品性までもが同一とは限らない。
この時間の警察が捉えた精神病質者。
その真名は、玄山英嗣。
「どうせ殺したって死にはしない。正直、俺はもっと刺しても良かったと後悔している位ですよ」
どっと一際強い風が吹き抜けた。
咥えていた煙草の煙が目に染みたのか、精神病質者は鬱陶しそうに頭を振る。
そして人の痛みを解さない、人を傷付ける意味を追わない、社会性生物のバグは鼻を鳴らして笑った。
「まあでも、貴方も似たり寄ったりか……全く、親父さん共々クズばっかりだなお前達は」
「もう止めなさい!一体何人傷付ければ気が済むの!」
突如割り込んだのは、そんな声だった。
波風なんてまるで感じさせない、どこまでもフラットな理性を感じさせる眼差しで、玄山は声の主を見やる。
そこには、正岡絵美の真剣な眼差しが真っ直ぐ注がれていた。
「貴方の境遇は聞いたわ。正直言葉も無いわよ。でもね、だからって、そんな事をしても何も変わらないって、分かっているでしょう?」
『意味ねぇぞ、そんな言葉』
そうは思っていても、源は言葉に出来なかった。
己の相棒が肩を震わせてまで必死に行う説得を、邪魔する気には――
『……あれ?そぉいや俺玄山の事聞ぃてねぇぞ』
なった。
《絵美、そぉいや俺紙園さん家のエリちんのお話まだ聞ぃてねぇや。送ってくんね?》
空気とか雰囲気とかそんなもんはどうでもいいと吐き捨てる様な乱暴な割り込みに、思わず絵美は殺意の籠った眼差しを相棒に送ってしまった。
寒さだけではないのだろう、震える唇を何とかこじ開けて、大隈は尋ねた。
「未来人なんだな?本当に?」
「ええ」
これまで沈黙を通し脇役に徹して来た絵美が頷くと、いよいよ大隈は逃げ場をなくして視線を地に落とした。
肩を落としたご先祖様に、玄山は語り掛ける。
「まあそういった訳で、俺は貴方の子孫な訳だ」
そう言い終える間際、大隈の、玄山と同じ声が漏れ出た。
しかしながら、それは風に流された音節にしかならなかった。
玄山は訊き返す。
「……何だって?」
「すまなかった!」
唐突に、大隈は声高に謝罪し腰を折って頭を下げた。
その素直さに、ストレートフラッシュの二人は目を見合わせる。
何故なら、それは彼等が想定していた、言い換えれば、この時代の警察が読み取った犯人像とは余りに掛け離れた行動だったからだ。
プロファイリング。遠い未来ではロストテクノロジーと成れ果てた人物洞察術が割り出した人物像は、大隈秀介という人物を大まかにこう分析した。
【沈着冷静かつ冷酷無比に目標を達成する酷薄なまでの手際の良さを持つ一方、殺害状況は破廉恥な程に衆人環視の下で行われた側面から、被疑者の容疑者に対する並々ならぬ憎悪を伺わせる。遺体すら辱めるその人道無視かつ宥恕のない姿勢にはある種の異常性すらも感じさせる。その徹底ぶりには精神病質性を伺わせる。】
つまり、大隈秀介は精神病質者であると警察は睨んだのだ。
では、この大隈の姿はなんだ。
遠い未来に責任を感じ、その血を分けた者に己の非を侘び、頭を下げている。
それは、普通の人間のする事だ。
社会的責任を認知し、一般倫理の下に身を置き、まともに未来を思い描ける人間の採る行為だ。
プロファイリングが正しいのならば、あの分析が正鵠を射ているというのならば、そんな事は有り得ない。こんな状況は起こり得ない。
しかしそれは、今になってみれば当たり前の事だ。
本件の真の下手人は大隈秀介ではない。
今し方本人が言った様に、未来からの闖入者が引き起こした。
つまり――
低く低く下げられた大隈の肩に手を当て、下手人は笑顔で言った。
「いいじゃないですか、あんなクズより価値の無い売女なんて」
たとえ外見と遺伝子情報が同一であれど、気性や品性までもが同一とは限らない。
この時間の警察が捉えた精神病質者。
その真名は、玄山英嗣。
「どうせ殺したって死にはしない。正直、俺はもっと刺しても良かったと後悔している位ですよ」
どっと一際強い風が吹き抜けた。
咥えていた煙草の煙が目に染みたのか、精神病質者は鬱陶しそうに頭を振る。
そして人の痛みを解さない、人を傷付ける意味を追わない、社会性生物のバグは鼻を鳴らして笑った。
「まあでも、貴方も似たり寄ったりか……全く、親父さん共々クズばっかりだなお前達は」
「もう止めなさい!一体何人傷付ければ気が済むの!」
突如割り込んだのは、そんな声だった。
波風なんてまるで感じさせない、どこまでもフラットな理性を感じさせる眼差しで、玄山は声の主を見やる。
そこには、正岡絵美の真剣な眼差しが真っ直ぐ注がれていた。
「貴方の境遇は聞いたわ。正直言葉も無いわよ。でもね、だからって、そんな事をしても何も変わらないって、分かっているでしょう?」
『意味ねぇぞ、そんな言葉』
そうは思っていても、源は言葉に出来なかった。
己の相棒が肩を震わせてまで必死に行う説得を、邪魔する気には――
『……あれ?そぉいや俺玄山の事聞ぃてねぇぞ』
なった。
《絵美、そぉいや俺紙園さん家のエリちんのお話まだ聞ぃてねぇや。送ってくんね?》
空気とか雰囲気とかそんなもんはどうでもいいと吐き捨てる様な乱暴な割り込みに、思わず絵美は殺意の籠った眼差しを相棒に送ってしまった。
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