お前ら『神器』って自覚ある?
8話
「準備はいいな?ケガをする事はないが、痛みはある……ああ、言い忘れていたが、自分で負った傷は反映されるからな?」
「自分で負った傷……って、なんすか?」
「相手の攻撃によるケガではなく、自分で勝手に転んだり、自分の『神器』が自分に当たってしまったりした場合の事だ。その際はケガもするし、血も出るから……気を付けろよ」
「なるほど……頑張れよアルバトス!」
セシル先生の言葉と、レテインの声に無言で頷く。
俺の向かい側には、殺意に満ちたサリスが立っていた。
「……ソフィア、今回はお前も来い」
「了解しました、ご主人様」
左手にはリリアナ、右手にはアルマ。そして、俺の背中に抱きつくようにソフィアが飛び付いた。
「それでは……構えろ!」
「〈我、神の創造せし武具を操りし者。結ばれし契約に従い、汝に真の名を与えん〉」
サリスの詠唱に従い、隣のトリアが輝き始める。
「〈我が下に目覚めよ―――愚民を踏み潰す絶対神の鎚、『魔鎚 ミョルニル』〉」
どんどんトリアが小さくなり……片手鎚に変身。
ブンッと『ミョルニル』を振り、お前も早く構えろ、とサリスが俺を睨み付ける。
「……やるぞ、お前ら」
「えぇ」
「おー!」
「はい」
「〈我、神の創造せし武具を操りし者。結ばれし契約に従い、汝に真の名を与えん〉」
左手のリリアナが、右手のアルマが、背中のソフィアが輝き始め、姿を変えていく。
「〈我が下に目覚めよ―――魔を払いし聖なる剣、『聖剣 エクスカリバー』〉」
俺の左手に、全てを斬り裂く『聖剣』が握られる。
「〈我が下に目覚めよ―――生命を守りし守護の盾、『聖盾 イージス』〉」
俺の右手に、全知全能の『聖盾』が握られる。
「〈我が下に目覚めよ―――着る者を癒す優しき鎧、『聖鎧 アイギス』〉」
俺の体に、勇気を与えてくれる『聖鎧』が装備される。
……ああ、もう―――負ける気がしない。
「いいな?では―――始めッ!」
「〈震えろ愚民、恐れろ愚者。神の下に抗う事は許されないのだ〉―――ッ!」
『〈トール・インパクト〉』
開始と同時、サリスが大きく飛び上がり、魔鎚を構えた。
……あれは……クレーターの……!
「アルマッ!耐えるぞッ!」
『う、うん!任せてご主人様っ!』
腰を落とし、『聖盾』を構える。
いつ衝撃が来ても耐えられるように、右腕と両足に力を入れて体勢を整え―――
『ズドッ―――ゴォオオオオオオオンンッッ!!』
「アルバトスッ!」
焦ったようなレテインの声。
粉塵が立ち込める闘技場を見て、Sクラスの生徒が息を呑み……近くにいた先輩たちも、度肝を抜かれている。
誰もがサリスの勝利を確信する中―――サリスだけは、立ち込める砂ぼこりに鋭い視線を向けていた。
「―――〈聖なる力よ。今ここに集いて、森羅万象を裂く刃とならん〉ッ!」
『〈グラン・セイバー〉ッ!』
粉塵を裂き、全てを斬り裂く斬撃が現れ、飛び上がったままのサリスに迫る。
小さく舌打ちするサリスが、斬撃を殺そうと魔鎚を振り―――ガギッ!と鈍い音を立て、サリスがぶっ飛んだ。
勢い良く床に叩き付けられ、だがすぐに起き上がり、殺意に満ちた眼で粉塵を睨み付ける。
「はぁ……死ぬかと思った……」
『スゴいスゴーい!ご主人様さっすがー!』
なんとか生きている事にホッと息を吐き、粉塵を払いながら前に出る。
俺の姿を見たSクラスの生徒や先輩が、おおっ……と意外そうな声を出した。
……なんだよ、今ので負けたと思われてたのか?舐められてるな、俺。
「なんで、お前、生きて……!攻撃、直撃、した、はず……!どんな、インチキ、使った……!」
「んあ?……お前、うちのアルマ舐めてんの?破壊力だけで『聖盾』を砕けると思ってんなら―――その考え、ぶった斬ってやるぞ?」
「―――ッ?!」
サリスの顔が、殺意に満ちた表情から、畏怖と恐怖が入り混じった表情へと変化する。
……なんか、サリスの人間らしい表情って、初めて見た気がする。
いつも無表情で、あとは怒った顔か殺気に満ちた表情しかないし。
『ご主人、本気出すんだったら早くしてよね。『血力解放』は、体力が少なかったらキツいんだから』
「わかってるよ……まあでも、こいつくらいなら『血力解放』を使うまでもないな」
バカにしているつもりはないが……サリス程度なら、本気のリリアナたちを使うまでもない。
「ムカ、つく……!ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく……ッ!」
『サリス、ちょっと落ち着いて―――』
「うるさい、トリア……!〈震えろ愚民、恐れろ愚者。神の下に抗う事は許されないのだ〉……!」
『……〈トール・インパクト〉ッ!』
再び、サリスが飛び上がった。
それに対し、俺は『聖剣』を構えて腰を落とし、迎撃の姿勢を取った。
俺の動作を挑発と受け取ったのか、サリスの眼がキリキリとつり上がり―――魔鎚を振った。
「〈聖なる力よ。今ここに集いて、森羅万象を裂く刃とならん〉」
『〈グラン・セイバー〉ッ!』
迫る不可視の攻撃に対し、俺は斬撃を放った。
これは、俺の予想でしかないが……おそらく『ミョルニル』の性能は、『聖剣』と似ている。
『聖剣 エクスカリバー』の能力は、剣を振った際に生じた風圧を、何十倍、何百倍にも増幅して斬撃として飛ばす〈グラン・セイバー〉だ。
そして、『ミョルニル』の能力は、俺の予想が正しければ―――『聖剣』と同じく、風圧を倍増して放つ能力だ。
しかも、その風圧を自身では制御しきれていない。だから〈トール・インパクト〉を使う時、上空に飛び上がって、自分に被害が出ないようにしている。
「なっ―――く、ぐっ?!」
俺の斬撃が不可視の風圧を裂き、その先にいたサリスを斬り裂かんと迫るが―――間一髪で魔鎚に受け止められ、サリスがグラウンドの端へと吹き飛ばされる。
「……なぁセシル先生、これって場外とかないのか?」
「あ、ああ……場外に出て10秒以内に試合場に戻ってこれなかったら場外負けになるが……」
……10秒以内か……長いな。
スゴい勢いでぶっ飛んだけど……あのくらいじゃ、サリスは戻ってくるだろ。
「す、すっげぇ……!アルバトス、やべぇな!」
「あァ……力も速さもハンパねェ。なんっつーバケモンだアイツァ……?」
「……強いね、彼」
「へー……おもしろいなー、アルバトス」
レテインが興奮したように声を上げ、グローリアが腕を組みながら眼を細める。
その後ろに立つバルトナが感心したように言葉を溢し、隣のジェルムが面白い物でも見ているかのように笑みを浮かべた。
「―――この、クソ、野郎……!」
「おうおう、すげぇ言われようだな」
『クソ……野郎……あ、はぁ……♪な、なかなか、グサッと刺さりますねぇぇぇ……♪』
「お前は黙ってろ」
素早く戻ってきたサリスが、再び魔鎚を構える。
……なんかもう、めんどくさいな。
そろそろ―――俺の『本気』の片鱗でも見せてやるか。
「……向かってくる心の強さに敬意を表して、俺の本気……その一端を見せてやる」
「バカ、に、して……!」
キレるサリス……対する俺は―――
―――自分の右掌を、薄く切った。
「な……は、あ?」
「な、何やってんだアルバトス?!」
気の抜けたようなサリスの声と、どこか焦ったようなレテインの声が耳に届く。
その言葉に返事する事なく、俺は―――流れ出る血を、『聖剣』に垂らした。
俺の血に反応するように、『聖剣』がドクンッと脈打ち……不思議な模様が走り始める。
「―――〈我が下に目覚めし『神器』よ。今、我が血を糧とし、真の姿を現せ〉」
『あ、ああっ、あああああああああああああああああああああああああああッッ!!』
脈打つ音が大きくなり、『聖剣』からリリアナの絶叫が聞こえる。
「〈光を払え―――全てを切り裂く破壊の剣、『魔剣 デストロイヤー』〉」
白く美しい『聖剣』が―――黒く濁った、禍々しい『魔剣』へと変化。
これが『聖剣』の……いや、リリアナの本当の姿だ。
「……さあ……続けようか」
『あ、はは……あっははははははははははははははははははははははっ!懐かしいわこの感じ!ご主人と一体になったみたいな感覚!ああ……昂る!昂るわッ!』
「相変わらず『血力解放』するとやかましいな……」
『魔剣』を構え―――ふと、右手がベトベトしている事に気づく。
視線を落とし……そこには、血塗れになった俺の右手が。
……あ、そっか。そういや掌を切ってからほったらかしにしてたな。
「……ソフィア」
『はい』
「〈揺るぎない勇気よ。今ここに顕現し、全てを癒す安らぎとならん〉」
『〈ブレイブ・ヒール〉』
俺の詠唱に従い、『聖鎧』が輝き始め、光が俺の体を包み込んだ。
すると、右手の傷が凄まじい速さで治り―――傷の跡すら残さず、元の右手に戻る。
これが『聖鎧』の能力。着る者の傷を癒す力だ。
「そ、んな……そんなの、インチキ……!何しても、ムダ、じゃない……!」
「まあ、相性が悪かったと思うんだな」
呆然と俺を見るサリスが、戦意喪失したように呟く。
……さて、見せてやろう。
この我の、本当の力を―――!
「〈闇は満ちた。魔剣よ、今ここに暗黒なる力を解き放ち、光を払いて全てを無に還せ〉―――!」
『〈ジ・エンド〉ッ!』
スィ―――ン……と、薄っぺらい音。
だが直後―――空間が斬れた。
空は裂け、地面は割れ、辺りに暴風が吹き荒れ―――サリスが、力なく地面に倒れた。
傷は無いはずだが……痛みはある。
今サリスの体には……体を真っ二つに斬られるのと同じくらいの痛みがあるはずだ。
「……我は、こいつらに見合う『神器使い』になるために、この10年間、死ぬ気で訓練してきたんだ……自分の『神器』の能力も満足に扱えないお前に、負ける方が難しい」
「勝者、アルバトスッ!」
「自分で負った傷……って、なんすか?」
「相手の攻撃によるケガではなく、自分で勝手に転んだり、自分の『神器』が自分に当たってしまったりした場合の事だ。その際はケガもするし、血も出るから……気を付けろよ」
「なるほど……頑張れよアルバトス!」
セシル先生の言葉と、レテインの声に無言で頷く。
俺の向かい側には、殺意に満ちたサリスが立っていた。
「……ソフィア、今回はお前も来い」
「了解しました、ご主人様」
左手にはリリアナ、右手にはアルマ。そして、俺の背中に抱きつくようにソフィアが飛び付いた。
「それでは……構えろ!」
「〈我、神の創造せし武具を操りし者。結ばれし契約に従い、汝に真の名を与えん〉」
サリスの詠唱に従い、隣のトリアが輝き始める。
「〈我が下に目覚めよ―――愚民を踏み潰す絶対神の鎚、『魔鎚 ミョルニル』〉」
どんどんトリアが小さくなり……片手鎚に変身。
ブンッと『ミョルニル』を振り、お前も早く構えろ、とサリスが俺を睨み付ける。
「……やるぞ、お前ら」
「えぇ」
「おー!」
「はい」
「〈我、神の創造せし武具を操りし者。結ばれし契約に従い、汝に真の名を与えん〉」
左手のリリアナが、右手のアルマが、背中のソフィアが輝き始め、姿を変えていく。
「〈我が下に目覚めよ―――魔を払いし聖なる剣、『聖剣 エクスカリバー』〉」
俺の左手に、全てを斬り裂く『聖剣』が握られる。
「〈我が下に目覚めよ―――生命を守りし守護の盾、『聖盾 イージス』〉」
俺の右手に、全知全能の『聖盾』が握られる。
「〈我が下に目覚めよ―――着る者を癒す優しき鎧、『聖鎧 アイギス』〉」
俺の体に、勇気を与えてくれる『聖鎧』が装備される。
……ああ、もう―――負ける気がしない。
「いいな?では―――始めッ!」
「〈震えろ愚民、恐れろ愚者。神の下に抗う事は許されないのだ〉―――ッ!」
『〈トール・インパクト〉』
開始と同時、サリスが大きく飛び上がり、魔鎚を構えた。
……あれは……クレーターの……!
「アルマッ!耐えるぞッ!」
『う、うん!任せてご主人様っ!』
腰を落とし、『聖盾』を構える。
いつ衝撃が来ても耐えられるように、右腕と両足に力を入れて体勢を整え―――
『ズドッ―――ゴォオオオオオオオンンッッ!!』
「アルバトスッ!」
焦ったようなレテインの声。
粉塵が立ち込める闘技場を見て、Sクラスの生徒が息を呑み……近くにいた先輩たちも、度肝を抜かれている。
誰もがサリスの勝利を確信する中―――サリスだけは、立ち込める砂ぼこりに鋭い視線を向けていた。
「―――〈聖なる力よ。今ここに集いて、森羅万象を裂く刃とならん〉ッ!」
『〈グラン・セイバー〉ッ!』
粉塵を裂き、全てを斬り裂く斬撃が現れ、飛び上がったままのサリスに迫る。
小さく舌打ちするサリスが、斬撃を殺そうと魔鎚を振り―――ガギッ!と鈍い音を立て、サリスがぶっ飛んだ。
勢い良く床に叩き付けられ、だがすぐに起き上がり、殺意に満ちた眼で粉塵を睨み付ける。
「はぁ……死ぬかと思った……」
『スゴいスゴーい!ご主人様さっすがー!』
なんとか生きている事にホッと息を吐き、粉塵を払いながら前に出る。
俺の姿を見たSクラスの生徒や先輩が、おおっ……と意外そうな声を出した。
……なんだよ、今ので負けたと思われてたのか?舐められてるな、俺。
「なんで、お前、生きて……!攻撃、直撃、した、はず……!どんな、インチキ、使った……!」
「んあ?……お前、うちのアルマ舐めてんの?破壊力だけで『聖盾』を砕けると思ってんなら―――その考え、ぶった斬ってやるぞ?」
「―――ッ?!」
サリスの顔が、殺意に満ちた表情から、畏怖と恐怖が入り混じった表情へと変化する。
……なんか、サリスの人間らしい表情って、初めて見た気がする。
いつも無表情で、あとは怒った顔か殺気に満ちた表情しかないし。
『ご主人、本気出すんだったら早くしてよね。『血力解放』は、体力が少なかったらキツいんだから』
「わかってるよ……まあでも、こいつくらいなら『血力解放』を使うまでもないな」
バカにしているつもりはないが……サリス程度なら、本気のリリアナたちを使うまでもない。
「ムカ、つく……!ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく……ッ!」
『サリス、ちょっと落ち着いて―――』
「うるさい、トリア……!〈震えろ愚民、恐れろ愚者。神の下に抗う事は許されないのだ〉……!」
『……〈トール・インパクト〉ッ!』
再び、サリスが飛び上がった。
それに対し、俺は『聖剣』を構えて腰を落とし、迎撃の姿勢を取った。
俺の動作を挑発と受け取ったのか、サリスの眼がキリキリとつり上がり―――魔鎚を振った。
「〈聖なる力よ。今ここに集いて、森羅万象を裂く刃とならん〉」
『〈グラン・セイバー〉ッ!』
迫る不可視の攻撃に対し、俺は斬撃を放った。
これは、俺の予想でしかないが……おそらく『ミョルニル』の性能は、『聖剣』と似ている。
『聖剣 エクスカリバー』の能力は、剣を振った際に生じた風圧を、何十倍、何百倍にも増幅して斬撃として飛ばす〈グラン・セイバー〉だ。
そして、『ミョルニル』の能力は、俺の予想が正しければ―――『聖剣』と同じく、風圧を倍増して放つ能力だ。
しかも、その風圧を自身では制御しきれていない。だから〈トール・インパクト〉を使う時、上空に飛び上がって、自分に被害が出ないようにしている。
「なっ―――く、ぐっ?!」
俺の斬撃が不可視の風圧を裂き、その先にいたサリスを斬り裂かんと迫るが―――間一髪で魔鎚に受け止められ、サリスがグラウンドの端へと吹き飛ばされる。
「……なぁセシル先生、これって場外とかないのか?」
「あ、ああ……場外に出て10秒以内に試合場に戻ってこれなかったら場外負けになるが……」
……10秒以内か……長いな。
スゴい勢いでぶっ飛んだけど……あのくらいじゃ、サリスは戻ってくるだろ。
「す、すっげぇ……!アルバトス、やべぇな!」
「あァ……力も速さもハンパねェ。なんっつーバケモンだアイツァ……?」
「……強いね、彼」
「へー……おもしろいなー、アルバトス」
レテインが興奮したように声を上げ、グローリアが腕を組みながら眼を細める。
その後ろに立つバルトナが感心したように言葉を溢し、隣のジェルムが面白い物でも見ているかのように笑みを浮かべた。
「―――この、クソ、野郎……!」
「おうおう、すげぇ言われようだな」
『クソ……野郎……あ、はぁ……♪な、なかなか、グサッと刺さりますねぇぇぇ……♪』
「お前は黙ってろ」
素早く戻ってきたサリスが、再び魔鎚を構える。
……なんかもう、めんどくさいな。
そろそろ―――俺の『本気』の片鱗でも見せてやるか。
「……向かってくる心の強さに敬意を表して、俺の本気……その一端を見せてやる」
「バカ、に、して……!」
キレるサリス……対する俺は―――
―――自分の右掌を、薄く切った。
「な……は、あ?」
「な、何やってんだアルバトス?!」
気の抜けたようなサリスの声と、どこか焦ったようなレテインの声が耳に届く。
その言葉に返事する事なく、俺は―――流れ出る血を、『聖剣』に垂らした。
俺の血に反応するように、『聖剣』がドクンッと脈打ち……不思議な模様が走り始める。
「―――〈我が下に目覚めし『神器』よ。今、我が血を糧とし、真の姿を現せ〉」
『あ、ああっ、あああああああああああああああああああああああああああッッ!!』
脈打つ音が大きくなり、『聖剣』からリリアナの絶叫が聞こえる。
「〈光を払え―――全てを切り裂く破壊の剣、『魔剣 デストロイヤー』〉」
白く美しい『聖剣』が―――黒く濁った、禍々しい『魔剣』へと変化。
これが『聖剣』の……いや、リリアナの本当の姿だ。
「……さあ……続けようか」
『あ、はは……あっははははははははははははははははははははははっ!懐かしいわこの感じ!ご主人と一体になったみたいな感覚!ああ……昂る!昂るわッ!』
「相変わらず『血力解放』するとやかましいな……」
『魔剣』を構え―――ふと、右手がベトベトしている事に気づく。
視線を落とし……そこには、血塗れになった俺の右手が。
……あ、そっか。そういや掌を切ってからほったらかしにしてたな。
「……ソフィア」
『はい』
「〈揺るぎない勇気よ。今ここに顕現し、全てを癒す安らぎとならん〉」
『〈ブレイブ・ヒール〉』
俺の詠唱に従い、『聖鎧』が輝き始め、光が俺の体を包み込んだ。
すると、右手の傷が凄まじい速さで治り―――傷の跡すら残さず、元の右手に戻る。
これが『聖鎧』の能力。着る者の傷を癒す力だ。
「そ、んな……そんなの、インチキ……!何しても、ムダ、じゃない……!」
「まあ、相性が悪かったと思うんだな」
呆然と俺を見るサリスが、戦意喪失したように呟く。
……さて、見せてやろう。
この我の、本当の力を―――!
「〈闇は満ちた。魔剣よ、今ここに暗黒なる力を解き放ち、光を払いて全てを無に還せ〉―――!」
『〈ジ・エンド〉ッ!』
スィ―――ン……と、薄っぺらい音。
だが直後―――空間が斬れた。
空は裂け、地面は割れ、辺りに暴風が吹き荒れ―――サリスが、力なく地面に倒れた。
傷は無いはずだが……痛みはある。
今サリスの体には……体を真っ二つに斬られるのと同じくらいの痛みがあるはずだ。
「……我は、こいつらに見合う『神器使い』になるために、この10年間、死ぬ気で訓練してきたんだ……自分の『神器』の能力も満足に扱えないお前に、負ける方が難しい」
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