お前ら『神器』って自覚ある?
7話
「この学院の教育システム……『学年別戦闘試験』は知っているな?」
セシル先生の言葉に、全員が無言で頷く。
―――『学年別戦闘試験』。
その名の通り、学年別で戦闘の試験を行う、『アーネスト学院』特有の授業システム。
この学院での1日の流れ……午前は座学だが、午後はこの『学年別戦闘試験』を2時間ほどして1日が終わるのだ。
「今日は初日なので見学しかしないが……明日からはお前たちも『学年別戦闘試験』に参加する。しっかり先輩たちの戦いを目に焼き付けておけ……以上だ。グラウンドに移動するぞ」
そう言って教室を出るセシル先生。
俺たち生徒も、急いで後を追う。
「……なぁ先生」
「なんだレテイン、質問か?」
「まぁ質問っちゃ質問なんすけど……今日『学年別戦闘試験』をしたいっつったら、させてくれるんすか?」
レテインの何気ない言葉に、セシル先生が表情を豹変させた。
まるで、予想を上回る事を言われたような……驚いた顔だ。
「……ほう。やる気満々だな……しかし、今日は1年生は不参加の予定だったが……まあ、2年生か3年生に頼めばできるだろう。だが―――」
目を細め、生徒を見渡した。
その冷たく恐ろしい視線に、思わず背筋が伸びてしまう。
「入学したばかりの1年生だからと言って、先輩たちが手を抜いてくれると思うなよ?」
―――ビリビリと、肌を刺すような覇気。
それだけで、セシル先生がかなりの手練れだとわかる。
「……先日の入学式を覚えているか?」
「そりゃまあ覚えてるっすけど」
「あの日、自分が戦った先輩が何クラスかわかっているか?」
セシル先生の言葉に、全員が首を傾げる。
というか、俺も知らない。
自分が戦ったのが、どのクラスの先輩だったのかなんて―――
「……あたしの、相手は、Sクラス、って、聞いた」
「そうだ……お前が戦ったのは、現3年Sクラスの首席。学院最強と呼ばれていた生徒だ……まあ、お前とアルバトスが入学して、学院最強じゃなくなったがな」
俺とサリスを見て、セシル先生がどこか意味深に目を細める。
俺の顔を見るサリスが、心底不愉快そうに顔を歪めた。
「……先生、あたしだけ、じゃなくて、コイツも、なの?」
「ああ……もうわかっているとは思うが、アルバトスは3つの『神器』と契約している。知っての通り、強力な『神器』だ」
俺にリリアナ、アルマとソフィアに視線を向ける―――と、ソフィアを見て、セシル先生が首を傾げる。
「……そういえば、その黒髪の少女が『神器』になった所は見た事がないな」
「まあ、使った事ないからな」
「……ムカつく、イラつく。本気、出してない、なんて、調子、乗ってる……」
ギラギラと血の眼を輝かせ、サリスが俺を睨み付ける。
視線だけで射抜かれそうなほどに鋭い眼―――人殺しのようだ。
「なんだよセシルせんせー。アルバトスの事、気に入ってんのかー?」
「……ジェルム。『ユリエ』という『神器使い』を聞いた事があるか?」
「あるに決まってるじゃん。最強の『神器使い』、『ユリエ・ベルガノート』だろ?『神器使い』なら、一度は聞く名前じゃん」
「―――ユリエさんは、アルバトスの母親だ」
バッと、リリアナたち以外の視線が俺に集中する。
「……先生、それは……」
「なんだ。言ってほしくなかったか?」
「んや……そうじゃないけど……」
……なんか、複雑な気分だ。
俺は、自分の力で強くなった。
『聖剣』を振るために、筋力を。『聖盾』を使いこなすために、度胸を。『聖鎧』を着こなすために、持久力を。
この3人に相応しい『神器使い』になるために、こいつらと契約した6才の時から。
筋肉を付けるのに2年間。『神器』を使っての独自訓練5年間。そして……父さんに鍛えてもらった3年間。
その努力を―――『ああ、あのユリエの子どもなら当然か』と思われるのが、嫌なんだ。
「はー……なるほどなー。アルバトスって、あのユリエの子供なのかー」
「……ワタクシに勝ったのも納得ですわ」
「そうだったのか……羨ましいな。あのユリエ様の息子だなんて」
ジェルムにルーシャ、そしてバルトナが、俺を見てどこか納得した表情を見せる。
……ああ、やっぱりこうなるのか。
俺の努力は、誰にも知られない。まあ、知ってほしいわけではないけど。
「―――んあ?いやいや、親は関係ねぇだろ?強ぇのはアルバトスなんだからよ」
「あァ……コイツの母ちゃんなんて知ったこっちゃねェ。俺が倒さなきゃなんねェのァコイツゥ、俺が越えなきゃなんねェのもコイツゥ……コイツの母ちゃんなんざ興味ねェなァ」
「……ムカつく、イラつく、腹立つ……!コイツの親、関係、ない……!コイツに、殺意が、湧く……!」
首を傾げるレテインが、不思議そうにジェルムたちを見る。
不機嫌そうに眉を寄せるグローリアが、ユラリユラリと体を揺らす。
殺意をたぎらせるサリスが、鋭い眼をさらに細めながら俺を睨み付ける。
そんな3人の反応に―――俺は、少し嬉しくなった。
……こいつらは、俺の肩書きなんて見ない。ちゃんと『俺』という存在を見てくれるのか。
「オイコラてめェ、何笑ってやがんだァ?」
「なに、コイツ……!本気で、本当に、心から、ムカつく……!」
グローリアとサリスが表情を怒りに染め、俺に噛み付かん勢いで迫る。
……なんだろう。
このSクラス……悪くないかも知れない。
―――――――――――――――――――――――――
「着いたぞ……どうやら、まだ始まっていないようだな」
ザワザワと騒がしいグラウンド。
俺たち18人は、闘技場の観覧席に座っていた。
「ねーご主人様っ!まだ時間あるなら遊ぼー!」
「遊ぶったって……ここじゃ何もできないだろ。寮に帰るまで待ってな」
「えー!遊ぼーよー!」
腕を引っ張るアルマを無視して、少しずつグラウンドに集まり始める先輩たちを見る。
……そこまで強そうな人はいないかな。
というか、鍛えている人がいない。ほとんどの人が細い。たぶん、『神器』の性能に頼りっきりなんだろうな。
「……はん、どいつもこいつも三下ね。ご主人の相手になりそうなやつは……4、5人くらいかしら」
「リリアナもそう思うか?」
「その5人も、ご主人様が本気を出したら簡単に倒せそうですが」
「本気……?……ああ。あれを使うんだったら、たぶん誰にも負けねぇよ」
本気。
リリアナたち『最上位神器』には……もう1つ、隠された性能があるのだ。
もちろん、サリスの『ミョルニル』やレテインの『レーヴァテイン』、バルトナの『グングニル』も『最上位神器』。この3つにも隠された性能があるはず。
その性能を使えば……俺は、誰にも負けない。
サリスだろうと、シエラ学院長だろうと……母さんだろうと、負ける気がしない。
「……リリアナ、アルマ、ソフィア」
「なに、ご主人?」
「どーしたのー?」
「はい」
「ちょっと体でも動かしに行かないか?先輩たちの勝負を見るだけじゃ、体がウズウズするんだよ」
遠回しに、戦いに参加したいと伝える。
言葉の意味に気づいたリリアナが、心底ダルそうに。
俺の顔を見るアルマが、ニコニコと嬉しそうに。
いつも通り姿勢正しく座るソフィアが、俺がそう言う事をわかっていたように。
いつも通りの3人の反応に、思わず苦笑が出てしまう。
「……はあ~……めんどくさっ」
「いいよーご主人様!やろー!」
「ご主人様が行くのであれば、私はそれに付いていくだけです」
「なによ、2人とも行くの?………………しょうがないわね、あたしも行ってあげるわ」
ありがたい。
3人にお礼を言おうと、俺は口を開けて―――
「あんたの、相手は、先輩じゃ、ない……!あんたの、相手は、あたし……!」
「え?」
「いい、でしょ……!先生……!」
「……ダメではないが……今日戦るのか?」
「殺る……!じゃない、と、気が、済まない……!」
トリアと共に立ち上がるサリスが、俺を睨み付けて鋭い犬歯を剥き出しにする。
「……だそうだが、どうするんだアルバトス?」
セシル先生が、俺を見て問い掛ける。
……答えは、決まっている。
「わかった……じゃあ、戦ろうか」
「ムカつく、イラつく、腹立つ……!殺す……!」
セシル先生の言葉に、全員が無言で頷く。
―――『学年別戦闘試験』。
その名の通り、学年別で戦闘の試験を行う、『アーネスト学院』特有の授業システム。
この学院での1日の流れ……午前は座学だが、午後はこの『学年別戦闘試験』を2時間ほどして1日が終わるのだ。
「今日は初日なので見学しかしないが……明日からはお前たちも『学年別戦闘試験』に参加する。しっかり先輩たちの戦いを目に焼き付けておけ……以上だ。グラウンドに移動するぞ」
そう言って教室を出るセシル先生。
俺たち生徒も、急いで後を追う。
「……なぁ先生」
「なんだレテイン、質問か?」
「まぁ質問っちゃ質問なんすけど……今日『学年別戦闘試験』をしたいっつったら、させてくれるんすか?」
レテインの何気ない言葉に、セシル先生が表情を豹変させた。
まるで、予想を上回る事を言われたような……驚いた顔だ。
「……ほう。やる気満々だな……しかし、今日は1年生は不参加の予定だったが……まあ、2年生か3年生に頼めばできるだろう。だが―――」
目を細め、生徒を見渡した。
その冷たく恐ろしい視線に、思わず背筋が伸びてしまう。
「入学したばかりの1年生だからと言って、先輩たちが手を抜いてくれると思うなよ?」
―――ビリビリと、肌を刺すような覇気。
それだけで、セシル先生がかなりの手練れだとわかる。
「……先日の入学式を覚えているか?」
「そりゃまあ覚えてるっすけど」
「あの日、自分が戦った先輩が何クラスかわかっているか?」
セシル先生の言葉に、全員が首を傾げる。
というか、俺も知らない。
自分が戦ったのが、どのクラスの先輩だったのかなんて―――
「……あたしの、相手は、Sクラス、って、聞いた」
「そうだ……お前が戦ったのは、現3年Sクラスの首席。学院最強と呼ばれていた生徒だ……まあ、お前とアルバトスが入学して、学院最強じゃなくなったがな」
俺とサリスを見て、セシル先生がどこか意味深に目を細める。
俺の顔を見るサリスが、心底不愉快そうに顔を歪めた。
「……先生、あたしだけ、じゃなくて、コイツも、なの?」
「ああ……もうわかっているとは思うが、アルバトスは3つの『神器』と契約している。知っての通り、強力な『神器』だ」
俺にリリアナ、アルマとソフィアに視線を向ける―――と、ソフィアを見て、セシル先生が首を傾げる。
「……そういえば、その黒髪の少女が『神器』になった所は見た事がないな」
「まあ、使った事ないからな」
「……ムカつく、イラつく。本気、出してない、なんて、調子、乗ってる……」
ギラギラと血の眼を輝かせ、サリスが俺を睨み付ける。
視線だけで射抜かれそうなほどに鋭い眼―――人殺しのようだ。
「なんだよセシルせんせー。アルバトスの事、気に入ってんのかー?」
「……ジェルム。『ユリエ』という『神器使い』を聞いた事があるか?」
「あるに決まってるじゃん。最強の『神器使い』、『ユリエ・ベルガノート』だろ?『神器使い』なら、一度は聞く名前じゃん」
「―――ユリエさんは、アルバトスの母親だ」
バッと、リリアナたち以外の視線が俺に集中する。
「……先生、それは……」
「なんだ。言ってほしくなかったか?」
「んや……そうじゃないけど……」
……なんか、複雑な気分だ。
俺は、自分の力で強くなった。
『聖剣』を振るために、筋力を。『聖盾』を使いこなすために、度胸を。『聖鎧』を着こなすために、持久力を。
この3人に相応しい『神器使い』になるために、こいつらと契約した6才の時から。
筋肉を付けるのに2年間。『神器』を使っての独自訓練5年間。そして……父さんに鍛えてもらった3年間。
その努力を―――『ああ、あのユリエの子どもなら当然か』と思われるのが、嫌なんだ。
「はー……なるほどなー。アルバトスって、あのユリエの子供なのかー」
「……ワタクシに勝ったのも納得ですわ」
「そうだったのか……羨ましいな。あのユリエ様の息子だなんて」
ジェルムにルーシャ、そしてバルトナが、俺を見てどこか納得した表情を見せる。
……ああ、やっぱりこうなるのか。
俺の努力は、誰にも知られない。まあ、知ってほしいわけではないけど。
「―――んあ?いやいや、親は関係ねぇだろ?強ぇのはアルバトスなんだからよ」
「あァ……コイツの母ちゃんなんて知ったこっちゃねェ。俺が倒さなきゃなんねェのァコイツゥ、俺が越えなきゃなんねェのもコイツゥ……コイツの母ちゃんなんざ興味ねェなァ」
「……ムカつく、イラつく、腹立つ……!コイツの親、関係、ない……!コイツに、殺意が、湧く……!」
首を傾げるレテインが、不思議そうにジェルムたちを見る。
不機嫌そうに眉を寄せるグローリアが、ユラリユラリと体を揺らす。
殺意をたぎらせるサリスが、鋭い眼をさらに細めながら俺を睨み付ける。
そんな3人の反応に―――俺は、少し嬉しくなった。
……こいつらは、俺の肩書きなんて見ない。ちゃんと『俺』という存在を見てくれるのか。
「オイコラてめェ、何笑ってやがんだァ?」
「なに、コイツ……!本気で、本当に、心から、ムカつく……!」
グローリアとサリスが表情を怒りに染め、俺に噛み付かん勢いで迫る。
……なんだろう。
このSクラス……悪くないかも知れない。
―――――――――――――――――――――――――
「着いたぞ……どうやら、まだ始まっていないようだな」
ザワザワと騒がしいグラウンド。
俺たち18人は、闘技場の観覧席に座っていた。
「ねーご主人様っ!まだ時間あるなら遊ぼー!」
「遊ぶったって……ここじゃ何もできないだろ。寮に帰るまで待ってな」
「えー!遊ぼーよー!」
腕を引っ張るアルマを無視して、少しずつグラウンドに集まり始める先輩たちを見る。
……そこまで強そうな人はいないかな。
というか、鍛えている人がいない。ほとんどの人が細い。たぶん、『神器』の性能に頼りっきりなんだろうな。
「……はん、どいつもこいつも三下ね。ご主人の相手になりそうなやつは……4、5人くらいかしら」
「リリアナもそう思うか?」
「その5人も、ご主人様が本気を出したら簡単に倒せそうですが」
「本気……?……ああ。あれを使うんだったら、たぶん誰にも負けねぇよ」
本気。
リリアナたち『最上位神器』には……もう1つ、隠された性能があるのだ。
もちろん、サリスの『ミョルニル』やレテインの『レーヴァテイン』、バルトナの『グングニル』も『最上位神器』。この3つにも隠された性能があるはず。
その性能を使えば……俺は、誰にも負けない。
サリスだろうと、シエラ学院長だろうと……母さんだろうと、負ける気がしない。
「……リリアナ、アルマ、ソフィア」
「なに、ご主人?」
「どーしたのー?」
「はい」
「ちょっと体でも動かしに行かないか?先輩たちの勝負を見るだけじゃ、体がウズウズするんだよ」
遠回しに、戦いに参加したいと伝える。
言葉の意味に気づいたリリアナが、心底ダルそうに。
俺の顔を見るアルマが、ニコニコと嬉しそうに。
いつも通り姿勢正しく座るソフィアが、俺がそう言う事をわかっていたように。
いつも通りの3人の反応に、思わず苦笑が出てしまう。
「……はあ~……めんどくさっ」
「いいよーご主人様!やろー!」
「ご主人様が行くのであれば、私はそれに付いていくだけです」
「なによ、2人とも行くの?………………しょうがないわね、あたしも行ってあげるわ」
ありがたい。
3人にお礼を言おうと、俺は口を開けて―――
「あんたの、相手は、先輩じゃ、ない……!あんたの、相手は、あたし……!」
「え?」
「いい、でしょ……!先生……!」
「……ダメではないが……今日戦るのか?」
「殺る……!じゃない、と、気が、済まない……!」
トリアと共に立ち上がるサリスが、俺を睨み付けて鋭い犬歯を剥き出しにする。
「……だそうだが、どうするんだアルバトス?」
セシル先生が、俺を見て問い掛ける。
……答えは、決まっている。
「わかった……じゃあ、戦ろうか」
「ムカつく、イラつく、腹立つ……!殺す……!」
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