死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第69話『ラスボス』

 俺たちを乗せたテキロは、地を駆けるのと同じように空中を駆けた。


「おお! スレイプニルが天を!!」


 ギルド職員さんが感嘆の声を上げ、駅に集まった人々も物珍しげにこちらを見上げ、指さしたりどよめいたりしている。


 しかし数秒後には街も見えなくなった。


「お、速いな!」


 テキロが全速力で空を駆けると、馬車の倍以上の速度が出てるんじゃないだろうかっていうぐらい速い。


 わざわざ道を通る必要も無いので、エムゼタから北東へ一直線に進み、霊山ウカムを目指す。


 デルフィには例のごとく「詳しい事情は後で話す」とはぐらかし、今回のこれが滅亡の始まりであろうこと、基本的には力で退けるしかないであろうこと、大軍を持って当たるべきだが、それを編成する時間がないこと、あとついでに俺は既に『魔陣』が使えることを話しておいた。


 何度も同じ手口ではぐらかしているように錯覚してしまうが、デルフィが百鬼夜行に会のは初めてってことになってるから、問題ないはずだ、たぶん。


 思いっきり不審の目を向けられてるけど、気にしない気にしない。


《あるじぃー、なーんかヤな感じのが見えてきたんだけど》


 お、やっぱコイツら目がいいんだな。


 馬は視界が広いってのは知ってたが、遠くを見る能力も高いとは。


「あとどれぐらいでソレに当たりそうだ?」


《そうッスねぇ。このままのペースだったらあと2分ぐらい?》


「ちょっとペース落として、10分後ぐらいに当たるようにしてくれ」


《あいよー》


「デルフィ、そろそろ詠唱開始」


「わかった」


 たぶん最初は餓鬼の群れに当たるだろうから、とにかく倒せるだけは倒してい行こうと思う。


「テキロ、高度下げて」


《へーい》


「……ていうか、お前怖くないの?」


 馬車を引いてたスレイプニルは結構早い段階でビビって止まってたんだけど、こいつはそうでもなさそうなんだよなぁ。


 個体差か?


《従魔は主人の影響を結構受けるんッスよ。あるじが怖くないならオイラも平気ッスよ~》


 なるほど、そういうことか。




 テキロが宣言して約10分。


 眼下に餓鬼の群れが見えてくる。


「なによ……あれ……」


 デルフィに浮かぶ怯えの表情。


 ま、初めて・・・見るんだからしょうがないわな。


「あれが滅亡の正体ってとこかな。多分だけど、ああいうのが境界のひびからうじゃうじゃ出てきてる」


「だったら食い止めないと!!」


「いや、どう見ても2人じゃ無理だろ? とりあえず俺たちは出来る限り敵を倒しつつ、罅を目指す」


「……わかった」


 納得いかないって顔だけどな。


 もし全部終わって生き残れたら、どうやって説明しよう……。


 ま、先のことは考えてもしゃーないか。




 テキロに魔術の射程範囲ギリギリの高度まで下がってもらい、俺とデルフィは超級攻撃魔術で餓鬼の群れを屠っていく。


 はっきり言って焼け石に水とすら言えない成果だが、デルフィにとっては多少の気休めになるし、俺にとっては貴重な経験値・SP源となる。


 しばらく進むとがしゃどくろや泥田坊なんかのデカブツと空飛ぶ鍋が現れ始めた。


 とりあえずデカブツは俺の『ねじ突き』とデルフィの『ねじ矢』でそれぞれ頭と胸を同時に穿ち、仕留めていく。


 空飛ぶ鍋は無視。


 下手に穴を開けて中の餓鬼がまとわりついてきたら鬱陶しいので。


 次に天狗や以津真天等の飛行系妖怪が登場。


 こいつらはデカブツほどの耐久力はは無いようで、『突飛剣』と魔法の矢で倒せるみたいだ。


 さすがに魔弓からの『矢』では威力が足りないので、飛行系妖怪にデルフィの魔術をぶつけるのは却下。


 デルフィの<多重詠唱>スキルはおそらくLv3ぐらいなので、魔術に充てるリソースはすべて『風陣』に回してもらう。


 『風陣』で地上の餓鬼どもをバンバン倒しつつ、たまにデカブツを『ねじ矢』で仕留め、同時に飛行系妖怪の十数匹単位を魔法の矢で倒していくデルフィさんマジすげーっす。


 俺は11回分の魔術を同時展開出来るので、10回分を『魔陣』に、残り1回分を『魔突飛剣』に回し、デルフィが撃ち漏らした飛行系妖怪を仕留めていくと同時に、デカブツには『ねじ突き』をぶつけている。


 『魔突飛剣』に関しては<詠唱短縮>スキルや装備類の補助のおかげで2秒とかからず詠唱を終えることが出来るため、ほぼ連発に近い状態で撃てるんだな。




 途中、少し北寄りに進んでもらい、エスケラの様子を見たが、餓鬼に埋もれていた。


 っていうか、前線からここまで、途切れることなく餓鬼に埋もれている状態だったわ。


 どんだけいるんだよ、こいつら。




**********




「テキロ、デルフィ、休まなくて大丈夫か?」


「……大丈夫」


《休むって、どこで休むんッスかー?》


 まぁ、見渡すかぎり妖怪だらけのこの区域で休める場所なんざ無いわな。


 俺とデルフィだけならテキロの背の上で休めなくもないが、たぶんどっちか休んだら防御ライン超えられるだろうなぁ。


 結局エムゼタを出てから20時間ぐらい休みなしだ。


 本来はエムゼタから霊山ウカムの麓町であるエスケラまで、高速馬車通常運転で丸2日、前回までのようなハイペースで飛ばしても1日半はかかるところを、ショートカットしたとはいえさらにその半分近い時間でウカムまでやってきたのだから、テキロのやつも相当疲れてるだろう。


「このまま罅まで行けるか?」


《オイラは走ってるだけなんで、まだまだ大丈夫ッスよー》


 デルフィはつかれた様子だったが、無言で頷いた。




 霊山ウカムがいかに登頂困難な山といっても、スレイプニルにとってみれば急勾配の坂みたいなものなわけで、テキロは難なく頂上まで走り抜けた。


 頂上で俺たちが目にしたのは、視界のほとんどを覆う闇。


 おそらくこれが境界壁の罅なのだろう。


 遠くから見れば確かに罅だったが、近づいてみればその罅の大きさは想像以上のもので、ただ闇が広がっているようにしか見えない。


 その闇の向こうに何があるのかは見ることが出来ず、目の前の闇から妖怪どもがどんどんと吐き出されいた。


「……どうするの? 向こうに行くの」


「向こうに? 冗談だろ?」


 悪いがこの闇に飛び込む勇気はない。


 ……でも、ここで出てくる妖怪を倒していったところで解決にならなそうだし、やっぱ先に進むしか無いのか?


《あるじぃー。なんかヤバそうなのが近づいて来てんスけど……》


 テキロに言われ目を凝らしてみると、確かに暗闇の向こうの方に何かが見える。


 最初は点のような光だったが、徐々にそれが大きくなってくる。


 やがてそれは獣の形を見せ始めた。


「……犬? いえ、狼かしら?」


 徐々に近づき、少しずつ姿形がはっきりと見えてくるに従って、俺には奴の正体がなんとなくわかってきた。


 妖怪の親玉といえば、まぁそうなるわな。


「九尾の狐か……なんとまぁベタな」


 俺達の前に姿を表したそれは、金色こんじきに輝く巨大な九尾の狐だった。


 大きさは、アフリカゾウよりデカいテキロが子犬ぐらいの大きさに見える程度、と言って伝わるだろうか?


 伝わらんか?


 とにかく、ただただデカい。


 その九尾狐がひとつの尾を軽く振ると、そこから数十本の毛が飛んできた。


 そしてその毛がいろいろな妖怪に姿を変え、襲い掛かってくる。


「こいつが妖怪の生みの親ってか?」


 しかし周りを見てみると、それとは別に闇の中から妖怪が現れているので、すべてをこいつが生み出しているわけじゃなさそうだ。


 なので、こいつを倒しても何も終わらないのかもしれない。


 しかし、なぜだろう?


 俺の勘は、こいつがラスボスだと告げている。


 なんにせよ倒さなくてはいけない相手だろうし、先のことは考えず、こいつを倒すことだけを考えよう。




 雑魚の掃討はデルフィに任せ、俺が九尾狐の攻撃を担当する。


 ラスボスへの攻撃ってのは強力な単体攻撃と相場が決まってるんだよな。


 俺はとにかく魔力を練り、出来るだけ強力な『ねじ突き』を繰り出した。


 九尾狐はなぜか攻撃してくださいとばかりに体の側面をこっちらに向け、つまらなそうにこちらを見つつたまに尾を振って雑魚を生み出す、という行動を繰り返していた。


 俺の放った『ねじ突き』は、九尾狐の首のあたりに直撃。


 一瞬顔をしかめたように見えたが、特にかわそうとも反撃しようともせず、ぼんやりとこちらを見ているだけだった。


 10発以上『ねじ突き』を当てたが、特に変わった様子はない。


 正直このままこのパターンを続けて倒せる相手だとは思わない。


 なにより、何となく舐められている感じがすげー腹立つ。


 まぁいきなり本気出されても困るのは困るんだが、それでも腹立つもんはしゃーない。


 というわけで、俺は前から目をつけていたスキルを習得することにした。




《スキル習得》
<決死の一撃>
HP/MPの99%と引き換えに、防御無視・耐性無視、回避不能の絶対値ダメージを与える単体攻撃スキル。威力は使用者のHP/MP・スキルレベル・レベルに依存。威力=(HP+MP)×スキルレベル×レベルHP


《スキルレベルアップ》
<決死の一撃>
<決死の一撃>
<決死の一撃>
<決死の一撃>
<決死の一撃>
<決死の一撃>
<決死の一撃>
<決死の一撃>
<決死の一撃>


 さて、現在のステータスを確認だが
名前:山岡勝介
職業:魔法剣士
レベル:157
従魔:テキロ


HP:16973
MP:23481


 とまぁこんな感じだ。


 ん? なんか従魔って項目が増えてんな。


 まぁ、詳細は後で確認しよう。


 HPは最大値に近いと思うが、MPは高威力の『ねじ突き』を連発したせいで半分ぐらいまで減っている。


 時間がたてば多少は回復するけど、さすがにそれを待っている余裕はない。


 サクッと威力を計算すると、HP+MPで約4万でスキルレベルかけて40万。


 そこに157かけると……6280万?


 おお、それってすげーダメージなんじゃね?


 比較対象がないからなんとも言えんけど、ゲーム的に言えばラスボスだろうとイチコロでしょうよ。


「デルフィ、テキロ。デカいの一発かますから!」


「……やるならさっさとやって。こっちも結構キツイんだから」


《ウェーイ!》


 腰を落とし、レイピアを中断に構える。


 相手を見据え、首のあたりを狙って……突くべし!!


「キイイイイィィィ!!!」


 甲高い悲鳴のような咆哮があたり一面に響き渡る。


 俺が放った一撃は、音もなく敵を穿ち、九尾狐首から前足の付け根辺りをごっそりと抉り取った。


 付け根を抉られた方の前足がちぎれて落下し、首はかろうじてつながっているという程度だった。


 しかしHP/MPの99%を失った俺もただですむはずもなく、徐々に意識がもうろうとしてきた。


 暗転する意識の中、驚き、苦しむような表情の九尾狐が、なにやら笑ったように見えた。


 そして体勢を変え、残った方の前足を振り上げるのが見えた後、俺は意識を失った。



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