死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第59話『魔道士の幻想』

 迷路エリアは階層ごとに俺、フランツさん、ガンドルフォさんが交代で前衛を務め、デルフィとフレデリックさんは適宜援護にまわるという方式に。


 この狭い回廊でガンドルフォさんがどう立ち回るのか見ものだったけど、武器を長柄の戦斧から2本の手斧に持ち替えて縦横無尽に暴れ回る感じだったわ。


 俺とフランツさんは特に変わりなし。


 サクサク進んでいき、丸一日で20階層を攻略した。


 20階層のボスエリアで一晩休憩し、続けて荒廃エリエアへ。


 ここはだだっ広い上にボスエリアの場所が変わるのでかなり時間がかかると思っていたのだが、どうやらボスエリアの出現位置についてはなんらかのパターンがあるらしく、そのあたりのことはフレデリックさんが完全に暗記しているとの事だった。


 とはいえ移動だけでもかなりの時間を食うので、29階層までの攻略には丸2日かかった。


 例のごとく29階層のボスエリアで一晩明かした俺たちは、いよいよ30階層に挑む。




 開けた草原エリアには、通常とは異なり10体のドラゴンが現れた。


 通常のパーティーであれば絶望的な状況なのだろうが、ここまで来る間にお互いの力量は把握しており、さらに連携もとれるようになっている。


「1人でたったの2体仕留めればいいだけだ。いけるな?」


「楽勝っす」


「問題ない」


 ガンドルフォさんの激に俺とフランツさんが応える。


 フレデリックさんとデルフィはすでに攻撃を開始しており、敵全体を牽制しつつもすでにそれぞれ1体ずつ仕留めていた。


「こりゃ俺たち3人いなくてもいいかもなぁ」


 と自嘲気味にこぼしたガンドルフォさんだったが、弾幕を越えて近づいてきた1体のドラゴンの首を一撃で切り落としていた。


 俺としても出番がないのは勘弁願いたいので、比較的近い場所にいたドラゴンを『ねじ突き』で仕留める。


 もう1体、と思ったとこで、敵が全滅していることに気づいた。


 結局前衛3人がそれぞれ1体仕留めている間に、フレデリックさんは3体、デルフィは4体仕留めたらしい。


「はっはっは! このメンツならドラゴンの100匹や200匹、楽勝だな!!」


「ちょっとガンドルフォさん、そういうのフラグっていうんですよ?」


「フラグ? なんだそりゃ?」


 と軽口を叩いている間にすべてのドラゴンが消え、最後の転移陣が現れた。


「いいか?」


 今やこの即席パーティーのリーダーとも言えるガンドルフォさんが全員の顔を見回す。


 それぞれ無言で頷き、肯定の意を示した。


「行こうか」


 全員で転移陣にのると、例のごとく一瞬で景色が変わる。


 そこは、以前も訪れたことのあるダンジョンコア、真島裕太の部屋だった。




**********




「おいおい、人様の部屋に土足で上がり込むとは、無粋な連中だな」


 以前ここを訪れた時、真島がいたソファーに悠然と座る男の声が響き渡る。


 予想通りというべきか、そこにいたのはヘクターだった。


 そのヘクターと向かい合う形、つまり俺たちには背を向けた状態で、女性の裸体が浮いていた。


 あえて正面に回って確認するまでもなく、それはハリエットさんに違いあるまい。


 そしてヘクターの視線は、一時俺たちに向いたものの、以降はずっとハリエットさんの方をにむけられている。


 つまりあのストーカー野郎は今もハリエットさんの裸体を鑑賞しているわけだ。


「ヘクター。ハリエット嬢の脚をどうした?」


 そう言われて気付いたが、ハリエットさんにはちゃんと2本の脚があった。


 ここから見る限り、接合部分に傷痕はなさそうだ。


「フランツゥ……。貴様私のハリエットに義足などという無粋なものを付けるつもりだったようだなぁ」


「お前が彼女の脚を持ち逃げしたからだろうに。そうでなければ治療士ギルドでしっかり治せただろうよ」


「おいおい、彼女は私のものだぞ? 私のものを私が持ち帰ったことをなにやら責められているうようだが気のせいか?」


「ふむ。どうやらもう話も通じんらしいな。この阿呆は殺してしまっても構わんな?」


 フランツさんが俺たちのほうを一瞥し、双剣を抜く。


「ちょっと待って下さい、ひとつだけ」


 そう言って俺はフランツさんに並ぶ。


「ここにいた男はどうした?」


「男? ああ、ダンジョンコアか? あれなら私の糧となったよ」


「糧……?」


 するとヘクターは大仰に両手を広げ、ソファーから立ち上がった。


「フランツ、フレデリック、我が友である貴様らにも話していなかったな、私の能力について」


 そういえば、ヘクターには闇属性の固有能力があるんだったな。


「私はな、他者の力を吸収できるのだよ。だがそれは異物が自身に入り込むようなもので、私としてはあまり使いたくない忌むべき能力だったんだがなぁ。しかしダンジョンコアは、自我があるとはいえ純粋な力の塊のようなもの。あれを吸収するのにためらいはなかったよ」


「つまり、ダンジョンコアの力を使えるようになったってことか?」


「無論だとも。素晴らしいぞ、この力は。まだ上手く使いこなせないが、完全に私に馴染んだら、世界を手にすることも可能だろうなぁ。うむ、私とハリエットで統べる世界……。さぞ素晴らしい世界となるだろう」


 なんだか自分の言葉に酔ってんなこの変態野郎め。


「フランツ、フレデリック。旧友のよしみで新たな世界の住人としてそれなり地位を約束してやってもいいぞ」


「ショウスケ、用は済んだか? 先程から意味不明な言葉を垂れ流し続けるあの阿呆の舌をさっさと切り取ってやりたいのだが」


「ええ、知りたいことはもう聞けましたから。さっさとあの童貞ストーカー野郎をぶちのめしてやりましょう」


「童貞……?」


 そう言うとヘクターはわざとらしく後ろを振り返り、すぐにこちらに向き直ると蔑むような笑みを浮かべた。


「はて、そんなものがどこにいる?」


 テメーはブチ殺す!!


 俺とフランツさんが踏み込むよりも早く、背後から20発以上の魔力の矢が放たれる。


 矢は弧を描くように俺とフランツさんをさけ、すべての矢が吸い込まれるようにヘクターを貫く。


 振り返ると、涙を流しならがも怒りの形相浮かべるデルフィがいた。


「おいおい、あまり人の部屋を汚さないでくれよ」


 デルフィの矢に貫かれたはずのヘクターは、何事もなかったかのようにそこに立っていた。


 フランツさんが即座に踏み込み双剣でヘクターを斬り裂く。


 刃は確実に届いているにもかかわらず、ヘクターには傷一つつかない。


 続いて俺も踏み込み、レイピアで喉を貫いた。


 肉と骨をまとめて貫く確かな感触があったにも関わらず、ヘクターは無傷のままだった。


 さらに、いつの間にか背後に回っていたガンドルフォさんがヘクターの胴を薙ぐ。


 服を裂き、肉を切り、骨を断つ音はするものの、やはりヘクターは無傷だ。


「すでに幻影を発動していたか……」


 フランツさんが悔しげにつぶやく。


 つまり、目の前にいるヘクターは幻影ってことか。


 にしては凄いな。


 <気配察知>も<魔力感知>もそこにヘクターがいることを示しているし、奴が口を開けば声の発生源も姿の見える場所だし、攻撃した時の感触まで完璧に再現されている。


 幻想の魔道士って二つ名は伊達じゃないってか。


「しかしここまでの幻影をつくり上げるとは……ダンジョンコアの力か?」


「そういうことだ。貴様らに私は倒せんよ。それを理解した上で、出来ればさっさとお引き取り願いたいんだがなぁ。ハリエットとの時間はこれから永遠に続くとはいえ、だとしても、1秒たりとも邪魔されたくはないのだよ」


「そう。じゃあ僕は撤退に1票かな」


 フレデリックさんが銃をしまい、片手を上げて一歩前に出てきた。


「ほう。さすが我が友フレデリック。物分りがいいな」


「ああ。ハリエットさんさえ返してくれるなら、君に用はないよ、ヘクター。1人でここに引きこもっていればいい」


 その言葉で、軽く笑顔を浮かべていたヘクターの顔から表情が消える。


「フレデリック……。ハリエットは私のものだと言っただろう? それを……返す、だと? 違うだろう……。それは私から私のものを奪う、ということなんだよ。そして、冗談でもそんなことを言う奴を、私は許すことが出来そうにないなぁ」


 ヘクターが軽く片手を上げると、まるで箱が開くように壁が倒れ、天井が消えた。


 周りには快晴の草原が広がっている。


 その草原のなかに、出来の悪い映画か何かのセットのように、部屋の床や調度類がぽつねんと鎮座しているという、なにやら奇妙な状況が出来上がった。


 ほどなく光の粒子があつまり、それがここ30階層のボスであるドラゴンを形成する。


「おいおい、何匹だすつもりだぁ?」


 ガンドルフォさんの口から、驚き半分呆れ半分の声が漏れる。


 その言葉通り、ドラゴンが次々と出現する。


 あの時のガンドルフォさんのセリフ、やっぱあれフラグだったな。


 その数が20を超えたあたりで数えるのが面倒になり、その後一応大雑把には数えていたが、およそ100を超えたであろう時にアホらしくなって数えるのをやめた。



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