死に戻りと成長チートで異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~

平尾正和/ほーち

第56話『襲撃』

 その後俺たちはさらに5体のミスリルゴーレムを倒した。


 デルフィもさっきの俺の技を参考に、風魔法で作った矢に回転を加えることでコスパを上げるとともに、オーバーキルにならないように魔力を調整することで、魔力酔いを起こすことなくミスリルゴーレムを一撃で倒せるようになっていた。


 とりあえず俺はさっき開発した、剣に纏わせた魔力を回転させつつ刺突を飛ばす技を『ねじ突き』と命名することにした。


「うーん、『ねじ突き』ってダサくない?」


「おいおいわかってねぇなぁ。左回りは闇と破壊への道なんだぜ?」


「意味分かんないし……」


「というわけでデルフィのやつは『ねじ矢』な!」


「はぁ?」


「いらっっしゃしませねじやのお~やじぇぶぅっ!!」


 からかってたらビンタされたよ。


 とにかく俺の『ねじ突き』とデルフィの『ねじ矢』ならミスリルゴーレムを問題なく狩れることがわかったので、一旦帰還玉で出発点に戻り、制限を解除してもらった。


 この時点でハリエットさんの義足に必要な材料は充分揃ったと、納品用収納庫にブルーノさんからの通信が入っていたが、ミスリル製の装備が欲しかった俺たちはさらなる成果を求めて25番口に入った。


 この時欲張らずにさっさと帰っておくべきだったと、後で後悔することになるわけだが……。




**********




 25番口はいまやミスリルゴーレムの巣窟となっており、入れ食い状態で狩りまくれる。


 さらに、激レアであるオリハルコンゴーレムも出現。


 かなり苦戦したが『二段突き』『ねじ突き』『ねじ矢』のコンボで何とか倒せることがわかり、2時間ほどでアイアンゴーレム28体、ミスリルゴーレム12体、オリハルコンゴーレム4体を狩ることが出来た。


 さらに採取を続けようとしたところで突然景色が変わる。


 さっきまで坑道にいたはずだが、突然開けた場所に変わったのだ。


 雰囲気的には同じフェイトン山だと思われるんだが、もしかしてなにか転移系の罠にかかったとかか?


 しかし事前に調べた限りだとそういう情報はなかったし、そもそもトラップなら<罠感知>に引っかかるはずだ。


「ここ……出発点じゃない?」


「あー、確かに」


 よくよく周りを見てみればそんな雰囲気だわ。


 一応確認のため転移陣があるであろう辺りに移動してみる。




《スタート地点を更新》




 お、スタート地点が更新されたってことはやっぱ出発点だな。


 転移陣も無事見つかったし。


 しかしなんでいきなり出発点に? と思ってポケットの中を確認すると、帰還玉がなかった。


「なぁ、帰還玉がねぇわ」


「え? もしかして誤って砕いちゃったとか?」


「うーん、そんなヘマはしないと思うんだけどなぁ。誤作動かなんかか?」


 とりあえず帰還玉無しで探索するのは帰りが面倒なので、報告がてら受付に向かおうとすると、受付の方から誰か走ってくるのが見えた。


「おおーい! 急いでちょうだーい!!」


 どうやら俺たちを呼んでいるらしい。


 とりあえずこちらも小走りで向かい、走ってきた受付のおばちゃんと合流する。


「はぁ……はぁ……。いや、ごめんねぇ。突然のことで驚いたでしょ?」


「なにごとです? なんか気付いたら出発点に戻ってたんですけど」


「それね。帰還玉を強制発動させてもらったんだわ。悪いんだけど緊急事態でね」


「緊急事態?」


「ええ。フュースがモンスターの群れに襲われちゃってね。一刻も早く救援に向かってほしいんだよ」


「モンスター? 魔物じゃなく?」


「倒すと消滅するから、どこかのダンジョンモンスターだろうってことだね。一番可能性が高いのはエムゼタシンテ・ダンジョンかねぇ」


 なんにせよフュースに急がないと、ハリエットさんが心配だ。


「高速馬車を待たせてるよ。もう20人近い冒険者に乗ってもらってんだけど、Bランクのアンタらには出来るだけ早く向かってほしいからね! 頼んだよ!!」


 と、おばちゃんにバシッと背中を叩かれる。


 受付のおばちゃんの言うとおり駅には高速馬車が待っており、俺たちが乗り込むと同時に出発した。


 かなり急いでいるようで、スレイプニルタイプの高速馬車であるにもかかわらず、結構揺れた。




 30分ほどでフュースに到着。


 なかなかひどい状態だった。


 街中には見覚えのあるダンジョンモンスターが溢れており、建物が破壊され、瓦礫やら踏み荒らされた雑貨やら食料等いろんなま物が散らばっている。


 交戦している人もいれば、倒れて動かない人もいる。


 みたところ、ゴブリンやコボルト、オーク等、エムゼタシンテ・ダンジョン5階層ぐらいまでのモンスターが多いようだ。


 いくら浅層の弱いモンスターと言っても、戦闘経験のない一般市民じゃ太刀打ち出来ないし、なにより数が半端ない。


 ざっとみただけでも200~300はいるんじゃないだろうか。


「すまねぇが一匹でも多く倒してくれ! あと治療士ギルドと冒険者ギルド周辺は安全を確保してるから、市民を見つけたら誘導してくれよ!! 頼りにしてるぞ!!」


 馭者席から冒険者に激が飛ぶ。


 冒険者達は「おう!」だの「任せとけ!」だの気合の入った言葉で答え、馬車から降りると同時に駆け出してモンスター討伐に向かった。


 俺たちも例外じゃない。


 デルフィは混戦中の区域で風魔法の矢を使って複数攻撃を行い、的確にモンスターだけを仕留めていく。


 俺は手近なモンスターを手当たり次第突き殺しつつ、モンスターだけが固まっているところを探し出しては『魔渦』で殲滅していく。


「おお! さすが『魔道アタッカーズ』の名は伊達じゃねぇな!!」


 と、近くで戦っている冒険者からお褒めの言葉をいただく。


 パーティー名については早急に対処したが、名前を考えるのが面倒だったので『ラブラブ』だけ取り除かせてもらった。


 はっきり言ってダサすぎるので、浸透する前にまた改名しよう。


 10分足らずでモンスターの群れはほぼ全滅させた。


 単体でウロウロしてる連中は他の冒険者にまかせ、俺たちは宿に急いだ。




**********




 宿の状況は”最悪”の一言だった。


 他の場所に比べ、ここは特に被害が大きい。


 建物は倒壊寸前だし、入口付近に従業員や宿泊客と思われる人の死体がそこかしこに見られる。


 中に入っても同じような状況で、出来るだけ死体を踏まないよう気をつけつつもハリエットさんの部屋に急ぐ。


「ハリエットさん!!」


 悲鳴に近い叫びをあげてデルフィが部屋に飛び込む。


 壁や天井にまで血が飛び散っているが、そこにハリエットさんの姿はなく、血の海で倒れ伏すアルダベルト夫妻の姿だけがあった。


 幸い2人とも息はあったが、この状態での回復魔術は危険と判断し、『止血』のみかけて、俺はアルダベルトを、デルフィはフェドーラさんを抱え、いつ倒壊するとも知れない宿屋を出た。


 宿屋前の広場で2人を寝かせ、状態を見る。


 フェドーラさんは右腕の肘から先と、左脚ひざ上あたりから引きちぎられており、それに伴う大量出血で意識を失っているようだが、それ以外大きな傷を受けた様子は無いので、デルフィが抱えて治療士ギルドに走った。


 問題はアルダベルトの方だ。


 胸や腹に貫かれたような傷が全部で4箇所。


 おそらく重要な臓器をいくつか損傷しており、早急に治療しなければ死んでしまうだろう。


 といって回復魔術は使えない。


 回復魔術というのは、術者の魔力と被術者の生命力を元に傷や疲労を回復する。


 致命傷を負った怪我人に対する回復魔術というのは死を早める行為となる。


 こういった場合、術者の魔力で被術者の生命力を無理やり底上げする蘇生魔術があればなんとかなるのだが、残念ながら蘇生魔術を使えるのはSランク以上の治療士に限られる。


 Sランク治療士などというものは各国に1~2名しかおらず、さらに蘇生魔術というのは術者にかかる負担が非常に大きいため、基本的には要人に対する緊急処置以外使われることはない。


 つまり、このままだとアルダベルトは確実に死んでしまう。


「美人の奥さんがいることを知ったときには死ね死ねと思ったが、ガチで死にかける奴があるかよ」


 意識を失っていたアルダベルトだったが、2~3度咳込んだ後、意識を取り戻した。


「……面目ねぇっす……。ハリエットさんが……さらわれたっす」


 さらわれた。


 つまり殺されてはいないってことか?


「もういい、しゃべるな」


「フェドーラ……は……」


「デルフィが治療士ギルドに連れて行った。大丈夫だ」


「そ……っすか……」


 それを聞いて安心したのか、アルダベルトは再び意識を失った。


 まだ息はあるが、先程に比べ明らかに鼓動は弱まっている。


「さて、どうすっかね」


 回復魔術は使えない。


 蘇生魔術はない。


 このままだと数分でアルダベルトは死ぬ。


 万事休す? いや、まだ手はある。


 フェイトン山で学んだだろ?


 魔術がダメなら、魔法を使えばいいじゃない。 



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