リストラ賢者の魔王討伐合理化計画

平尾正和/ほーち

第2話『ドレッサ共和国』

 ドレッサ共和国。
 その名の通り共和制が敷かれ、封建制度を廃した人類連合では珍しい国である。
 周辺を強い魔物の生息地に囲まれた地理的な事情から、血統による支配ではなく実力による支配を選択せざるを得なかったという歴史を持つ。
 国家元首は大元帥。
 その呼称からわかるとおり軍人である。


「なるほど、軍事独裁制というわけか」


 共和制が民主主義であると限らないのは、ヤシロのいた世界でも同様である。
 こちらの世界のように魔物という明確な敵が常におり、かつ他国より凶悪なものに囲まれているとなれば、国としての行動力や決断力が求められる。
 だからこその軍事独裁制なのだろう。


「しっかし、久々に来たがあいかわらず殺風景じゃのう?」


 グァンが呆れたように、しかしどこか嬉しそうに呟く。
 ドレッサ共和国を訪れているのは賢者ヤシロと秘書クレア、そして元帥グァンの3人。
 彼らはいま、大元帥府の応接室に通されており、そこは余計な調度品などがない、しかし機能的にまとめられた部屋だった。
 ヤシロの目にはなかなか好ましく映っており、グァンもその表情や口調から察するに嫌いではなさそうである。


「やぁ、待たせたね」


 応接室のドアが開き、ひとりの男が現れた。
 軍人らしく引き締まった体つきで、身長はヤシロと同程度。
 見たところグァンと同じ竜人のようだが、纏う雰囲気や顔つきは同じ種族とは思えないほど穏やかなものだった。


「クレアさん、グァン、ひさしぶり」
「おう」
「ご無沙汰しております」


 旧知のふたりに軽く挨拶をした彼は、爽やかな笑顔とともにヤシロへ手を差し出した。


「そしてはじめまして、賢者どの。僕はドレッサ王国大元帥のツァオという」


 およそ軍事国家の独裁者とは思えぬ好青年ぶりに、ヤシロは軽く目を見開きつつ、出された手を握り返した。


「はじめまして大元帥どの。賢者ヤシロだ」


 ツァオの手にグッと力が入る。


「さっそく本題に入ってもいいかい?」


 ヤシロのほうも手に力を加えながら、口を開いた。


「ああ。余計な口上がないのはこちらとして助かる」
「ふふ……いいね」


 そこでふたりは同時に手を離し、簡単な自己紹介は終わった。


*********


「つまり、私の提案した軍の再編成と冒険者ギルドの設置に反対というわけか?」
「反対せざるを得ないといったところかな。ウチにそんな余裕はない」


 ツァオはかなり理知的な人物らしく、ヤシロとの対話は淡々と、しかしスムーズに進んでいた。


「でも賢者どのがもたらしてくれた鋼はありがたい。あれは今後も供給していただきたいのだけど」
「ふむう……。しかしあれはあくまで人類連合に対して提供するという名目があるからな。それに、軍の再編成ができないとひと言に言われても、そうそう納得できるわけではない」
「では我が国に作っていただいた製鋼所も引き上げると?」
「施設を撤去するとまでは言わんが、場合によっては技術者を引き上げさせてもらうかもしれん」
「ははは、それは困る。実質潰れるようなものじゃないか」
「そもそも軍の再編成なしに魔王軍に対抗できるのか?」
「もちろんだとも。むしろ下手に再編成をして軍事行動が少しでも緩むほうが危険なんだよ。我が国は常にギリギリのところで戦い続けて生き延びてきたんだ。まぁ、鋼のおかげで多少の余裕はできたけど、それでも大々的な再編成を行えるほどじゃない」
「ふむう。ではいちど貴国の軍を見せていただきたいのだが?
「ああ、望むところさ」


 あれよと言う間に話はまとまり、ヤシロたちはツァオの案内で最前線へと向かうことになった。



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