【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります

平尾正和/ほーち

第7話『おっさん、対策を考える』

「待てヴァルター!」

 困惑し、どよめく文官を置き去りに、武官を引き連れて出て玉座の間を出て行ったヴァルターを呼び止めたのは、道楽貴公子ことカーティスだった。

「ヴァルター、お前いったいどういうつもりだ!?」

 振り返ったヴァルターは、眉を上げてズカズカと歩み寄ってくる従弟の姿に、気まずそうな表情を浮かべる。
 そんなふたりのあいだに、親衛隊長が割って入った。

「道楽者が無礼ではないか!」
「かまわん」

 親衛隊長はヴァルターを一瞥すると、軽く礼をしてさがり、カーティスに道をあけた。

「どうしたカーティス? なにか言いたいことでもあるのか?」
「言いたいことしかないよ! お前、天網を犯して国を傾けるつもりか!?」

 第2王子に対する無礼な物の言い方に、周りの武官たちは眉をひそめたが、当のヴァルターがとくに気にした様子はない。
 歳の近い従兄弟同士であるこのふたりは、幼少のころからよくつるんでおり、そのときの名残で私的な場ではお互いに砕けた態度になるのだった。

「おおげさだな。たかが100人足らずの精人と戦うだけのことだろう?」
「それが天帝に知れたらどうなる? 周辺諸国が黙ってないぞ!」
「バレなきゃ大丈夫だろう?」
「バレるに決まっているだろ!!」
「……まったく、そう大声を上げるな。お前らしくないぞ?」
「誰のせいだと思っているんだよ!!」

 やれやれと肩をすくめるヴァルターに対し、カーディスはさらに声を荒げる。
 ヴァルターの言うとおり、カーティスは普段穏やかで、のんびりとしていることが多い青年だった。

「言っておくが、こいつらの中に俺を裏切るようなやつはいないぞ?」

 ヴァルターの言葉に、武官立ちは力強く頷く。

「いや、文官たちの口から漏れるに決まってるだろ」
「そうかな。もしこのことが天網府に知れれば、そりゃ国は危ういかもしれんが、わざわざ自分の国を危険にさらすようなやつがあの中にいるか?」

 従兄のあまりに短絡的な考えに、カーティスはがっくりと肩を落とす。

「あのなぁ……人の口に戸は立てられないんだぞ? それにメアリーの件で天網府はすでに動いているんだ。内通者のひとりやふたり、いてもおかしくないだろうさ」
「考えすぎじゃないのか?」
「お前が……お前らが考えなさ過ぎなんだよ!!」

 カーティスはそう言って武官たちをひととおり見回したあと、再びヴァルターを睨みつけた。

「いいか、さっきは少し濁したがこうなったらはっきり言ってやる。このまま行けば王国は滅ぶ! 必ずだ!! そうなる前に発言を撤回してエリオット兄さんを解放するんだ!!」
「ふん……だから大声をあげるなよ、お前らしくない」

 ヴァルターはおどけてそう言ったが、背筋には少し寒いものを感じていた。
 短絡的な行動だという自覚はあったが、仮に自分が失敗しても、エリオットとカーティスがあとでなんとかしてくれるだろうという、甘い考えを、ヴァルターは持っていた。
 ところが、いつも穏やかな従弟がこうも血相を変えて取り乱している姿をみて、もしかすると取り返しのつかないことをしようとしているのではないかという思いが、徐々に生まれ始めていたのだった。

「ふざけるな……! 僕が……僕がこれまでどれだけ苦労をして……」

 そのカーティスの呟きに、武官たちのあいだから嘲笑が湧き起こる。

「ふん、道楽者が偉そうに」
「そうだそうだ。道楽貴公子どのはただ美味いもの食いたいだけだろうに」
「くだらん娯楽で民衆を堕落させているのはどこの誰だ?」
「そのとおりだ! お前こそ国を傾けようとしているのではないか!」

 嘲笑はやがて侮蔑へ、さらに糾弾へと変わりつつあったが、ヴァルターが手を挙げてそれを制した。

「カーティス。お前だって道楽のためにこれまで好き放題してきたのだから、俺の気持ちもわかってくれるだろう?」

 ヴァルターの問いかけに、カーディスは無言で視線だけを返した。
 その醒めた目に、ヴァルターは思わず後ずさりしそうになるのを堪え、その視線から逃れるのをごまかすように天を仰いで大げさに両手を広げた。

「お前が美味いもの食いたいと思うように、俺は戦場を思い切り駆けてみたいのよ! 過去の英雄たちのように、武器を振るい、兵を繰りたいのだ!! 望むままに行動したいという意味では、同じことだろう?」
「同じなものか!!」

 言い訳がてら自身を鼓舞しようとしたヴァルターの言葉を、カーティスの怒声が遮る。

「ああそうさ! 僕は美味しいものが食べたいし、面白いものを観たい! そのために力を尽くしてきたさ! でもそのために僕は、農業や流通に手を入れ、いろいろな食材が手に入るように、さまざまな人が行き交うように試行錯誤してきたんだ! でもそれは国を富ませることにつながるんだよ! 軍の兵糧はだれが作っている? 装備はどうやって用意している? 軍人の俸禄はどこからでている? お前らがいくさごっこに興じていられるのも盤石な内政基盤があってこそだろう!!」

 カーティスが口にした戦ごっとという言葉に、憤りを露わにする者は多く、ヴァルター自身眉をひそめながらも、手を挙げて武官たちが何か不満を口にする前にそれを制した。

「ふん……ごっこじゃなく、本物の戦にしてやるさ」

 どうやら自分の口にした戦ごっこという言葉が、ヴァルターを始め武官立ちの神経を必要以上に逆なでしたことにカーティスは気付いたが、どうせ何を言ったところで聞く耳をもたないだろうから、開き直ることにした。

「100人足らずの非戦闘員を、千の軍で蹂躙するのを戦というのか?」
「とはいえ精人は強いというからな。戦う以上負けるわけにはいかんよ。まず勝ちてしかるのちに戦う……だったか? たしかお前に教えて貰った言葉だ」
「それ以上に大切なことも教えたよな? 兵は国の大事にて――」
「あーそれ長いから嫌い」

 ヴァルターは子供のような態度でそっぽを向き、カーティスの言葉を遮った。

「数はともかく地の利は向こうにある。いい勝負ができると思うんだがな」
「……精人を手にかけたとなると、ィエムタの獣王が黙っていないぞ?」
「そうなれば大軍を動かせるな。胸が躍るじゃないか」
「それを期にトカセの聖王とネアの魔王が動いたらどうなる? お前は戦乱を招く気か?」

 戦乱という言葉に、ヴァルターはわざとらしく口の端を釣り上げる。

「それも悪くない。いっそ天帝などというお飾りを廃し、力で天下を治めて俺が覇王になるのも悪くないな」

 ヴァルーターの大言壮語に、武官たちは色めき立った。
 彼自身、それはほとんど妄言に近いものであるとの自覚があり、カーティスはさぞ呆れているだろうと彼に目をやる。

「――っ!?」

 だが、従弟はこれまで見せたことのないような、冷たく、鋭い視線を自分に向けていた。

「覇王、と軽々しく口にするな」
「なにがそんなに気に食わな――」

 初めて聞く従弟の低い声に、ヴァルターは少し顔を引きつらせていた。
 カーティスはそんな従兄の言葉を遮るように詰め寄り、ヴァルターの襟首を掴み挙げた。

「いいか、よく聞け。歴史上覇王を名乗っていいのはただひとりだけだ。少なくともこの世界に覇王を名乗っていい奴なんかひとりもいない」

 すべてを見透かしているようで、その実なにも見ていないような、そんな従弟の目に思わず震えそうになったヴァルターは、呪縛から逃れるように、力尽くでカーティスの手を振りほどいた。

「ふん……! 呼び名なんぞなんでもかまわんさ。とにかく、話は終わりだ」

 無理矢理手を引き剥がされ、よろめく従弟を尻目に、ヴァルターは踵を返して歩き始め、武官立ちもそれに続いた。
 背中に冷たい視線をずっと向けられているように感じたが、ヴァルターは振り返ることができなかった。

**********

「しかし、大軍が攻めてくるとなると、どう対処すればいいんでしょう?」

 敏樹の質問は、誰に対してというものでもなかった。
 マーガレットか、テレーザか、あるいはファランあたりが何か答えてくれないだろうかという期待を込めた、大雑把なものである。

「軍を相手にするってことは、憲兵隊なんかはアテにならないですよね?」
「そうだな。憲兵にとって親衛隊は同輩というか、上位組織に当たるからな」

 最初に答えたのはテレーザだった。

「といって天網府に頼るのも厳しい?」
「ええ。天網府の戦闘部隊をかき集めるか、あるいは禁軍を動かせば対処できるでしょうけど、中途半端に介入して下手に事を大きくするようなことはしないでしょうね。天網府は推移を見守り、結果次第で周辺の王国に勅命を下して一気にカタをつけるつもりでしょう」

 マーガレットの答えを聞いた敏樹は、チラリとファランを見る。

「悪いけど、商会の護衛や私兵をかき集めても、そこそこ訓練された軍を相手になんてできないからね」

 ファランの言葉に、彼女の護衛であるベアトリーチェも、申し訳なさそうに無言で頷く。

「そりゃそうだろうなぁ。となれば頼る先はひとつ……」
「冒険者ギルド、ですね」

 ロロアの答えに、全員が頷く。

「でも、動いてくれるかな? 頼むにしても、偉い人に話を通さなきゃいけないだろうし、その時間があればいいけど」
「そう言う意味で言えば、我らがこの町にいるというのは都合がよかったな」
「え、なんでです?」

 テレーザの言葉に敏樹は疑問を投げかける。

「なんでもなにも、ここには王国統括ギルドマスターがいるじゃないか」

 敏樹はその答えに改めて首を傾げた。

「バイロン殿だよ。知らなかったのか?」
「ええっ!?」
「そうなんですか?」

 と、敏樹とロロアは驚きの声を上げたが、それ以外の者はふたりの姿に少し呆れていた。

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