【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります

平尾正和/ほーち

第2話『おっさん、勉強する』

 敏樹らが現在活動拠点にしているヘイダの町は、ケシド州にあり、ケシド州はテオノーグ王国に属している。
 が、このテオノーグ王国、正確には国ではない。
 テオノーグ王国というのは、メティユという大きな国の、一地方の呼び名である。
 そしてメティユの頂点には天帝というのがいるらしい。


「うん、初っ端からややこしい」
「だよねー」
「自治領みたいなもんか?」
「そんな感じかな。まぁその辺を理解するには、ちょっとだけ歴史の勉強が必要かなぁ」


 もともとメティユは天帝が治める大きな国であり、その下には30を超える州がある。
 天帝は天網てんもうという律令によってメティユを治めていた。
 とはいえ天網というのは「殺すな」「盗むな」「侵すな」を基本とした大雑把なもので、細かい法律は各地域や文化をもとに州法が定めらた。
 各州の行政を執り行なっていたのは、州牧しゅうぼくを頂点とする役人たちであった。


「平和な時代が続くなか、天帝の影響力は徐々に衰えていったんだ。そして、強欲帝の時代に決定的な変化が訪れる」


 後に強欲帝と呼ばれたその天帝は、もともと帝位継承順位がかなり低い庶子だったらしく、ひどく貧しい暮らしをしていたらしい。
 それが、泥沼の跡目争いの結果天帝となった。
 無謬の権力を手にした彼が欲したのは金であった。


「強欲帝はお金欲しさに官職を売りに出したのさ」
「つまり、賄賂を積めば州牧とかになれたわけか。まぁどこの世界、いつの時代にもありそうな話だな」


 さて、そんな売官行為が横行する中、とある州牧が王を名乗った。
 平和な時代とはいえ、税収を上げるために州境を書き換えようとする小競り合いのような争いは各地で発生しており、領地の獲った獲られたは日常茶飯事だった当時、その州牧は他の州牧を力で押さえ込み、2つの州を実効支配するにいたった。
 そして複数の州を治める者として、史上初の王を名乗ったのである。


「これが、勝手に王を名乗ったのなら鼻で笑われて終わりだったんだろうけど……」
「天帝のお墨付きがでた、とか?」
「正解! トシキさんあったまいいー」


 その州牧は強欲帝に働きかけ、王という新たな官職を認めさせたのだ。
 無論、大金を支払って、ではあるが。


「そうなると王のバーゲンセールだろうなぁ」


 半ば感心、半ば呆れたように呟く敏樹の想像どおりである。


 複数の州を治めて金を払えば王になれる。
 王が増えれば天帝はお金がたくさんもらえる。
 需要と供給が見事にマッチし、王が乱立することになった。


「ただ、王になるためには、お金も大事だけどなにより2つ以上の州を実効支配する必要があるからね」
「だったら力で奪うのが手っ取り早いわな」


 乱世の到来である。


 血で血を洗う仁義なき戦いが各地で繰り広げられた。
 そして強欲帝が金に埋もれながらも天寿を全うする頃には、天帝の権威も権力も失墜していたのだった。


「でもまぁいつまでも戦争ばっかやってるわけにはいかないからね。一時は勝手に州を増やしたりして50以上の州に20人以上の王がいたりしたんだけど、最終的には七人の王が分割統治するところで落ち着いたってわけ」
「いまも天帝が存在するってことは、神輿に担ぎ上げられたか」
「よくわかるねぇ。もしかして事前に勉強してた?」
「いやいや、そういうのってほんとよくあるから」


 春秋時代の周王、三国志の舞台となった後漢末期の皇帝などかこれに近いだろうか。


「以来数百年、七人の王がメティユを支配する時代が続いてるってわけ。で、我らがテオノーグ王もその一角を担ってるのさ」
「とりあえず各王国はそれぞれ王の自治に任されている。どこかの王が無茶をしようとすると、天帝の意向という名目で他の王から横槍が入るって感じかな」
「ほんと、理解が早くて助かるよ。ビーチェなんか途中で寝ちゃったもんねぇ」
「んぁっ!? ね、寝てない、寝てませんよ、私は」


 突然名前を呼ばれてガバッと顔を上げたベアトリーチェが、焦点の定まらない目を何度もぱちくりとさせながら、キョロキョロと当たりの様子をうかがうように首を振る。
 そのたびに揺れる長い髪から、ほのかにいい香りがするのがなんだか面白かった。


「ああ、いいよいいよ。いまはトシキさんもロロアちゃんもいるからさ。退屈ならしばらく寝ときなよ」
「ん? そう? じゃあおやしゅみぃ……」


 おそらく半分以上寝ぼけていたであろうベアトリーチェは、ファランの言うとおり敏樹らがいることに安心したのか、今度はソファに身を預けて堂々と寝息を立て始めた。


「ロロアちゃんは大丈夫? 退屈じゃない?」
「私は大丈夫。ある程度知ってたことだし、新しく知れたこともあるからおもしろいよ」
「そっか、じゃあ続けるね」


 権威と権力を売り捌いてすべてをなくしたかと思われた天帝は、乱世を生き残った七人の王の都合とはいえ、権威だけは取り戻すことができた。


「いまの体制になって長いから、天帝も徐々に力を取り戻しつつはあるんだけどね。じゃあ次は王法について少し説明するね」


 王法とはその名の通り、王が定めた法律である。
 州法は今もなお有効であるが、その適用範囲はもちろん州内にとどまる。
 そこで、複数の州を有する王国全土に適用される連邦法とでもいうべきものが、王法というわけだ。
 ただし、王法は王が定めた法だけあって、王や王族、それに近い役人、豪族、富豪たちにとって都合のいい部分が多い。
 仮に州法を犯したとしても、王法によって裁きを免れるということも多々あるのだという。


「そうやって王法に守られて好き勝手してる連中も、逆らえないものがあるんだ」
「天網、だな」


 天網は王より上位に位置する天帝が定めた法律である。
 天網を犯すということは、天帝に逆らうということを意味する。
 そして天帝に逆らうということは、他の王たちに付け入る隙を与えるということになるのだ。


「精人に関わる法はすべて天網によって定められているからね。ボクらが頼るべきはそこかな」
「なるほどな。で、天網を取り締まる機関は?」
「もちろんあるよ。天網府っていう、すごくベタな名前だけどね」


 こういう機関の名は分かりやすいに限る。
 そしてこの天網府には、高級役人や大商人はもちろん、王族から王本人至るまで、容赦なく取り締まる部署がある。


「天網監察。ボクたちはまずそこに話を通すべきだろうね」



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