【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります

平尾正和/ほーち

第11話『おっさん、女性たちの回復に努める』

 ロロアのテント近くの空き地に女性たちが並んでいた。
 先ほどの集会が終わり、ある程度住人たちの熱が収まったところで、敏樹の指示によりロロアが彼女らを集め、横一列に並ばせていたのだった。
 これから何が起こるのかと戸惑っている女性も多いが、こちらに来てから彼女らをかいがいしく世話したロロアに対する女性たちの信頼は篤い。
 戸惑いはするが、不平を言う者はひとりもいなかった。


 その女性たちの背後、彼女らに気付かれない少し離れた位置に立つ敏樹は、タブレットPCを構えていた。
 ひとりひとりカメラに収め、パーティに加えていく。
 別に正面からでなくとも個人を特定でき、パーティに加えることは可能だった。
 あとはそれぞれの〈精神耐性〉レベルをあげていく。
 レベルの差はあれど、全員が〈精神耐性〉や〈苦痛耐性〉のスキルを習得していたことに、敏樹は軽い胸の痛みを覚えた。
 しかし感傷に浸っている場合でもなく、冷静にタブレットPCを操作して各人の〈精神耐性〉レベルを上げていく。
 レベルの差はともかく、全員がレベルアップ可能な状態であった。
 『レベルアップ可能な状態』から次の段階にスキルレベルを上げるという行為だが、本来これには相当な努力や経験、時間が必要な物であるらしいことが、敏樹には最近わかってきた。
 この『レベルアップ可能な状態』というのは、努力や才能の壁にぶつかっている状態といえる。
 本来はそこに到達してから、さらに多くの時間をかけて努力や経験を積み重ね、人はようやくスキルレベルをアップさせるのである。
 人によってはそこが才能の限界となり、一生かけてもレベルアップできないということもあるだろう。
 しかし敏樹はタブレットPCを使ってトントンと画面をタップしていくだけでその壁を越えることが、そして越えさせてやることが出来るのである。
 これこそ敏樹が手に入れた最大のチート能力といっていいのかもしれない。


「1000億ポイントは伊達じゃないな」


 女性たちの中にはなにやら首をかしげたり、辺りを見回したりと、自身の内に起こった何かしらの変化に気付く者が数名いた。
 まったく様子の変わらない者もいたが、レベルの高い者ほどその変化を感じ取っているようだった。


「さて、ここからだな」


 スキルレベルをひとつあげたぐらいで彼女たちの精神が復調に至るとは限らない。
 可能な限りレベルをあげてやりたいところだが、そうなるとスキルの経験値とでもいうものを積ませてやる必要がある。


「〈精神耐性〉スキルのレベルを上げるには……、精神的な負荷を与えてやる必要があるのかぁ…………」


 物憂げにため息をついた敏樹だったが、ここまで助けた以上最後まで面倒を見るのは自分の役目だろうと覚悟を決めた。
 そのプレッシャーのせいか、彼の〈精神耐性〉スキルも『レベルアップ可能な状態』になっていたので、ついでに上げておいた。


「お、ちょっとだけ、楽になったかも」


 そう呟きながら、敏樹はタブレットPCを片手に女性たちのほうに向かって歩いていく。


「みなさんに大事なお話があります」


 横一列に並ぶ女性たちの背後から、敏樹が声をかけた。


『――っ!?』


 程度の差はあれど皆一様に驚き、各々恐怖、あるいは嫌悪の表情を浮かべて後ずさる。
 アジトで救出されたときは真っ暗で周りがほとんど見えなかったことと、なにより助かるかも知れないという希望が恐怖に勝っていたため、誰も欠けることなく敏樹に触れることができたのだが、いざ助かって落ち着いてみると、男性に対する言いようのない恐怖や嫌悪は隠すことも出来ないようだった。
 それでもいま目の前に現れた男が自分たちを救ってくれた張本人であり、憎き山賊を討伐するために立ち上がったのだとわかったところで、少なくとも嫌悪の表情を浮かべる者はいなくなったが、男性に対する恐怖だけはどうにもならないようである。


「みなさんが俺を怖がっている……、というか、男性を怖がっているということはわかっています」


 敏樹は女性たちに語りかけ、自分が彼女らの力になりたいこと、そして力になれることを言って聞かせた。
 しかし長年多くの男たちから酷い目に遭わされ続けた女性たちの信用を得るのは難しい。
 たとえ恩人であってもだ。
 こうやって敏樹と向かい合っているだけでもそれなりの精神的ストレスになるようで、幾人かはこれだけでスキルレベルを上げることはできた。
 しかし一定以上は上がらないようであり、彼女たちが立ち直るにはもう少し高いレベルが必要であると『情報閲覧』は答えるのだった。


「みんな。この人は信頼に足ると、あたしは思うけどね」


 そんな中、援軍は思わぬところから現れた。
 シーラである。


「あたしがどんなだったか、みんな覚えてるよね」


 女性たちは信じられない者を見るような目でシーラを見ていた。
 少し前までのシーラの状態を知っているだけに、いま当たり前のように立って歩き、普通に話せていることが信じられないようである。


「あたしはこの人に、トシキさんに救われた。身も心もね」


 そう言ってトシキのすぐ横に立ったシーラは、トシキの肩にポンと手を置いた。その様子に、女性たちの間からどよめきが起こる。
 それもそのはずだろう。
 自分たちの中で最も酷い状態だったがシーラが、あろうことか男性のすぐそばに立ち、軽くとはいえ触れているのだ。
 女性たちの雰囲気が変わったことを感じた敏樹は、一歩前に進み出た。


「ここから先、無理強いはしない。今のままでも時間が経てばある程度心の傷は癒やされるだろうしね。でも、シーラのようにしっかりと立ち直りたいのなら、これからどう生きるのかという問題に向き合ってほしい」


 そう言ったあと、敏樹は地面に少し大きめの円を描き、その中に椅子を二脚、向かい合うようなかたちで設置した。そして円を境界にした【結界】を張り、〈音遮断〉の効果を付与する。
 そして〈格納庫〉から鍋とお玉を取り出し、お玉で鍋底を叩いてカンカンと音を鳴らした。


「この円の中に入ったら、外には音が漏れない」


 敏樹は鍋底を叩きながら鍋とお玉を結界内に入れた。そして敏樹の言ったとおり、カンカンと耳障りな音を立てていた鍋底は一切音を発しなくなる。


「この円には出入り自由だ。周りにはみんないる。でも話している内容は聞こえない。もし俺と話している様子を見られたくないというのなら――」


 敏樹は結界に〈擬態〉の効果を付与すると円の中にあった椅子が消えた。正確には見えなくなったというべきか。


「こうやって周りから見えなくすることもできる。ちなみに中から外はちゃんと見えるから安心してほしい」


〈擬態〉が解除され、二脚の椅子が再び姿を現す。


「この中で、俺と一対一で会話をしてもらう。それで、まぁ男に慣れてもらおうかって感じかな。誰からでもいいから心の準備が出来た人から来てほしい」
「あの……」


 敏樹が円に入ろうとしたところで、ひとりの女性が声をかけてきた。
 大柄なボサボサ頭の女性で、確か熊獣人で名前はベアトリーチェといったか。
 明るい茶色の髪は伸び放題でかなり傷んでおり、頭にあるはずの熊耳がゴワゴワの頭髪に隠れてしまってあまり見えない。
 伸びた前髪の陰から小さくつぶらな瞳が見え隠れしていた。




「なに?」
「なにを、話せば……いいんですか?」
「なんでもいい……じゃ、逆に話しづらいか。じゃあこの先どういう人生を送りたいか、とか、子供のころ何になりたかったとか、夢物語でいいからさ、自分がこうありたいっての聞かせてもらえると嬉しいかな」
「わかり……ました……」


 こうして敏樹のカウンセリングが始まった。
 タブレットPCを片手に女性たちの話を聞きながら、彼女たちの〈精神耐性〉レベルを上げつつ、要望に合いそうなスキルも習得させていった。



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