【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります

平尾正和/ほーち

第6話『おっさん、現地人にもてなされる』後編

「せっかくなので、俺からもお返しを」


 そう言うと、敏樹は〈格納庫ハンガー〉から日本酒の小瓶を取り出した。
 敏樹自身、あまり酒を嗜むということはなかったが、珍しい酒が手土産として重宝されるのはどの世界でも変わらないだろうとの思いから、色々な酒を用意していた。
 今回取り出したのは、それほど高価ではない、180ミリリットルの清酒の小瓶だった。
 それとは別に、白いお猪口を3つ、用意した。


「トシキは【収納】を使えるのか」
「ええ、まぁ」
「羨ましいことだ」


 ここでいう【収納】は魔術を指し、〈格納庫〉や〈アイテムボックス〉などの収納系スキルとは全く異なるものである。
 収納系スキルが異空間に物を出し入れするのに対し、【収納】は収納庫と呼ばれる施設と契約し、そこに物を転移させる魔術のことをいう。
 収納庫の容量や性能はもちろん施設に依存する形となり、その性能に応じて利用金額も異なる。
 収納系スキルのほうが有用ではあるが、それらは加護か祝福で得る必要があるのに対し、【収納】は金さえ払えば大抵の人は使うことが可能だ。


「ほう、見事なガラス瓶だ。それにその白い陶器も見事だな」


 透明な、あるいは薄く色の入ったガラス製品がこの世界に存在することは、酒を用意するにあたって調べておいた。
 3つのお猪口に酒を注いだ敏樹は、まず自分が最初に飲んだ。


「ささ、ゴラウさんも」
「いや、私は……」


 グロウは何も言わなくても飲むだろうと思ったが、息子のゴラウは遠慮しそうだったのであえて勧めた。


「ゴラウ、いただきなさい」


 ゴラウの敏樹に向けられる視線に、多少警戒の色はあったが鋭さはなくなっていた。
 そのきっかけとなったのが、振る舞われたどぶろくを敏樹が躊躇なく口にしたことだった。
 通常であれば毒などを警戒してもおかしくないところである。
 少なくとも敏樹の側で自分たちを忌避していないのであれば、こちらから敵意を向ける必要はないと、ゴラウは考えたのだった。
 敏樹の場合は仮に毒をもられたとしても、〈無病息災〉が無効化するのであるが、それはゴラウには知り得ないことである。


「はい、では遠慮なく」


 まずグロウが飲み、それを確認してゴラウが飲んだ。
 毒味という意味であれば先にゴラウが飲むべきであるが、それは敏樹が済ませていた。
 であれば、もてなしを先に受けるべきは父親であり集落の長でもあるグロウのほうである。


「おう、これは……」
「へぇ、なんだかすっきりとした飲みくちですね」


 初めて飲む酒の味に、2人とも驚いているようだった。


「これも、米から作っているんですよ?」
「なんと!?」


 グロウが驚きの声を上げた。


「これは、きっと売れるぞ……」
「でも、父さん……」
「ああ、そうだな」


 一瞬期待に胸をふくらませるような雰囲気だったグロウだが、ゴラウの言葉を受け諦めるような雰囲気に変わった。
 なにかいろいろと訳ありのようだが、いま突っ込んで話を聞く必要はないと判断し、とりあえず聞き流すことにした。


 その後、取り留めのない雑談が続いた。


「トシキ殿は冒険者なのですか?」


 酔いが回ったのか、ゴラウは敏樹に対して随分と気安くなっていた。
 ただ、蜥蜴頭は酔っても赤くならないので、その判断は難しいが。


「いや、ただの探検家ですよ」


 探検家と冒険者の間にはそれほどの差はないように思われるかもしれないが、この世界においては明確に異なる。
 探検家というのはその名の通り各地を巡って探検する者のことである。
 一方、冒険者というのは、冒険者ギルドという組織に所属し、ギルドの規定に従って職務を遂行する者のことである。


「さて、日も暮れてきたところだし、宿を用意しよう」
「ああ、おかまいなく。空きスペースさえあればテントでも立てますし」
「だめですよ、トシキ殿! あなたは大事な客人なのですから」


 最初警戒心はどこへ行ったのやら、ゴラウは敏樹を手厚くもてなす気満々のようだった。
 その様子に、グロウも少し呆れ気味である。


「ではゴラウ、ロロアのところへ案内してやってくれ」
「え……?」


 ゴラウが戸惑いの声を上げる。


「いや、父さん。ロロアは……」
「ゴラウ」


 ゴラウは抗議したが、グロウに重く名を呼ばれ、口を閉じた。


「わかりました……。トシキ殿、こちらへ」
「あ、はい。あのごちそうさまでした」


 敏樹は立ち上がり、グロウに軽く頭を下げた。


「いや。こちらこそ。それに、すぐ出て行けなどと失礼だったな。お主さえ良ければゆっくりしていってくれ。何もない集落ではあるが」


 敏樹は再び軽く頭を下げたあと、ゴラウの後ろについて長の家を出た。


 敏樹はゴラウに連れられ、集落の外れに来ていた。
 他の住居とは少し離れた場所に、ぽつんと革張りのテントが立てられている。
 ここに来るまでのゴラウの足取りは重く、敏樹は何度か事情を聞こうと思ったが、結局ここまで何も聞けずじまいだった。


「トシキ殿」


 ゴラウが少し沈んだ声で話しかけてきた。


「はい?」
「ここはロロアという者の住まいです。長の命により・・・・・・トシキ殿にはここに泊まっていただきます」


 『長の命により』という部分を強調した辺り、ゴラウにとっては不本意なことなのだろう。


「はぁ」
「その、ロロアは……、心根の優しい女です」
「女!? あの、女性と同じテントというのはちょっと……」
「ああ、ご心配なく。女と言っても、その、容姿がアレですのでおそらくそういうことには……、ああ、でもトシキ殿はヒトだからあるいは……。仮にそうなったとしても、トシキ殿は信頼を置けそうだし……なるほど、だから父さんは……」
「あの、ちょっと?」
「ああ、すいません。とにかく、トシキ殿でしたら問題ない…………と、父さんも判断したのでしょうから、遠慮なさる必要はありませんよ」
「は、はぁ……」


 敏樹としては容姿云々以前に見ず知らずの女性とひとつ屋根の下で眠るというのはどうにも抵抗があった。
 しかしグロウの指示でもあるし、無下に断るわけにも行かない。
 もしお互い気を使うようなら、このあたりにはスペースもあるようだし、別にテントを立てることにしようと思い、この場は諦めることにした。


「ロロア、いるか? ゴラウだ」


 ゴラウはテントの入り口に立つと、中に向かって声をかけた。


「……ハイ」
「客を連れてきた。世話をしてほしい」
「……オマチクダサイ」


 テントの中から衣擦れの音が聞こえる。
 着替えか何かをしているのだろう。1分と経たず入り口の幕が開けられ、ローブに身を包んだ人物が姿を表した。


「オマタセシマシタ……」


 全身をローブで包みんだその人物は口元を布で隠し、フードを目深にかぶっていた。


「ロロア。こちら客人のトシキ殿だ」


 ロロアは敏樹の姿を見ると、怯えたようにビクンと震えた。


「心配するな。敏樹殿はヒトだが、悪い方ではないよ。先ほどまで私と父さんと3人で酒を飲んでいたのだからね」
「ソウ、デスカ……」


 その言葉に、ロロアは少し緊張を解いたようだ。


「トシキ殿、これがロロアです。この格好についてはご容赦ください。少し事情がありますので……」
「ああいえ、大丈夫です」
「ロロア、デス。ヨロシク、オネガ、シマス……」
「ああ、どうも。トシキです。はじめまして」


 ロロアと敏樹はお互い頭を軽く下げあった。


「ではトシキ殿、ごゆっくり。なにかお困りごとがありましたらなんなりとこのロロアにお申し付けください。ロロア、大事な客人だからね。頼んだよ」


 ゴラウはそう言い残すと、最後にもう一度敏樹に頭を下げ、この場を去っていった。


「トシキ、サマ。ドウゾ、ナカヘ」
「あ、はい。お邪魔します」


 敏樹は招かれるまま、ロロアのテントに入った。
 テントとはいっても支柱や骨組みはしっかりとしており、広さは10畳程度、高さも一番高い所で2メートルほどはあるので、住居として特に問題はなかった。
 中にはカンテラのような照明器具があり、意外に明るい。
 地面には継ぎ接ぎされた大きな革のラグマットが敷いてあり、ロロアがその前でサンダルのような履物を脱いでいたので、敏樹もそれに倣って靴を脱いだ。
 その様子を見て、ロロアは少し安心したような態度を見せた。


「ドウゾ」


 と出されたのは、グロウの家で用意されたような革のマットではなく、薄い袋状に縫製した革の中に藁を詰めてクッション性をもたせた座布団のようなものだった。
 米を栽培していると言っていたので、藁を手に入れるのは容易なのだろう。


「ナニカ、ヨウジ、アリマス?」


 座布団に座った敏樹にロロアが問いかけた。


「えーっと、そうだなぁ。ヒトの言葉って、喋れます? 大陸共通語とか」
「はい。大丈夫です」


 随分と流暢な喋り方になった。〈言語理解〉を持つ敏樹には、どんな言葉も日本語に聞こえるのだが、口調や訛まで再現されてしまう。
 ロロアの顔は布に覆われて見えないが、その形はヒトに近いように見えた。
 もしヒトの言語を喋れるのであれば、そちらのほうがいいのだろう。


「俺と話す時はそっちでお願いします」
「わかりました」


 ロロアはフードで顔を隠すようにうつむいていた。
 どうやら見られたくなさそうなので、敏樹はできるだけ彼女の顔から視線を外すように努めたが、かといって明後日の方向を見るわけにもいかず、自然と視線は下の方にずれてしまう。


「むむ……?」


 下にずれた視線は彼女の胸元を捉え、その膨らみを注視するかたちになってしまうのは男のさがである故に仕方のないことであろう。
 そしてゆったりとしたローブの上からでも視認できるその膨らみに、敏樹はついうなりをあげてしまったのだった。



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コメント

  • ウォン

    むむむっ、むっつりーに

    0
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