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自宅遭難

ねぎたま

第3話 出社

朝4時に起きた。二度寝したら起きられないかもしれないと思い、背広に袖を通した。
痩せすぎてブカブカである。
ズボンのベルトの穴が足りない。

遭難現場から外に出て、電車の駅に着く前に疲れた。筋肉痛のような痛みが全身にのしかかる。


「座りたい」


膝を両手で支えながら歩き、やっとの思いで最寄り駅に着いた。
途中座れそうなところを見つけては休憩した。座れる場所に寄るのも辛い。一歩でも会社からの距離が遠退くのが惜しかった。
駅に着く頃には出勤ラッシュ時間になっていた。
駅のホームは二階にある。階段を上るが、二、三段の所で疲れ、手すりに捕まりながらしゃがみこんでしまった。横をリュックを背負った老人たちが元気よく階段を上って行く。

もう帰ろうかと思った時に、駅員が来た。
誰かが駅員に知らせたらしい。
ホームに行きたいが、体力が続かない、筋肉痛の様な痛みがある話を駅員にしたところで救急車が駅前に止まった。人身事故でもあったのかと不安になっていたら、自分を運び出そうとした。
救急隊に乗車を断り、エレベーターでホームに向かった。車いすを勧められたが、断った。この時、ここの駅にエレベーターがある事を初めて知った。

電車が来た。乗ろうとするが、足がついていかない。仕方がなく、次の電車を待つ事にした。

見かねた駅員が人ごみを整理し、やっとの思いで電車に乗れたが、満員である。座れない。そう思った所で二、三人から座る様に席を譲られた。
座った途端に眠気が襲う。
電車の乗り換えでは人の波について行けず、壁伝いに歩いた。
邪魔だと陰口も叩かれ睨まれもしたが、私の顔を見るなりイヤな物でも見たかのような顔をした。中には悪態をついたあと、私の顔を見て謝る者もいた。
電車では席を譲られた。どんなに混んでいても、目が合った瞬間に席を譲ってくれる。老人からも席を譲られた。
行く先々で体調を聞かれ、大丈夫、行くところがあると伝え、何度も救急要請は不要と断った。
邪魔と言う声もあれば、優しくしてくれる人もいる。
老人から杖をプレゼントされそうになった。勿論、丁重にお断りした。
自分は一刻も早く復帰したいと思う一心だった。
いつのまにか右ポケットの中は飴玉で一杯になっていた。

今思うと、床屋で散髪をしていなかったら浮浪者として扱われ、状況は違っていたかもしれない。

昼少し前に会社に着いた。
自分の席の机の上の書類は片付けられていた。元?自席に座ったところで、「今日からここですか?」と聞かれた。
あー、いえ、違うんです。と言った所で熊谷部長から「おおぬま! 小さくなったな。お帰り!」と言われた。

その場にいた社員から声が上がった。
部長を除いて、私を大沼だと思っていなかったらしい。
仕事を放り投げ、出社拒否になったと思われていた。

そして、熊谷部長から飯を食って帰る様に言われた。

昼飯を食ったら帰れ。
昼飯を食ったら帰れ。
昼飯を食ったら帰れ。

やっと来たのにと思ったが、ありがたくそうする事にした。
飯は飴玉があるから、あと三日は戦えると言って、飴玉を同僚に分けたら、受け取りを断られた。そして、熊谷部長の業務命令を盾にいつもの定食屋に連れて行かれた。定食は何故か大盛りになっていた。二、三口食べた所でお腹いっぱいになった。
美味しい、自然と涙が出ていた。
飯代は熊谷部長のおごりだそうです。
有難やありがたや。
しばらく涙が止まらなかった。
お店の店員や客からも心配された。
美味しいから泣いているんだと伝えると、店主が出てきて背中を叩いて頷き、励ましてくれた。
こんなに美味しいのに、しばらく何も食べていなかったから、胃が小さく小食になっていた。
帰り際、元気になったらまた来る事を伝えると、お店にいた殆どの客が手を上げて応援してくれた。

しばらく泣きながら帰った。




家に帰るのもしんどかった。ポケットは飴玉で重い。
また動けなくなるかもしれないと思い、コンビニに寄った。
日持ちがするもの、少しずつ食べられるものと言うことで、魚肉ソーセージを買ったら、店長と思わしき人が奥から賞味期限が近くなった弁当をくれた。
レジ袋一杯にお弁当を渡そうとしたので、力が無くて持てない事を伝えると、出口まで脇を支えて見送ってくれた。





空腹の無い幸せを噛みしめながら帰った。
家に着いた頃、背広のポケットは飴玉とお菓子でいっぱいだった。

今日の出来事を思い出しては泣いた。
全身の筋肉が今日頑張ったことを主張していた。

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