社畜は2度目の人生を謳歌する

ヨナ

アルバイトします 3



7番区画は日本でいう商店街が集まった場所だ。おっちゃんおばちゃんが威勢のいい声で呼び込みをしている。ある意味では大通りよりも活気のあるところだ。

ネムスはその商店街にある肉屋の1つに向かっている。肉屋のといっても7番区画には6つもあるし、八百屋も10以上ある。結構な激戦区なのだ。その中の1つ、ゴードン肉屋が今日のアルバイト先である。


「すいません」
「っらっしゃい!」
ネムスは店を見つけて店員に声をかける。威勢のいいおばちゃんの店員だ。この区画の店は他のところよりも開くのが早い。朝の食事の買い物に来る人もいるから朝の鐘よりも前に開けてるんだそうだ。

「ファウード商会の見習いです」
「ああ、解体の手伝いの子かい。ちょっと待ってな。、、、あんた!手伝いの子が来たよ!」
おばちゃんは店の奥に向かって叫ぶ。

『おう!こっちによこしてくれ!』

店の奥から男の声が聞こえた。
「じゃあ奥に行っとくれ。まっすぐ行けばいいからね」


ネムスが言われた通りまっすぐ行くとかなり大きな部屋に着いた。入った瞬間生臭い匂いがしてネムスは少し顔をしかめる。
「おう、お前さんが今日の手伝いだな?俺がゴードンだ。こっちは倅のダントだ。」
「ネムスです。よろしくお願いします」
そこにはガタイのいい30代から40代の男とその男によく似た20代の男がいた。
その背後にはいくつもの魔物の死体があった。殆どが首を落とされていてどういう魔物かは分からなかったが毛皮が黒いのや白いの、牛のような体躯をしたものなど様々だった。


「じゃあ早速で悪いが手伝ってもらうぞ。まずはそこにあるのに着替えてくれ。下着も脱いで裸の上にそれを着るんだ」
ゴードンが扉の脇を指差す。そこには服が置いてあった。いや、服というよりも、ギリギル服の形を保っている布切れというくらいのボロ雑巾みたいな布切れだ。
ネムスはなんのためらいもなく裸になってボロ布を着た。着終わって振り向くとゴードンとダントは驚いた顔で固まっていた。


「どうしましたか?着方が間違っていましたか?」
「い、いや、ネムス、お前は貧民街の出身か?」
貧民街とはスラムのことである。
「いえ、違いますが。父と母は行商人です」
「そうか、、、失礼かもしれんがお前は親に酷い目にあわされていたのか?」
「?いえ、そんなことはありませんが、、、どうかしましたか?」
ネムスがそう聞くとゴードンは言いづらそうに答える。

「いや、お前に着ろと言ったのは貧民街の中でも一等貧乏な奴が着るような布切れだ。これまで手伝いでここに来たやつはそれを着るのを嫌がっていた。躊躇なく来たのはお前が初めてだ」
「?ですが仕事で必要なことなのでしょう?」
「ああ、解体場にいるとどうしても血で汚れる。血は落ちにくいから捨てることを前提とした服を着るんだ」
「ならば問題はありません。給料をもらうのですから雇い主の意向に従うのは当然です」
「そ、そうか。お前さんは変わってるな」
ゴードンもダントも微妙な顔をしている。


「まぁ、いい。早速始めよう。俺は解体を始めるからダントはネムスに仕事を教えてやれ」
「わかった、親父」
「よろしくお願いします」
そう言うとゴードンは解体を始める。慣れた手つきで毛皮を剥いで肉を部位ごとに切り分けていく。
「ネムス、仕事を説明する」
「お願いします」

「親父が解体しているところを見ろ。まずテーブルに置いてある肉と毛皮は売り物だ。お前は触るな」
「はい」
「親父の足元を見ろ。骨や毛皮の一部が落ちてるだろう?それは売り物にならないやつだ。お前の仕事はこれを集めて壁際にある木箱に入れていくことだ」
「わかりました」
「解体は俺と親父が2人でやるからどんどんゴミが出て来るからな、チンタラしてたら足の踏み場がなくなるから気をつけろよ」
「はい」
ダントはぶっきらぼうな言い方だが丁寧に仕事を教えていく。

「それからあっちを見ろ」
ダントが指差した方には首のない魔物が吊るされていた。
「あれは血抜きをしている。下にある桶が血で一杯になったら桶を変えろ。それもお前の仕事だ」
「はい」
「桶の中には黒く色のついた桶がある。それは触らなくていい。その血は売り物になるやつだ。魔物の中には血が薬の材料になるやつもいるからな」
「はい」
「説明は終わりだ。早速動け」
「はい」

後はひたすら骨を運んだり、毛皮を運んだり、桶を変えたりしていた。2人ともかなり手際が良くて解体は半日ほどで終わった。


「お疲れさん。後は骨や毛皮をゴミ捨て場に持って行ったらお前の仕事は終わりだ。これ報酬の銅貨5枚な」
そう言って銅貨を渡される。
「そのボロ布は捨てていい。ゴミ捨て場はわかるか?」
「はい」

マネーのゴミ捨て場は各区画に1つずつある。直径20メートルくらいの円を3メートルほど掘られた穴があって住民はそこにゴミを捨てる。
ゴミ捨て場の穴の底には[掃除屋イーター]という魔物がいてゴミを食べてくれる。この魔物は雑食でなんでも食べるが、飢えていなければ人を襲わないおとなしい魔物だ。見た目は子犬くらいの大きさがあるネズミで念のためゴミ捨て場には監視の兵士がいる。


「じゃあお疲れ様でした」
「お疲れさん」
挨拶をしてネムスはゴミの入った木箱を持って肉屋を出た。そのゴミをゴミ捨て場に運んで仕事は終了となる。

ゴミ捨て場に行く途中でネムスはふと思った。
「これは使えるかもしれませんね。
骨は豚骨スープが何かを作れますし、毛皮も鞣して何かに使えます。これは貰ってしまいましょう」
そう言って【異空間収納】に入れた。
「それにしても、、、スープですか。日本にいた頃はよく飲んでいましたね。趣味の1つとして料理を始めてみることにしましょうか」

ネムスはこの世界で生きて行く中で出来る限り【ショップ】を使わないようにすると決めていた。この世界にあるもので趣味を賄うできたし、商売をするにしても仕入れ先を教えることができない物は売り物には不向きであると思ったのだ。

完全に宝の持ち腐れだがこの世界の人の多くはギフトなどなくとも逞しく生きているのだがらこれくらいの縛りはどうということはないだろうと判断した。


こうしてネムスの趣味候補の1つ目は料理(スープ作り)になった。






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