社畜は2度目の人生を謳歌する

ヨナ

アルバイトします



自分の持つギフトの性能を確認した翌日の早朝、ネムスは食堂の掲示板の前でアルバイトを物色していた。

掲示板には紙が貼ってある。この世界では紙は安くないがいいのかと思ったが、かなり質の悪い紙で聞いたところによると、他領で新しくできた植物紙なんだそうだ。今は試作品が出回っている状態で安く手に入り、今後上手くいけば紙は安価なものになるそうだ。


アルバイトの話に戻そう。掲示板に貼られているアルバイトは色々あるが荷下ろしの手伝い、荷運びの手伝いなど力仕事のものや道案内などのマネーの街に詳しくないとできない仕事もある。前世ならば力仕事も出来たが今は10歳の子供の膂力しかないので厳しいものがあるだろう。

「う〜ん、この辺りが妥当ですか」
ネムスは紙を一枚取る。選んだ仕事は掃除だ。鍛治職人からの依頼で工房の掃除をしてほしいという依頼だ。報酬は銅貨が5枚、日本円で5000円というのは安いのか高いのか、、、相場がわからないが他の依頼も報酬の額は似たり寄ったりだ。


「おはようございます、ネムスさん。依頼を受けるのですか?」
「おはようございます、マルダさん。
はい。今日からしばらく稼ごうと思いまして」
まだ朝の鐘がなる前の早朝、既にマルダを始めとした従業員は起きて動き始めていた。
「その依頼を受けるのですか?」
「はい。私の体力では荷運びなどは難しそうですから」
「そうですか。ああ、依頼の受け方は教えましたか?」
「いえ、まだです」
「では今教えましょう。と言っても特に難しいことはありません。その依頼書を持って仕事の場所に行って依頼主に言うだけです。名乗るときは『ファウード商会の見習い』だと言うこと」
「わかりました。
この掲示板にある依頼には時間が書いてありませんがいついけばいいのですか?」
「朝の鐘が鳴ってからここを出れば問題ありません。厳密にいつ行くというのはありませんから」
「わかりました。ありがとうございます」
「では初仕事頑張ってください」


ネムスは他の依頼を眺めながら朝の鐘が鳴るのを待った。昨日は夜に食事をしたので今日の朝の食事は無しだ。お金が貯まったら食事にこだわるのもいいかもしれないと思い始めていた。

鐘が鳴るとネムスは寮を出て3番区画に向かう。マネーの街は1番から12番まで区画があってそれぞれの特色がある。3番区画は職人たちの工房が集まる区画だ。


ネムスが3番区画に来るのは4度目だがいつ来てもここは賑やかだ。槌で鉄を打つ音や親方達の怒鳴り声が響いている。その中から依頼の場所を探し出す。工房というのはどれも同じような見た目をしているので見分けるのが大変だ。違いは掲げてある看板くらいだ。

「えっと、、、ジル工房ジル工房は、、ああここですね」
ネムスは息を切らしながら仕事先を探してやっと見つけた。3番区画は街全体で見たら寮からそれほど遠くはないが街全体が広いのでそれなりに距離がある。そのため走って移動していたのだ。街の中には辻馬車がいくつも走っているがそれを利用していてはいつまでもお金がたまらないのだ。


「すいませ〜ん」
、、、、、、、、、、。

「すいませ〜〜ん!!」

「おう!なんじゃ!誰じゃ!」
周囲の音がうるさくて声が聞こえなかったらしく、もう一度声を張って叫ぶと髭を蓄えた筋骨隆々の人が出てきた。身長は10歳とそう変わらない。おそらくドワーフの人だろう。
「ファウード商会の見習いです。掃除の依頼を受けてきました。これが依頼書です」
「おお!ミルデガルドの嬢ちゃんのところの!よく来た!ワシはここの工房主のジルじゃ!さぁ入れ!」
中へ通される。

中に入ると一気にムアっとした。
「暑いじゃろう!炉に火がくべられているからな!」
工房の中では既に鉄を鉄を打っている職人達がいた。
「こやつらはワシの弟子じゃ!こやつらのことは放っておいといい!お前はこっちじゃ!」


「ここじゃ!」
連れてこられたのは鍛冶場の隣の部屋。広さは10畳くらいだろうか。
「ここは物置じゃ!ワシ等は武器を打つ時に余計なものが入らんように鍛冶場は綺麗にしておくんじゃがここはどうにも手が回らん!ここを掃除するのが依頼じゃ!」
「はい」
「箒と雑巾はそこに立てかけてある。井戸は工房の裏じゃ!ワシも自分の仕事に入るから終わったら声をかけてくれ!」
「はい」

ジルが鍛冶場に戻ったのを見送ってネムスは部屋の中を見渡す。灯りはないが大きな窓が3つあるため結構明るい。
この世界では窓は大きく作られる傾向にある。灯りを確保するのはロウソクか魔道具であるため太陽の光で灯りを確保できるようにしているのだ。因みにガラスの加工技術は結構高い。


「では始めますか」
ネムスが鍛冶場から入ってきた扉と対面にある扉を開くと裏の井戸に繋がっていた。
ネムスはまず箒で掃く前に乱雑に積み重なって今にも崩れそうなものをどうにかすることにした。
空の木箱がいくつもあったため大雑把な分類ごとに分けて入れていき、いっぱいになった木箱から一度外に出す。ハタキはなかったので箒を慎重に振りながら棚の埃を落としていく。
落としきったら埃を外に向かって掃く。埃などはそのまま外に掃き出して放っておく。この世界では埃は外に出せば風でそのうち飛んでいくという認識だ。

箒で掃き終わった後は雑巾で拭いていく。窓も拭こうかと迷ったがガラスは正しい拭き方をしないと傷つけてしまうこともあるためやめた。後は外に出したものを中に運び入れて終了である。


「ジルさん、終わりました」
「ん?おお!終わったか!」
鍛冶場で弟子達に檄を飛ばしていたジルに声をかけて確認してもらう。

「おお!だいぶ綺麗になったじゃないか!」
「はい。ですが私は武器や鉱石の目利きは出来ないためそれぞれの分類で一纏めにして木箱に入れておきました。他にやり方があるのなら直しますが」
「いや、これでいい!いい仕事だ!前に来た奴は物を動かさずに空いているところだけ箒で掃いて終わりだったからな!上出来だ!」
「ありがとうございます」
「いい仕事だったから銅貨1枚足してやる!ほら!」
ネムスは報酬の銅貨6枚を受け取り懐に用意しておいた巾着に入れる。この巾着は服の内側に結びつけてある。これは落とさないようにというよりスリ対策だ。ネムスは日本にいた頃海外の支店に勤めたこともあり、その頃にスリの多さに驚いたのだ。

「それでは私はこれで」
「おお!また頼むぜ!」
仕事を終えて帰路につくと既に夕方になっていた。1部屋の掃除に時間がかかりすぎのように思えるがそうではない。水を井戸から汲んで来たりするのにも意外と時間がかかるし、武器や鉱石というのも結構重い。それの持ち運びには力がいるのだ。部屋の中にはそこそこの量があったし、子供の体力では休み休みでなければ大変だ。それでこれほど時間がかかったのだ。


ネムスは仕事もいいが体力もつけなければと思いながら食事をとって就寝した。







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