社畜は2度目の人生を謳歌する

ヨナ

案内されます



ネムスはマルダに案内されていると広い部屋に出た。
「ここは食堂になります。見習いはここでの食事は1日1食は無料、2食目からは有料です。食堂には常に料理人がいるのでいつ来ても食事をすることができます」
「はい」
「殆どの場合食事はこの食堂でとってもらいますが他の場所が飲食禁止というわけではありません。外部からの料理・食材の持ち込みは自由です」
「はい」
マルダの説明を受けているネムスはメモ帳が欲しくなってくる。ネムスはサラリーマン時代にメモ帳を多用していた。上司や取引先から言われたことをメモしていたのだ。できるだけ仕事のミスをなくすためにやっていたことであるが、仕事を減らすために必要なことであった。ネムスは元々の仕事量が多かったが年を経るごとに相応の立場についたのだが、仕事の3割が部下のミスのフォローだったのだ。できるだけ仕事を減らそうと自分はミスをしないようにしていたのだ。


「あちらを見てください」
マルダに促されて食堂の一角にある掲示板のようなものに目を向ける。
「あれは仕事紹介している掲示板です。
見習いの人達には給料が出ませんが、服や一食以外の食事代は稼がなければなりません。その稼ぎ口を紹介するのがあの掲示板です」
掲示板に貼ってある紙には仕事内容、報酬、依頼主、必要な技能などが書かれていた。
「ここにある仕事はファウード商会か鉄血傭兵団と交流のある人達、もしくはここで育って独り立ちした人達からの仕事ですので信用できるでしょう」
「はい」
「荷運びなどの簡単な肉体労働もありますが読み書き計算などが必要な仕事もあります。自分にできるものを選んでください。見栄を張って仕事を選ぶ人もいますが仕事をしっかりとこなせなければ報酬を得られない、もしくは賠償を求められることもありますから気をつけてください」
ネムスはアルバイトのようなものだろうと考える。以前いた会社にも店舗があってアルバイトを雇っていたが直前になって仕事を休んだり、杜撰な仕事をして社員がそのフォローに駆り出されたりしたこともあった。



「では2階に行きましょう」
1階は食堂と、読み書き計算を教える教室、それから従業員が普段いる場所であった。それらは軽くのぞいただけで次に進む。
教室では授業という形ではなく、自分で学んでわからないところを聞くという形のようだ。こちらの世界では教育体系は整っておらず、技能を身につけたい場合は自分でなんとかしなければいけない。だから日本で行われていた受ける・・・教育はない。


「ここがあなたの部屋になります。使用できるのは明日からです」
2階と3階には計20を超える部屋があり、見習い達の部屋だった。それぞれ1人1部屋で部屋の広さは10歳前後の子供が大の字になって寝られるベッドが2つ分。部屋にはベッドとクローゼット、机が置いてあった。

「随分いい部屋ですね」
ネムスは2人部屋か4人部屋を予想していたのでかなりの好待遇に驚く。その様子にマルダは親切心から警告しておくことにした。ドアを閉め、部屋の外に聞こえないような声の大きさで話す。

「この部屋は特別です。部屋の大きさ自体は同じですがベッドの質は高いですし、クローゼットの中に複数の衣服が入っています。それはこちらからの支給ですのであなたの物です。
これらは他の見習い達にはありません」
これまでにいたミルデガルドのお気に入りの子供達には彼らが優遇されていることは言わなかった。マルダは今回も言わないつもりではあったがネムスの外見に反する老成した雰囲気に影響を受けていた。

「?なぜ私がそのような待遇を受けるのでしょう?」
ネムスは自分の受ける厚遇に心当たりを探る。今思い当たるのはゴルディールだ。ネムスの予想よりも大物であれば、その紹介を受けた者を厚遇することもある。

「あなたを厚遇する理由は商会長ミルデガルドがあなたを気に入ったからです」
「?と、言われますと?」
「そのままの意味です。この商会のトップがあなたを気に入った。それだけで優遇される理由は十分です」
「気に入られるようなことをした覚えはないのですが、、、」
「それは貴方が知る必要はありません」
「わかりました」
ネムスはアッサリと質問をやめる。個人経営の会社では社長の言葉1つで昇進・降格が決まることなどザラにある。
それに知る必要がないと言われたことはそれ以上追求しない。知らない方がいいこともある。30年以上のサラリーマン生活で上司との接し方は完璧である。


「では他の方とは違うところを教えていただけますか?」
「ええ。
先程言ったベッドの質が1つ。それからクローゼットに入っている衣服が1つ。後は机の上にある魔導ランプが1つです。
魔導ランプは知っていますか?」
「いえ」
「では説明します。
魔導ランプは魔道具の1つで明かりを確保するための道具です。中に魔物から取れる魔石を入れるとそれを燃料として灯りが灯ります。魔石が保有している魔力が切れれば魔石の交換が必要です」
「成る程」

ネムスは魔道具を電化製品、魔石を電池と認識した。そして以前商業ギルドの本で読んだ魔石の知識を思い出す。
魔石とは魔物の体内に存在する魔力の結晶で、その中には魔力が入っている。強い魔物の魔石ほど大きく、保有魔力も多い。

「絶対とは言いませんがあまり他の人に触れ回らない方がいいでしょう。貴方が優遇されていることをよく思わない人もいるでしょうから」
「はい」
「部屋の掃除は各自で行います。道具は貸し出していますのでそれを使うといいでしょう」
「はい」

「説明は以上です。
手続きがありますので使用できるのは明日からです。何か荷物があるときは自分で運び込んでください」
「はい」
「特に他の人に紹介するということはしません。自分で人脈を広げるのも商人に必要なことです」
「はい」
「では明日からよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」


こうしてネムスの商人見習いとしての生活が始まった。






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