社畜は2度目の人生を謳歌する

ヨナ

見習いになります



翌日、ネムスは朝の鐘が鳴ると同時に宿を出た。昨日、明日と言われたが時間も場所も確認してなかったことに気がついて自分もまだ今の環境に慣れてないのかと多少不安になった。この世界では大抵は朝の鐘が鳴ると食事をして仕事を始めることを聞いたのでネムスは朝の鐘を目安にすることにしたのだ。


「おはようございます」
ファウード商会に行くと従業員が店先の掃除を始めており、その中にファザルもいたのでネムスは声をかけた。
「おや、君は昨日のネムス君だったかね」
「はい、ファザル様。今日は色々説明をするから来るようにと言われておりましたので」
「そうでしたか、では会長のところまで案内しましょう。それから私は様づけで無くていいですよ」
「わかりました、ファザルさん」
「では行きましょう」
そう言われて2階に通される。

「お嬢様、ネムス君が来ました」
『あ〜、入ってください〜』
どうやらこの部屋はミルデガルドの執務室のようだった。しかし書類の類はそう多くない。この世界ではまだ紙はそれほど安いものではないのだろう。

「おはよ〜ネムス君」
「おはようございます、ミルデガルド様」
「ん〜、そんなに畏まらなくていいよ〜」
「、、、それでしたらミルデガルドさんと呼ばせていただきます」
「まだ固いけど〜。ま〜いいか〜。
それじゃ〜ネムス君には〜見習い部門に〜入ってもらうよ〜。見習い部門っていうのは〜ネムス君みたいに〜勉強しに来てる子達の〜集まるところだよ〜」
ミルデガルドの間延びした喋り方は普通は少々焦れったく感じるがネムスは特にそんな様子はない。これまで散々様々な上司に付き合ってきたのでこれくらいでは動じたりしない。

「ホントは〜私が教えたいんだけど〜私も仕事があるから〜あんまり会えないからぁ〜他の子達と〜頑張ってね〜?」
「はい」
「詳しい話は〜説明してくれる人を〜用意してるから〜その人に聞いてねぇ?」
「わかりました」
「それじゃ〜ファザル〜。ネムス君を〜“寮”に〜連れて行ってね〜」
「かしこまりました」


ミルデガルドの指示を受けたネムスはファザルに連れられて店を出る。5分くらい歩いたところにある建物に入った。

建物に入ると1人の老人の域に入った女性が1人待っていた。
「ネムス君。これは私の妻でマルダという。私が店の従業員の統括で妻がこちらの寮の統括をしている」
「なるほど。私はネムスと言います。これからよろしくお願いいたします」
ファザルの紹介にネムスはマルダに頭を下げる。
「ええ、私はマルダと言います。今日はここの説明を頼まれています。よろしくお願いしますね」
優しげな雰囲気を出しながらマルダも挨拶をする。

「それでは私はこれで。マルダ、あとは任せたよ」
「ええ」
ファザルはそう言って去っていった。ミルデガルドもファザルもそれなりの地位にいるので忙しいのだろう。その様子を見てネムスはファウード商会はそこそこ健全な組織なのだと認識する。日本では上司は部下に仕事を押し付けてゴルフだなんだと言っている会社というのが結構ある。ネムスは上の人間がまともであるようで安心する。


「ではついて来てください。見て回りながら説明しましょう」
「お願いします」
ネムスはマルダの後をついて行く。

「まず、そもそも此処がどういう所かというと見習い達の住む場所であり、教育を受ける場所でもあります。
ここにいる見習いは2種類。商人の見習いと傭兵の見習いです。傭兵の見習いもいることは知っていましたか?」
「いえ」
「そうですか。ここはミルデガルド様のファウード商会とその妹であられるアイリス様が組織する鉄血傭兵団が提携し成り立っています。
そのためここには商人の見習いと傭兵の見習いが存在し、もし商人見習いでどうしても才能のないものは傭兵見習いとなりますし、その逆もあります」
「成る程」
確かに本人の希望と適性は別である。そもそもこの慈善活動とも言える組織が1つの商会の出資で成り立っているのでは負担が大きすぎるだろう。

「貴方は商人の見習いですね。ではそちらを説明していきます。
商人の見習いが学ぶことは様々あります。読み書きや計算も学べますし、交渉のノウハウも教えています。ですがこれらの何を学ぶかは自分で決めることになります。
何をどれくらい学ぶか、何が必要なのかは自分で考えなければいけません」
「わかりました」
「それから研修もあります。実際に屋台を出したり、行商に行ったりします。その度に課題を出されてそれをこなせなければ帰ってきてはいけません」
「はい」
出来ない者は切り捨てる。何処の会社でも同じことだ。仕事のできる人とできない人に同じだけ人件費をかけるのは損でしかない。

「ここには卒業試験というものはありません。自分でもう十分だと思ったら出て行ってもらって構いません。3年近くいる人もいますし、1年足らずで独立する人もいます。上限は3年です」
「はい」
「後、これは個人的な助言ですがここにいる間に傭兵、もしくは傭兵見習いに親しい人を作っておくのがいいでしょう。
商人と傭兵は切っても切り離せません。商人に護衛は必ず必要になります。行商ならば常に必要ですし、街に根を下ろして商売をするにしても仕入れのために街の外に出ることも少なくないでしょう。親しく、信用でき、腕の立つ護衛を早いうちから探しておくといいでしょう」
「はい。助言感謝します」


ネムスは昔やった人脈作りを思い出す。人脈というものはあって損はない。今必要なくても将来何かミスをした時に助けになることが多々ある。ネムスはやるべきことをリストアップしながらマルダの話を聞く。


一方マルダは同情心からネムスに多くの助言をしていた。ここに連れてこられた際、案内がファザルということは普通ありえない。新入りの案内はもっと下っ端がやるものだ。それをミルデガルドがファザルにやらせたということはミルデガルドがこの少年を気に入っている証拠。
長くミルデガルドに仕えるマルダもまたファザルと同様にミルデガルドの才能を潰してしまう性質を知っていた。ファザルとマルダはミルデガルドが第1なのでその行動を止めるということはない。だが夫婦揃ってネムスに同情するのだった。



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