社畜は2度目の人生を謳歌する

ヨナ

出会いました



商業都市マネーに着いたネムスは街を見ながら1人で歩く。人が多いが東京ほどではない。この世界の住人が見れば人の多さに圧倒されるかもしれないが満員電車で出勤していたネムスからすれば大したことはない。

ネムスはゴルディールから紹介された商会を探す前に宿を見つけることにした。同じ馬車で来た人からアドバイスされたのだ。街に着いたらまず寝床を確保すること。旅で野営をするよりも街中で野宿をする方が危険なんだそうだ。もっとも危険なのは人間だといったのは誰だったか。

宿についても話を聞いた。ディートで泊まった宿は特別なのだそうだ。あの街特有のものでギルドが作った新人支援のための宿で安全が確保され、料金も特別安い。他の街ではそんな宿はないそうだ。
そして宿選びにもポイントがある。宿の料金が安いところは危険で高ければそれだけ安全が確保されている。宿の部屋に鍵がついているからといって安い宿では安心してはいけないそうだ。鍵すら付いていない宿どころか格安で雑魚寝の宿もあるらしい。
それなりの出費になったとしても安全な宿を確保しなければならない。

マネーには多くの人が外部からくるので宿が多くある。だが自分の求める条件の宿というのは意外に少ないから街に行ったらまず宿を確保しなければならない。俺としてはファウード商会がどのような商会かは分からないが職が確保されているのなら安くても生活費が稼げるということ。ならば安全面優先で宿を選ぶべきだろう。

乗り合わせた人の話では大通りに面している宿は大抵安全だということ。いい立地のところに宿を立てるところは信用がなければいけないということだろう。


一先ず門からしばらく歩いてパッと見で宿だとわかったところは3つ。1番門に近いところはすぐ近くに酒場があったので避けた方がいいだろう。1番門から遠い場所はなんか豪華だったので貴族とかがいたら面倒なのでやめておく。というわけで2つ目に向かった。


「いらっしゃいませ」

宿に入ると若い男性が頭を下げてくる。格好は清潔そうな服だが豪華すぎないちょうどいい感じだ。それに明らかに未成年の客にもしっかり対応するところから店員の教育が行き届いている宿だとわかる。

「当宿はお泊りの方のみのご利用とさせていただいております」
「はい。1人部屋、一泊いくらでしょう」
「お部屋代のみで銅貨8枚、朝と夜のお食事付きで銀貨1枚となります」
「ん、食事やなしで2泊お願いします」
「かしこまりました」
銀貨1枚と銅貨6枚を払って鍵を受け取って部屋に行く。たった2泊ですごい出費だ。一泊8000円前後と考えたら良さげなホテルに泊まったと考えればいいか。

部屋は都内のビジネスホテルって感じの部屋だった。部屋を確認たらもう一度外に出る。偽装として常に着替えの入った布袋を担いでいるがそれも持っていく。この世界では部屋に荷物を置きっぱなしにしておけば盗まれてもしょうがないという認識だ。防犯カメラもないので犯人が見つかることもない。


宿を出るときにファウード商会の場所を宿の従業員に聞くとこのまま大通りを中央に向かっていけばいいとのことだった。大通りに商会を出せるのならかなりの大きな商会なのかもしれない。
だが聞いてわかったのだがこの街はかなり広く門から街の中心に行くのに馬車を使った方がいいとのことだった。街には辻馬車が結構あるからそれに乗るといいとのことだった。

辻馬車を捕まえて銅貨2枚で街の中心に進んでもらう。街の中心には大きな噴水があった。この噴水はこの街の豊かさの象徴なんだそうだ。生きていく上で必要な水を噴水として使えることはこの世界では贅沢なことだからだ。噴水のところで降ろしてもらって周囲を眺める。

大きな各種ギルドのためものがあり、複数の大きな商会も建ち並んでいる。ゴールド商会もその中にあった。

ファウード商会を探して辺りを見回していると重そうに木箱を抱えている女性がいた。その人は木箱を持っているせいで足元が見えていないのか大きめの石に気がつかずに足を引っ掛け転んでしまった。
木箱の中身は果物だったらしく辺りに散らばってしまう。女性は慌てて拾い始める。周囲はそれを特に気にした様子もなく通り過ぎる。優しくないと思うかもしれないが日本でもこんなものだ。駅前で困っている人がいても他の誰かがやればいいと自分が助けたりはしない。


しかしネムスは

「お手伝いしましょう」
「え〜?あ、ありがとう〜」

ネムスは手を貸した。ネムスが特にお人好しというわけでもないし、普段なら見て見ぬ振りする側であるが今回は違った。女性にある特徴があったのである。

それは胸だ。服をきつそうに盛り上げるそれは巨どころか爆というべきものだった。ネムスは胸の大きな女性にことさら優しい。
だがネムスが巨乳好きというわけではない。下心から優しくしているわけではないのだ。これにはある事情がある。

日本にいた頃、本人は気がついていなかったがネムスは意外と女性に人気があった。それは異性としての人気ではなかったが年頃の女性に頼られたりすることが多かった。
これはネムスのある特徴が関係している。その特徴とは性欲が薄かったことである。更に歳を重ねたネムスは限りなく性欲がゼロに近かった。そのため女性を性的な目で見ることが全くなかったのである。
男は大小あれど女性を性的な目で見ることが結構ある。女性はそういった視線にはかなり敏感なのだ。

そのことからネムスを頼る女性の中でもネムスのことをとても気に入っていた女社長がいた。その社長はネムスの会社の取引先の社長で接待と称してネムスに愚痴を聞かせていた。
その女社長は胸がとても大きかった。その苦労を切々と語った。重くて肩が凝る、着れる服が限られる、同性からは嫌われ異性からはイヤラシイ目で見られる。
そういったことを何度も何度も聞かされたネムスはこう思った。『胸の大きな女性にあったら優しくしてやろう』と。

つまりネムスの胸の大きな女性への優しさは下心ではなく、親切心というか同情に近いものであった。



「ん〜、助かったよ〜」
ネムスが手を貸した女性はのんびりと話すのが特徴のほんわかした人だった。
「いえ、お気になさらず」
女性が持っていた木箱を運びながらネムスは答える。

「うちの〜従業員に〜運んでもらうんだけどね〜、1つ〜忘れちゃったの〜」
「そうでしたか」
この女性が従業員といったことから商会の商会長であると予想する。
「あ〜、着いたよ〜」
「ここですか」
着いた店を見上げてネムスは固まる。
「それは〜そこにおいていいからね〜」

指示された場所に木箱を置いたネムスはそのまま自分の懐からゴルディールにもらった紹介状を出し、頭を下げる。

「これからよろしくお願いします」


そう、女性はファウード商会、商会長ミルデガルドその人だったのだ。


「あら〜?」




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