社畜は2度目の人生を謳歌する

ヨナ

馬車で移動します



「そうか、両親が。それは大変だな」

乗合馬車に乗って要塞都市ディートを出てマネーへ向かう道中、ネムスは一緒に乗り合わせた人達と交流して情報を得ていた。

乗合馬車は10人くらい乗れる大きな馬車で更に周囲には護衛の傭兵がいるので総勢30人ほどになる。大体2週間で着くそうだ。

馬車というと馬に走らせて早く進むと思うかもしれないがそうではない。人が歩くのと同じくらいの速さしか出さない。それでも人が歩くよりも早く着くのは同じ速さで長い距離を進み続けるからだ。距離が長く慣ればなるほどその差は歴然である。


マネーまでの道のりでネムスは他の乗客と仲良く、、、というより一方的に構われていた。ネムスは当初野宿や馬車での移動などに慣れようと思っていたのだが他の乗客は未成年が1人でいることに興味を持ったそうだ。

元の世界ほどこの世界では移動手段が確立されていない。自動車や電車、飛行機などの移動手段がなく、もっぱら徒歩か馬車での移動のため大抵の人は成人するまで自分の生まれた街を出ることはない。それどころか人生で一度も他の街に行ったことがないという人も少なくない。
そんな中で未成年の一人旅をしていたネムスは興味を引いたというわけだ。

なんで1人なのかと聞かれたネムスは正直に両親が魔物に襲われて死んだことを話した。不自然でないように話を持って話す。ネムスとしては所詮設定なので特になんの感慨もなく物語を語るように話したのだが、聞いていた方は涙ぐむ人までいる始末だ。これが人情というやつかもしれない。


「そうか〜、坊主。元気出せよ!これからいいことあるさ」
筋肉のついた大男がネムスの頭をガシガシ撫でる。男はこの乗合馬車を護衛する10人ほどの傭兵のリーダーでBランクだそうだ。この乗合馬車は領主の指示によって行われているのでその護衛は信用のある人しかできない。

冒険者や傭兵においてBランクというのは一流の証なのだそうだ。
大まかに分けるとEランクが見習い、Dランクが一人前、Cランクが有望、Bランクが一流、Aランクが英雄、Sランクが人外といった感じなのだそうだ。このあたりは国境が近いので比較的ランクの高い人が多く、マネーにはもっと多いそうだ。

商業都市マネーはこの国最大の都市であり、商人にとってはマネーで店を出すことは夢なんだそうだ。そしてこの国の大商人たちが店を出す都市には報酬のいい依頼が出やすく、高ランクの人たちも集まるのだそうだ。


それからもう1つ重要なことをネムスは聞いた。
「ゴルディール?まさかゴールド商会のゴルディールさんか!?あの商会はこの国でも五指に入る大商会だぞ!」
「あの人も確かノームとかいう種族で150歳くらいだったんじゃないかな」
「あの人も手広く商売をやっているがやっぱり食料関係がメインだろう。あそこには珍しいものもたくさんあって凄腕の料理人もあそこで食材を揃えるって話だ」
ゴルディールはかなりの大物だったのだ。そんな大物に目をつけられたことを知ったネムスは少しげんなりする。ネムスは知っているのだこうやってできた縁はなかなか切れないことを。

ネムスはリーマン時代に何人も社長や取締役の接待に駆り出されたことがある。そこでは契約のために気に入られなければならないが気に入られれば気に入られるほど色んな所に連れて行かれるようになる。もちろん相手のおごりなのでそこはいいのだが頻繁に呼び出されてはたまったものではない。たとえ接待のためだとしても席を立った分仕事がたまって行くのだ。
以前泊りがけの接待を行った時は会社に戻った時に自分のデスクに積み上げられた書類の高さに気絶しそうになったほどだ。

ネムスは現実逃避のためにあの老人ゴルディールのことは考えないようにした。


この馬車旅では野営や乗り心地の悪い馬車などこの世界で生きて行くために必要なことをネムスは体験した。野営に関してはどこでも寝られるため大して苦にならなかったが馬車の尻の痛さにはネムスも四苦八苦した。

それからもう1つ、魔物、それから戦闘というものを始めてみることとなった。グレイウルフと呼ばれる魔物でここら一帯では雑魚の範疇に入る魔物だそうだ。見た目としては普通の狼だったが傭兵たちは危なげなく殺した。
更に殺した魔物は解体する。グレイウルフは毛皮と肉、それから魔石と呼ばれるものが売れるそうだ。弱い魔物なので二束三文だそうだが。
魔石というのは魔物から取れる宝石のようなもので魔力が内包しているのだそうだ。使い道は魔道具と呼ばれる電気の代わりに魔力を燃料として動く道具の燃料として使われたりするそうだが詳しくは知らないらしい。金になることさえ知っていれば使い道なんてどうでもいいと大笑いしていた。荒くれ者ならばそういうものかもしれない。

話していて思ったがこの世界の人たちはみんな学がない。ネムスは国立大の出だがそれと比較するまでもなく知識量が少ない。頭が悪いといっているわけではなく、教育機関がないそうだ。勉強をするのは貴族くらいのものだと聞いた。

だから商人になりたての人は計算すらできなくてどこかの商人に奉公に出て教えてもらうことも多いそうだ。もしも詐欺師がいたらやりたい放題なんじゃないかと心配になる。


そんなことを思いながら2週間の馬車旅は終わりを迎える。視界には大きな外壁が見えてくる。マネーの街の規模はディートの倍以上あるそうだ。


大きな門をくぐり、心配してくれる乗り合わせた乗客たちと別れ、ネムスの新しい生活が始まる。







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