社畜は2度目の人生を謳歌する

ヨナ

紹介されます



「、、何のことでしょう」

予想とは違うことを言われたネムスは動揺を表に出さないように返事をする。その裏でいつバレたのか思考を回すがこの店でも街中でも異空間収納を使った覚えはない。宿の部屋は窓から見えない位置で使っていたので見られることはないはずである。


「隠さんでいい。儂がお主を初めて見たのはこの街に入る前、門の列に並んでいる時じゃ。主はその時何も持っておらんかった。ほとんどの者は気がついておらんかったが目端の利く者にとっては手ぶらで街に来る者はちと目を引くぞ?」
「、、、成る程」
ネムスは自分の迂闊さを思い知る。確かに何の荷物もなしに旅をして来たというのは無理があるだろう。

「そう警戒するでない。脅して塩の精製方法や仕入れ先を聞き出そうなどというつもりはない。子供相手にそこまでするほど落ちぶれてはおらんわ」
「それは、、ありがたいですね」
「お主に1つ提案があるんじゃよ」
「伺いましょう」
自分より上位者の提案は断れるものではなく、さらに弱みを握られれば可能性が限りなくゼロになる事をネムスは知っている。

「お主はこれから行商人としてやって行くつもりなのじゃろう?」
「、、ええ。そのつもりですが」
ネムスは囲い込みかと勘ぐる。異空間収納の使い手は商人にとって使い道はいくらでもある。
「1人紹介したい者がおる」
「紹介ですか?」
「そうじゃ。その者は自分の商会で多くの商人になりたてのものを雇い、商売の仕方を学ばせ、一人前にして送り出しておる」
「、、、、その方にはどのような目的が?商人が商売敵になるかもしれない人たちを育てるなど」
「其奴にも利点はある。多くの商人候補に大きな貸しを作れるからの。将来何らかの商談を行う場合、多少の譲歩を余儀なくされるというわけじゃ。まぁ、もちろん当人の趣味趣向という理由もあるがの」
「、、、未来投資ですか」

ネムスは思考を巡らせる。その人を紹介したいってことはおそらくネムスもその商会に入って学べということだろう。
メリットとしてこの世界の商売を学べること。大店であればより安全になることなどがある。対してデメリットは将来的にその人へ借りができること。集団の中で生活すればショップのことがバレやすくなることだ。
これだけならば商会に入るのもいい手だろう。ショップも気をつければ隠し通せる可能性が高い。問題はゴルディールが紹介する利点がわからないこと。その商会がゴルディールの商会の下請けならば間接的に子飼いにしたいということだろう。そうでないならば理由がわからない、、、が

「その商会に入り、学べということでしょうか。わかりました。ありがたくお受けします」
この状況でネムスにイイエという選択肢はない。ネムスは権力や地位を求めたりしないがこういう時は力の無さを痛感する。

「うむ。儂から紹介状を書こう。この街から定期馬車が出ておるからそれに乗って商業都市マネーに向かい、ファウード商会のミルデガルドを訪ねるのじゃ」
「はい。お気遣い感謝します」
「いいのじゃ。未来ある少年に手を貸したくなっただけじゃからの」
ネムスは紹介状を受け取って頭を下げたまま何も言わずに退出する。

店を出たネムスは照りつける太陽をボンヤリと眺めながらボヤく。
「大きな何かに動かされることになったがこれが吉と出るか凶と出るか。異世界に来ても上の人に振り回されるのは変わらないとは世知辛い、、、」
死んだ目を更にどんよりとさせながら街へ繰り出す。マネーとかいう明らかにお金の集まりそうな場所がどれくらい遠いかわからないけど色々準備が必要だろう。今も着替え1つ持っていない状況であるし。




所変わって

「旦那様、よろしかったのですか?」
「ゼフ、主は反対か?」
「いえ、確かに商人になりたての者にとってはファウード商会は最高の場所でしょう。しかし彼はおそらく商会長のミルデガルド殿に気に入られるでしょう。彼女に気に入られた者は、、、、」
「ほほほほほ。潰れるのならばそれまでじゃ。それにあの娘子ので見る必要もあるかもしれんからの」

ゴルディールは楽しげに笑う。ひとしきり笑った後、真剣な顔をする。こうした突然の感情の変化も慣れた者でゼフも気を引き締める。
「ゼフや、お主はこのような白い塩を見たことがあるか?」
「いえ、ありません」
「これを何処かから仕入れたか、若しくは自分で作ったかだが、、、、ゼフ、あの少年、ネムスの過去の足取りを洗うのじゃ。魔物に食われたという両親がどのような商人であったかもじゃ」
「すぐに手配しますが死人の足取りとなるとお時間がかかるやもしれませんが」
「構わん。ファウード商会で修行するとなると独立するとしても2年はかかるじゃろう。それまでに掴めて居れば良い」
「はい」
ゼフはすぐに動き出す。商業ギルドに情報提供を求めつつ、足跡を洗うが他の商会に勘付かれないように動き出す。


こうしてこの国でも五指に入る大商会、ゴールド商にネムスは目をつけられることとなるのだった。



その2日後、相応の準備を整えたネムスは循環馬車に乗り、マネーまでの2週間の馬車の旅が始まったのだった。

マネーに行くと知ったギルドの受付嬢や宿の女将達から心配されるも、ネムスはついぞ気がつくことはなかった。





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