社畜は2度目の人生を謳歌する

ヨナ

登録しました



ネムスが登録するために向かった商業ギルドは元の世界でいう役場のような施設だった。複数の窓口があり、窓口には列はなく番号札があるようだった。順番を待っている間はテーブルとイスが置いてあるスペースで商談や情報交換を行っている人が多い。
ネムスは番号札を取って大人しく隅の方のイスに座って待つ。


「18番の方〜」

ネムスが呼ばれて窓口へ向かう。チラッと他の窓口を見ると受付は美人な女性ばかりだった。ネムスは日本でも受付は最低限の仕事ができれば美人の女性が優先的に採用されたなぁと思い出す。

「お待たせしました。本日の御用はなんでしょう?」
受付は子供相手でも丁寧な言葉を使ってくれた。ネムスはちゃんとプロ意識のある受付だと感心した。
「ギルド登録をお願いします」
「失礼ですが年齢を伺ってもいいでしょうか」
「10歳ですが行商人をしていた両親が魔物に殺されてしまいました。物心ついた頃には一緒にいろんなところに行っていたので故郷がありません。親戚と呼べる人もいるかどうかわかりません」
「、、、、なるほど。少々お待ちください」
受付の女性は近くに控えていた人に何か耳打ちする。何かを指示された人は1つ頷いて奥の扉に消えていった。

「ごめんなさいね。未成年の登録には手間がかかるの」
「いえ」
「まだ小さいのにしっかりした言葉遣いね。話しやすい喋り方でもいいのよ?」
「普段からこの口調です」
安心させるためか砕けた口調で話しかける受付嬢にネムスは敬語のまま返す。
ネムスは基本的に誰にでも敬語で話す。敬意を表しているわけではなく、口調によって距離を取っているのだ。喋り方によってその人との親密感がわかることが多い。
要するにネムスは誰とも距離を取って対して仲のいい人というのはいなかったのだ。


「お待たせしました。この紙に必要事項を記入してください」
名前と年齢、出身地、希望商売体型とあったので出身地は不明、希望は行商人と書いておいた。
「はい。ネムスさんですね。登録料として銅貨5枚必要となりますがお持ちですか?」
ネムスは門でお釣りとしてもらった銅貨5枚を出す。
「ではこちらがギルド証になります。再発行にはお金がかかりますので無くさないように気をつけてください」
タグのようなものをもらって首から下げる。

「ギルドについて説明をお聞きになりますか?」
「お願いします」
ネムスは気を引き締める。まだ入社したての頃に契約内容をよく読んでなくて会社に損害を出しそうになったことがあるのだ。それ以来、契約書から取扱説明書までよく読むようになった。

「まず商業ギルドは他のギルドとは違い、少々特殊であることをご理解ください。冒険者ギルドや傭兵ギルドのような通常のギルドの主な役割は依頼の仲介、実力に応じた仕事の割り振りになります。しかし商業ギルドは依頼というものが存在しません」
それもそうだろう。商人は基本的に依頼する側である。

「我々ギルドが行うことは商談の仲介や店舗設置の認可です。各街にある商業ギルドは領主様と契約を結んでいるため、店を出す場合商業ギルドの認可だけで出すことが可能です」
「なるほど」
役所の機能を肩代わりしているのだとネムスは理解した。

「次にランクについて説明しましょう。各ギルドにはランクというものがあります。低い方からE.D.C.B.A.S.SSとあり、ランクが高ければ高いほど大きな特権があります。

通常のギルドではランクは受けることのできる依頼の難易度に関わってきます。実力が認められればランクが高くなり、難易度が高く報酬も高い依頼を受けることができるようになります。
この商業ギルドにおいてのランクは異なります。商業ギルドで高ランク者が受けられる恩恵はより好条件の立地での店舗開設、情報の優先的公開など商売に有利になるものが挙げられます」
富めるものがより富むように、そういう制度である。これは貧富の差が拡大するように思われるが悪いことばかりではない。明確な序列が存在するために成り上りを目指す者が増える意味もあるのだ。

「ランクはどのように上げるのですか?」
「当ギルドは商人のギルドですので序列を決めるのはやはりお金になります。ギルドに支払うお金によってランクが決まるのです。
ネムス様はEランクですのでありませんがDランク以上になりますと毎月ギルドにお金を納める必要があります。ランクが高ければ高いほど高額でその額が払えなくなれば降格となります」
ネムスは1つ頷くだけにしておく。そもそも一月が何日かもわからないし、出世欲など持ち合わせていない。元の世界で人生に疲れきってしまっているネムスはこの世界で頑張る気持ちはないのだ。


「わかりました。今の私でも利用できるものはありますか?」
「2階にある書庫がご利用いただけます。書庫にはランクを上げねば閲覧できないものもありますが基本的には自由に閲覧できますのでお時間があるときにご利用ください」
予想よりも早く情報源を得られたことに喜んだ。ネムスは誰かとの会話は裏の意図や相手への気遣いを意識してしまうため、純粋な情報収集は書籍やインターネットを頼っていた。


「説明は以上ですが何かご質問はありますか?」
「今日この街に来たのですが明日スメの宿があれば教えて欲しいのですが」
「でしたら建物を出て左へ行くと雛鳥亭という宿がございます。そこは各ギルドの新人支援を目的としているので安全面、料金面も保証します」
「わかりました。ありがとうございます」



ネムスはこうして新たな世界での身分を手に入れた。






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