社畜は2度目の人生を謳歌する

ヨナ

死にました




「あぁ、死にましたか」

1人の男が真っ白な何もない空間を漂いながら呟いた。容姿は平凡、身長体重も平均的だがひどく疲れた雰囲気を出している男である。


男の名前は西條誠さいじょうまこと。享年52歳。死因は過労死。家族は妻1人、息子1人、父と母も健在。

誠は生真面目な男であった。そして臆病な男でもあった。
サラリーマンと専業主婦の間に生まれ、平凡な幼少期を送る。幼馴染もいないし、摩訶不思議な出来事に遭遇することもない。普通の幼少期であった。高校は両親の望んだそこそこの進学校に進み、大学も県内の国立大学に進学、両親と教師の勧めからそこそこの企業に就職した。

誠はそれまで自分の夢や希望を語ることはなかった。それどころか持つこともなかった。生真面目な性格から勉強もスポーツもほどほどに出来ていたが親や周囲の期待通りの人生を歩んだ。自分の意思で何かを決め、何かを成し遂げることが怖かったのである。生来の臆病さが誠の意思というものを消していたのだ。


誠は就職した企業で上の言うことは絶対であるということを覚えた。というより半ば強制的に身につけさせられた。就職した企業は外面は取り繕っていたがブラック企業だったのだ。しかし業績もよく、給料も良かったのでどれだけ過酷な労働であろうと問題になることはなかった。

そうして働き続けて30代目前、両親の勧めでお見合いを行い、結婚する。その女性はとても奔放な女性だった。金遣いが派手なわけではないが激務をこなし疲れて帰宅する誠を自分の都合で何かと動かすのだ。誠もそれを断るでもなく、粛々と従った。その生活は会社で激務をこなした後、家でも働くようなものだった。

普通ならば離婚騒動に発展しかねない生活ではあるが誠はそれまでの生活により普通とは異なった価値観を持っていた。結婚に愛などは求めず、ある種の契約だと考えていたのだ。そして契約が結ばれている限り相応の仕事をしなければいけないと考えていた。誠にとっては家庭も職場だったのである。


誠自身、自分の歪さには気がついていたが直そうとは思わなかった。どうでもいいと思っていたのだ。
そんな生活を続けて40余年。ついに身体が限界に達し、過労死したのである。

誠は自分がそろそろ限界であることに気がついていたため、真っ白な空間で浮遊しているという状況も素直に受け入れ、死んだことを理解した。



特に何をするでもなくただボンヤリと浮遊していると目の前に光が集まり、人型となった。それは人と呼ぶには神々しい姿だった。

「その通りだ。貴方は死んだ」

その神々しい存在感を放つ人型がそう言うのをボンヤリと見ていた誠は姿勢を正して頭を下げる。

「私は西條誠と申します。返事が遅れてしまい申し訳ございません」

光が集まって人型になるという明らかに尋常ではない現れ方をしても誠は特に驚いた様子もなく挨拶をした。その対応に現れたほうが驚いた。

「え?あ、うん。気にしなくていいよ、、っていうか驚かないの?これまでの人達は大なり小なり驚いていたけど」
「死後の世界ならば物理法則が反転しようと、人外の存在がいようと驚くことでもありません」
「あ、うん、そう。、、、まぁいいや。話を進めるよ」

完全に口調が崩れている。登場した時の威厳に満ちた口調は見る影もない。

「まず僕は君たち人間の言うところの神だよ。断っておくけど世界を作った神じゃなくて管理者の方の神だよ」
「なるほど」
「それでここは死後の世界というのとは少し違う。死後の世界と君がいた世界との狭間といったところだ。僕は君を意図的にここに呼んだ。君を呼んだ理由は、、、率直に言ってしまえば別の世界に転生してもらうためだ」
「はい」

誠は至極真面目に頷いた。これもリーマン時代に学んだことである。"上の指示に疑問を持ってはならない。上は上の都合で動いていて下の者がそれに口を挟んではならない"
それを理解している誠は異世界などという普通ではあり得ないものも異常なまでにすんなり受け入れる。

「君を異世界に転生させる理由は色々あるが世界のエネルギー総量の話とかだから君に話しても仕方のないことだから気にしなくていいよ」
「わかりました」

聞くなと言われたことは聞かない。誠は部下にするならばとてもいい人材だった。勤めていた会社でも重宝され、それがより一層仕事量を増やしていた。


「ふむ。まぁこんなところかな。とりあえず向こうの世界に送るよ。ここはあまり長くいていい場所じゃないからね。向こうの世界に行ってすぐに死ぬのもあれだろうし若返らせておくよ。詳しいことは部下を送るからその子に聞くといい」
「わかりました」

誠は再度頭を下げる。それを確認した神は指を鳴らす。すると誠の身体は足から粒子となって消えていく。本来なら悲鳴を上げてしかるべきだが誠は特に何の反応もすることなく消えていった。




「ふぅ。これで僕の仕事は終わり。次の人生はもっと楽しみたまえよ」



神は笑いながら彼を見送り、自身も消えていった。次の仕事へと向かったのだ。神の間でも管理職というのは多忙なのだ。




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コメント

  • ノベルバユーザー208256

    他の作品も読んでます。様々な展開で楽しく読ませていただいてます。今後も頑張ってください!

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