あなたの未来を許さない

Syousa.

第四夜:08【ミリッツァ=カラックス】

第四夜:08【ミリッツァ=カラックス】


『Aサイド【地雷曹長】、死亡!勝者はBサイド【ライトブレイド】!ミリッツァ=カラックス監督者、おめでとうございます!』


 右手を失いながらも勝利した【ライトブレイド】が、雄叫びを上げる。


 そこまで対戦記録を見て、ミリッツァは再生を停止した。


「……変な奴だ」


 画面を閉じながら、ミリッツァは呟く。
 白くのっぺりとした、航時船の部屋の中。彼女の溜息だけが、聞こえた。


 対戦相手の情報を事前に教えてやる、というのに、この少年はそれを拒否するのだ。
 有利な対戦カードを組んでやる、という申し出も、彼は断った。
 能力の制限内容を改変して、もっと戦いが有利になるようにしてやると言っても、【ライトブレイド】は首を横に振った。


 何故か、とミリッツァが尋ねると、


「それで死んだって、僕が満足出来ないんだよ」


 と答えるのだ。


 能力名【ライトブレイド】。この北村露魅王という少年は、わざわざ自分に有利な条件を蹴るのである。


(理解に苦しむな)


 もう一度溜息をつきながら、ミリッツァ=カラックスは額に手を当てた。


(これでは、上位に入る前に倒されてしまうかもしれない)


 ヴァイオレットの阿呆。その我儘に付き合ってシステムにハッキングまで行ったのに、自分の担当する対戦者が、これまた我儘で言うことを聞かない。
 ある程度勝ち残り上位に入賞してそれなりの得点を稼いで貰いたいのに。
 これでは自分だけ働き損ではないか。


 勿論、ミリッツァも北村露魅王……彼はあまり自分の名前が好きではないらしい……【ライトブレイド】の「説得」を試みなかったわけではない。


 一度、痛覚神経に干渉して痛みで脅してやったこともあったのだが、彼は激痛が収まった後、半泣きの表情のまま、


「だが、お断りだ」


 すっぱり断ってきたのだ。これには、ミリッツァも困り果てた。


 ヴァイオレットの対戦者も、アンジェリークの対戦者も、事前情報の入手や対戦カードの調整、能力制限の改変などの提案は簡単に受け入れたらしい。
 当たり前だ。普通は、そうであるべきだろう。負ければ死ぬのだから。勝ち残らねば、消えるのだから。
 それなのに……


 また、溜息が出た。


 彼ら対戦者には、ミリッツァ、いやヴァイオレットの目論見は話してある。ただし歪めて伝えて、だが。


「君達をそれぞれ上位三位以内に入賞させて、三人とも未来へ連れて行く」


 勿論、嘘だ。


 政府や学術機関に申請を出しているのは、一名分だけ。三人も連れて行くことは出来ない。
 対戦カードの調整を駆使して、最終的にはヴァイオレットの擁する【ハートブレイク】に1位を取らせる、というのがヴァイオレット、アンジェリーク、ミリッツァの計画であった。
 これは三人の中でもリーダー格のヴァイオレットが、才媛としてメディアに取り上げられたいと言い出したからである。


(あの阿呆め)


 三人のリーダー格であるヴァイオレット=ドゥヌエは、国内、いや世界的に見ても大手の航宙機メーカー「ドゥヌエ航宙」の社長にしてオーナーの一族、ドゥヌエ家。その当主の三女である。
 アンジェリーク=ケクランはヴァイオレットの従姉妹にあたり、ミリッツァはドゥヌエ家の遠縁かつ、ドゥヌエ航宙重役の娘であった。
 三人は歳が同じであるため、親の手回しで幼い頃から一緒に過ごすことが多く、その関係が今でもずっと続いている。
 早い話、アンジェリークとミリッツァは当主三女の「信頼できる」お付きの者A&Bとして、彼女達の親によって配役されたのだ。


 だが、ミリッツァのヴァイオレットに対するイメージは幼い頃から変わらない。
 尊大で我儘で、自意識ばかり肥大化した、いけ好かない娘。
 幼なじみではあるし、共有してきた時間は長い。
 勿論ミリッツァとて、彼女に対してそれなりの情はある。親戚だし、一応、友達だとは思っている。
 だが、時々どうしようもなく嫌になるのだ。


 ヴァイオレットが家の威光を借りずに成功したいと言い出した時は、正直少し期待したものだ。
 やっとこの馬鹿もその気になったのか、と。
 些か感動すら覚えた。


 だが、そこで持ち出してきた計画は、イカサマで一位をとって、メディアに取り上げられて目立ちたい、というものだったのだ。
 ミリッツァは落胆した。
 駄目だ。こいつは阿呆だ。改めて、そう認識させられた。


 だが、お付の者Bとしてはお嬢様の意向を汲まない訳にはいかない。


 直ぐ様アンジェリークに計画への参加と、彼女のボーイフレンドの一人であるグスタブス=ブラウン助教授を抱き込んでおくように連絡した。
 アンジェリークの返事は「オッケー」。まあお付きの者Aとしては、受けないわけにもいかないだろう。
 ちなみにミリッツァは「セックスしている時は電話に出るんじゃない」とアンジェリークに釘を刺しておくことも忘れなかった。
 幼馴染ながら、性欲が服を着て歩いているかのような彼女に対しては、ほとほと呆れさせられる。


 その後は、ハッキングしてシステムに介入。準備を整えておく。


 戦闘に有利な能力を選んで三人に割り振っておいた。
 時間を移動した後の一週間の準備期間中には、他に先駆けて対戦者に接触し、十分な動機付けを行っておいた。
 対戦者との面談時間の制限を外しておいた。
 監督者同士が連絡を取れないというブロックをすり抜けて連絡や外出が出来るようにしておいた。
 他の対戦者の能力内容を事前入手しておいた。いや、これはアンジェリークがブラウン助教授から仕入れてきたものか。
 まあ、そんな風にetc……


 システムのハックは完全ではないので、参照できない情報や操作できない項目も残っているが、それはもう仕方がない。ヴァイオレットは文句を言っていたが、ミリッツァとて本職のハッカーではないのだ。そこまで完璧を求められても、困る。


 思い出しただけで、またまた溜息が出た。
「何で自分だけがこんなに面倒事を背負わねばならないのだ」と苦々しく呟く。


 キョウカ=クリバヤシの件にしてもそうだ。
 あの飛び級で入ってきた少女に対して、正直なところ、ミリッツァは特に思うことは無い。アンジェリークだってそうだ。
 いや、アンジェリークは若干濡れた目で彼女を見ていたことがあって、その節操の無さにミリッツァはやや引いたこともあったが……


 とにかく、キョウカの存在自体がヴァイオレットの神経を逆撫でしたのだ。


 正直なところ、ヴァイオレットの学業成績は上等とは言えない。
 いやむしろ、家の威光で下駄を履かせてもらってやっと人並みといった程度である。
 そこに現れたのが、わずか10歳で飛び級してきた少女。
 ミリッツァにとっては「お勉強の出来るお子様」にしか見えなかったが、ヴァイオレットにとっては、それ以上のものに見えたらしい。
 加えて、キョウカはすこぶるつきの美少女であった。
 このことも、ヴァイオレットには受け入れられないことなのだ。


 自意識が過剰なヴァイオレットは、小学生の頃からバイオ整形を幾度も受けている。27世紀の現在、別段珍しいことでもないし、どうこう言われる程でもない。まあ、小学生からというのはやり過ぎだろうが。


 だが、キョウカは全くのナチュラル。無改造の外見をしていたのだ。
 27世紀人なので、機器操作や防疫のための基本的なナノマシン投与程度はされている。しかし、外見に関しては全くの無操作であった。


 キョウカと出会ったばかりの頃だ。ヴァイオレットが


「お人形さんみたいね。どこの病院で施術してもらったの?」


 と尋ねると、キョウカは不思議そうな顔をして、


「いや、僕はナチュラルだよ」


 と答えたことがあった。


 今にして思えば、その時点でキョウカの大学生活が悲惨なものになるのは確定していたのだろう。





 まあ何にせよ、まだミリッツァの苦労は続くし、彼女の担当する【ライトブレイド】にはもっと上手くやってもらわないと、試験の成績も十分にとれないのだ。


 空中にディスプレイを投影して様子を見ると、ライトブレイドは満足そうな顔をして寝ていた。


「何なんだコイツ……」


 わざわざ有利を捨てて戦うということに、彼は何故こだわるのか。
 ミリッツァには、理解できない。


 だが、一つだけ分かっていることがあった。


 明日彼は、アンジェリークが担当する【ハウンドマスター】と対戦する。


 だがそれは、ミリッツァが仕組んだ対戦カードである。
 勿論計画の一環なのだが、出来るだけ不戦勝や三人内の八百長カードを組み込んで、勝ち残る確率を上げるようにするのだ。
 あれだけ不利な条件にしたのに、何故か勝ち残っているキョウカの対戦者だって、それに使える。
 まさか今夜も生き残っているとは思わなかったが、【能力無し】というのは、こちらにとっては必勝のカードである。敢えて放置しておいたが、もしもう1回戦でも生き残るようなら、勝ち確定のゲームとしてカードに組み込んでしまおう。


 色々と目論見はあるが、だからこそ【ライトブレイド】には、明日は絶対に相手を殺さないように、と今日中に説得しておかなければならない。
 おそらく、あの少年は嫌がるだろう。何故かは分からないが。


「あの頑固者を納得させるのは、骨が折れるぞ」


 ……ああ、本当に。
 今日は、溜息の多い日だ。

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