あなたの未来を許さない

Syousa.

第三日:02【御堂小夜子】

第三日:02【御堂小夜子】


『まずは礼を言うよ!サヨコ、ありがとうね!君のおかげでまた加点してもらえたよ!』


 ぺこり、と妖精の姿でおじぎをするキョウカ。


(別にアンタのためじゃないわ。こっちはアンタ達の玩具にされて殺されるのよ)


 と言いかけた小夜子だが、今日はもう口喧嘩はしないでおこう、と思い、口をつぐんだ。
 今夜の対戦も生き延び、明日もまた恵梨香に会うために。今日は、限られた時間で可能な限り、この羽虫から情報を手に入れておかねばならないのだ。


「まあ、何でもいいけど、もう少しルールとかお役立ち情報を教えてちょうだいよ」
『うん、そうだね。僕もそのつもりなんだ。今日はもう少し色々話そう。君が生き延びるためにね』





 キョウカの目の前に、ペットボトルを持ってあぐらをかく小夜子。
 セーラー服から着替えて、ジャージ姿である。
 ただし、高校のジャージではなく中学時代のジャージだ。
 小夜子はこれを、部屋着代わりに使っていた。


『これは対戦時に役に立つ機能だと思うんだけどね、まずは【能力内容確認】って言ってごらん』
「口で言うの?【能力内容確認】?」


 小夜子が口にすると、左手脇に白い文字列が浮かび上がった。
 うわっ、と軽い驚きの声をあげながら、目で読む小夜子。
 そこには、


 能力名【スカー】
・能力無し


 と書かれていた。
 能力名はあるのに能力は無し、とは随分矛盾した記述である。


『それはね、能力の内容と制限を表示する機能だ。対戦時には右側に相手の能力内容が表示されるようになっている。今は対戦時じゃないから自分の能力しか出てこないけどね』
「うわ、なにこれすごい」


 文字を突っついてみるが、指はすっ、とそれをすり抜ける。


『ナノマシンによる投影さ。小夜子の視覚に作用したもので、君にしか見えていないから、日常生活の中で使っても周囲にはばれないから安心してほしい』
「って、つまりこれがあれば、考えなくても対戦中の相手の能力が分かったっていうこと?それならもっと早く言ってよ」


 コイツめっちゃ殴りたい。
 そう思いつつも耐える小夜子。どうせ殴ってもすり抜けて床を叩くだけだ。


『いや、そうじゃない。確かに自分と相手の能力は表示されるが、能力や条件は確認した分と推理を的中させた分しか見ることはできないんだ』
「どういうこと?」
『例えば、昨日の【ホームランバッター】との対戦でなら、彼がバットで物を叩いて飛ばし、能力を発動させたのを目撃した時点で相手能力が表示可能となる。相手を観察して相手の制限や条件に気付き、考えて、それが正解だった場合には条件や制限も色違いの箇条書きで表示される』
「結局自分で見ないと分からないってことなの」
『実際に見るか、もしくは推理を当てるか、でね。まあ、答え合わせ付きのメモみたいなものさ。対戦者がこれを参考にして戦えるように、とね。戦闘中はなかなかメモなんてとれないだろ』
「相手の能力の推理とかは、口に出さなくてもいいの?」
『うん、それは大丈夫。君の神経に接続されたナノマシンと小型のバイオ人工知能が思考からその辺を読み取って照合してくれる』


 へー、流石は未来技術、と思いながら腕を組んで頷く小夜子。
 だが。


「ちょっと待って。今何て言った?」
『ん?ナノマシン?君達の時代では実用化されていないけど概念自体はあったと聞いてるけど……』
「そうじゃなくて、神経に接続したとか言ってなかった?」
『ああ、君達対戦者には全員、蚊型のバイオマシンを使い、1週間かけてナノマシンや投与させてもらったんだよ。おかげで痛くもなんともなかっただろ?バイオ人工知能はナノマシンが君達の体内で形成してくれたから、違和感も無いはずだ』
「勝手に人の身体に機械埋め込まないでよ!」
『仕方がないだろ。運営を円滑にするためなんだから。だってそれが君達の身体に浸透していないと複製空間への次元転送も出来ないし……この妖精のアバターだってナノマシンとバイオ人工知能が君の視覚に投影しているんだよ?僕との会話だって君の体内の機械が受信してくれているから出来るんだし』


 小夜子の所までてこてこと歩いてきて、その膝をぽんぽん、と叩くキョウカ。


「……ちなみに、アンタ達の時代で、勝手に他人に機械を埋め込んだらどうなるの」
『犯罪に決まっているだろ』


 怒りを通り越して呆れてしまう。溜息をつく小夜子。


「私達を実験動物にしておいて今更なんだけど、ホント、アンタ達って私達の時代の人間に対して人権認めてないのね」
『いや、それは違う。この時代相手でも、普通の人間に実験材料にしたり機械を埋め込んだりしたら、流石に人道にもとる』


 そう言われて、「じゃあなんで」と口にする小夜子。
 だがすぐに、彼女は解答を導き出した。


「私達が「歴史上存在する意味のない人間」だから?」
『正解。例えば、ある種の動物を捕まえて調査や実験をするにしてもさ、その種を全部採り尽くしちゃったら、意味が無いだろ?』
「生態系にも影響が出るわね」
『今回の僕達の試験で、君達未来に繋がらない人間、まあ言ってみれば「過去の余剰人」を用いるのもそれと同じなんだ。未来に影響しない範囲の余った人間を授業の実験教材に使うから、僕達の現代には影響を及ぼさない。そりゃあ、多少は周囲の人間に影響が出るかもしれないが、まあこれは歴史の復元力の範囲内だし、そのことは前にも言った通り、うちの学校の天体量子コンピュータでも検証が済んでる。さらに君の言っていたタイムパトロール?に近い機関、【国際時間管理局】にもちゃんと届け出をしてあるしね。だから時間犯罪には当たらないし、正規の実験として認められているのさ』
「……あんた達未来人が、他人を殺しあわせる授業だか試験だかをするのは勝手だけどさ、そういうのは自分達のクローン人間とか作ってやればいいじゃないの?その方が楽じゃないの?漫画で見たことあるけど、そういうの」


 中学の図書室に置いてあった昔の漫画の記憶を辿る小夜子。三国志やら太平洋戦争やらの漫画と一緒に並べられた、あの漫画の神様が描いた作品は、かなりの数が揃っていたのを覚えている。
 ちなみに小夜子は、図書室に置いてある漫画は全部読了済みであった。


『流石は中世!野蛮なことを言うなあ!』
「ちゅ、ちゅうせい……」


 キョウカにとっての21世紀は、小夜子にとっての鎧兜の時代と同感覚である。そのことを思い出し、小夜子は改めてキョウカと自分との感覚の違いを認識させられるのであった。


『君達の時代ではどうかは知らないけど、僕達の時代ではクローン技術で作られた人間にもちゃんと人権はあるんだ。そんなこと、世論的にも法的にも人道的にも許されるわけないだろ!』
「じゃあ私らの人権はいいの!?」
『やれやれ。中世では人権の定義もちゃんと認識されていないようだね。いいかい、【人権】っていうのは、その人間の【将来的な可能性】を担保にした保護なんだ』
「んん?」


 一瞬理解が止まる小夜子。


『つまり「この人物はこれから何か社会的貢献をするかもしれない、働いて社会に利益を出すかもしれない。だから、その可能性を守る必要がある」という理由によって各人の権利は保護されているんだ』


 小夜子の困惑した表情から察したのか、キョウカは噛み砕いた説明を行う。


『だから君達みたいな「存在する意味が無いことが確定している人間」には、【人権】は適用されないんだよ』


 キョウカ自身は、出来の悪い生徒に補習授業を行う献身的な教師の心境であったのかも知れないが、授業内容は最悪の一言である。


「可能性のある人間にしか、権利は認められないということ?だから存在した意味の無い人間には人権は適用されないってわけ?」
『そういうこと』
「私の知っている人権とは随分内容が違うようだけど」
『僕の時代みたいな、完成された認識になるにはあと400年はかかったはずだよ。まあ、君達の時代じゃあその認識に達していないのは仕方ないさ』


 キョウカは肩をすぼめて、やれやれという仕草をして見せた。


「人命の軽さが実にSF的ね。クソだわ」


 苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる小夜子。
 そんな彼女の顔を見ながら、キョウカは諭すように言った。


『君達は人命扱いされる要件を満たしていないからね。その辺を勘違いしてはいけない』

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