意味がわかると怖い話(自作)
葬式 解答/解説(フルver)
【解答】
実はこの葬儀は、「保険金目当てに両親に殺された『兄の孫』」の葬式だった。そして語り手(男)はそれを知った上で葬儀に参列していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【解説】
まず解説に入る前に、人物関係がややこしいのであらかじめ略称を定めておきます。
「語り手(男)の兄」→「兄」
「語り手(男)の兄の息子」→「息子」
「語り手(男)の兄の孫」→「孫」
と理解してください。
では解説です。
結論から言うと、作中で開かれている葬式は兄の葬儀ではありません。
仮にこの葬儀が兄のものであるとして本文を見直した場合、一つ矛盾が生じます。
皆さんは「焼香順序」というものをご存知でしょうか。
焼香順序とは、読んで字の如し、葬儀の参列者がどういう順番で焼香を済ませるかを定めたものです。一言で言えば単純に焼香の順番ですね。
これに関してはケースバイケースで、「葬式を挙げる時は何があってもこの順番で焼香を済ませろ!」というような絶対的な順序はありません。しかしほぼ全ての葬儀の焼香順序において、共通することがあります。
それは、「故人に兄弟姉妹と孫がいた場合、兄弟姉妹よりも孫の方が先に焼香を済ませる」というものです。正確には「孫」ではなく「喪主の子」ですが、ここではわかりやすいように「孫」にしておきます。
これを本作に当てはめると、これがもし兄の葬儀だった場合、
「語り手(男)よりも孫の方が先に焼香を済ませる」
ということになりますね。
そしてもう一つ重要なのが、「故人の妻」と「故人の孫」、どちらが先に焼香を済ますべきかです。これもほぼ全ての焼香順序において、前者、すなわち「故人の妻」の方が先に焼香の順番が回ってきます。
これらを総合すると、「(故人の)兄弟姉妹」「(故人の)孫」「(故人の)妻」の焼香の順番を並べると、早い順に
「妻」、「孫」、「兄弟姉妹」
になります。………(*)
本作では後半に「故人の妻」、ここでは「兄の妻」が焼香している場面がありますね。また、この葬儀の喪主は息子であることも記述されています。
よって、本作を(*)に当てはめると、「語り手(男)」「孫」「兄の妻」は
「兄の妻」、「孫」、「語り手(男)」
の順に焼香を済ませなければならないことがわかります。
しかし本文の後半にある通り、焼香の順番は兄の妻の次に語り手(男)に回っていることになります。
これは明らかにおかしいですね。これが先程言った「矛盾」です。
では誰の葬式なのか。まず設定上本文に一切登場していない人物は有り得ないので、本文に登場した人物の誰かということになります。
ここで、本作の登場人物は以下の通りです。
①語り手(男)
②兄
③兄の妻
④息子
⑤息子の妻
⑥孫
⑦僧侶
まず、①、③、④、⑦は実際に本文に生きて登場しているので除外できますね。
②は前述の通り、焼香順序に矛盾が生まれるので除外です。
となると残る候補としては⑤か⑥、「息子の妻」か「孫」のどちらかになります。
ここで本文冒頭を見ると、
『正面に設置された祭壇の上では元気だった頃の彼が遺影となって屈託のない笑顔を浮かべている』
とありますね。遺影に写っているのは『彼』なわけです。つまり故人の性別は「男」なわけですから、「息子の妻」は有り得ません。
よって、「孫」が男の子であるという描写はありませんが、消去法で必然的にこれは「孫」の葬式であるとわかります。
だからどうした、と言いたくなるかもしれませんが、実はもう少し続きがあります。
本文の中盤で語り手(男)が『交通事故とはなんと残酷な』と思うシーンがあります。これは「故人は交通事故によって死亡した」という意味ですね。
つまり、孫は事故死したわけです。
またその後に語り手(男)は孫の父親、すなわち(兄の)息子へ向かって『せめてもう少しマシな死に方があったのではないか』と考えています。
これは少し推測が入りますが、「孫は親によって事故死させられた」と考えると辻褄が合います。
というのも、息子夫婦には孫を殺害する口実があるのです。
それは例の『交通事故とは…』の下りの直後にある『金銭的に貧しいながらに…』の記述がヒントになっています。
ここから息子夫婦は貧乏な家庭であったことが窺えます。
貧乏な夫婦が自分の子を殺害する口実。そう言われると、多くの方は少なくとも次のうちのどちらかを考えるのではないでしょうか。
・育児が金銭的に厳しくなったから
・保険金が欲しくなったから
前者の理由に関しては、本作においては少しおかしいですね。
それだけの理由でわざわざ交通事故に遭わせて殺害するなんて、効率が悪過ぎます。倫理的な話は抜きにしても、他に子供を処分するもっと良い方法があるはずです。
となると必然的に理由は後者になっていきます。
交通事故によって死亡した場合も生命保険の保障範囲内です。つまり、交通事故で人が亡くなった場合、その遺族には生命保険による保険金が支払われるということになります。
これを理由に息子夫婦は彼らの息子、すなわち孫を殺害したことになりますね。
また本文ラストに『あと何回、こんなことが続くのだろう』と語り手(男)が溜息混じりに考えるシーンがあります。
ここで言う「こんなこと」とは、「保険金目当ての息子夫婦が己の子供を殺害する」ことを指しています。ここはほぼ完全に推測ですね。つまり息子夫婦は以前にも何度か同様の事件を繰り返しているわけです。子供を作ってはそれを保険金目当てで殺害していくという悪行を成していたわけです。
何故かはわかりませんが、語り手(男)はそれを知っていました。だからこそ本文前半にあるように、息子夫婦が金目当てに作った生命であるにも関わらずそんなことも知らないで屈託のない笑顔を見せる孫の遺影を見て、語り手(男)は『可哀想で見ていられな』いと感じたわけです。
また、本文後半に登場した兄のメモ書きですが、これには何の意味もありません。
縦読みとか文末読みとか、そういう暗号的なものでも何でもなくて、単なるフェイクとして入れたに過ぎません。
以上で今回の解説(フルver)は終わります。
実はこの葬儀は、「保険金目当てに両親に殺された『兄の孫』」の葬式だった。そして語り手(男)はそれを知った上で葬儀に参列していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【解説】
まず解説に入る前に、人物関係がややこしいのであらかじめ略称を定めておきます。
「語り手(男)の兄」→「兄」
「語り手(男)の兄の息子」→「息子」
「語り手(男)の兄の孫」→「孫」
と理解してください。
では解説です。
結論から言うと、作中で開かれている葬式は兄の葬儀ではありません。
仮にこの葬儀が兄のものであるとして本文を見直した場合、一つ矛盾が生じます。
皆さんは「焼香順序」というものをご存知でしょうか。
焼香順序とは、読んで字の如し、葬儀の参列者がどういう順番で焼香を済ませるかを定めたものです。一言で言えば単純に焼香の順番ですね。
これに関してはケースバイケースで、「葬式を挙げる時は何があってもこの順番で焼香を済ませろ!」というような絶対的な順序はありません。しかしほぼ全ての葬儀の焼香順序において、共通することがあります。
それは、「故人に兄弟姉妹と孫がいた場合、兄弟姉妹よりも孫の方が先に焼香を済ませる」というものです。正確には「孫」ではなく「喪主の子」ですが、ここではわかりやすいように「孫」にしておきます。
これを本作に当てはめると、これがもし兄の葬儀だった場合、
「語り手(男)よりも孫の方が先に焼香を済ませる」
ということになりますね。
そしてもう一つ重要なのが、「故人の妻」と「故人の孫」、どちらが先に焼香を済ますべきかです。これもほぼ全ての焼香順序において、前者、すなわち「故人の妻」の方が先に焼香の順番が回ってきます。
これらを総合すると、「(故人の)兄弟姉妹」「(故人の)孫」「(故人の)妻」の焼香の順番を並べると、早い順に
「妻」、「孫」、「兄弟姉妹」
になります。………(*)
本作では後半に「故人の妻」、ここでは「兄の妻」が焼香している場面がありますね。また、この葬儀の喪主は息子であることも記述されています。
よって、本作を(*)に当てはめると、「語り手(男)」「孫」「兄の妻」は
「兄の妻」、「孫」、「語り手(男)」
の順に焼香を済ませなければならないことがわかります。
しかし本文の後半にある通り、焼香の順番は兄の妻の次に語り手(男)に回っていることになります。
これは明らかにおかしいですね。これが先程言った「矛盾」です。
では誰の葬式なのか。まず設定上本文に一切登場していない人物は有り得ないので、本文に登場した人物の誰かということになります。
ここで、本作の登場人物は以下の通りです。
①語り手(男)
②兄
③兄の妻
④息子
⑤息子の妻
⑥孫
⑦僧侶
まず、①、③、④、⑦は実際に本文に生きて登場しているので除外できますね。
②は前述の通り、焼香順序に矛盾が生まれるので除外です。
となると残る候補としては⑤か⑥、「息子の妻」か「孫」のどちらかになります。
ここで本文冒頭を見ると、
『正面に設置された祭壇の上では元気だった頃の彼が遺影となって屈託のない笑顔を浮かべている』
とありますね。遺影に写っているのは『彼』なわけです。つまり故人の性別は「男」なわけですから、「息子の妻」は有り得ません。
よって、「孫」が男の子であるという描写はありませんが、消去法で必然的にこれは「孫」の葬式であるとわかります。
だからどうした、と言いたくなるかもしれませんが、実はもう少し続きがあります。
本文の中盤で語り手(男)が『交通事故とはなんと残酷な』と思うシーンがあります。これは「故人は交通事故によって死亡した」という意味ですね。
つまり、孫は事故死したわけです。
またその後に語り手(男)は孫の父親、すなわち(兄の)息子へ向かって『せめてもう少しマシな死に方があったのではないか』と考えています。
これは少し推測が入りますが、「孫は親によって事故死させられた」と考えると辻褄が合います。
というのも、息子夫婦には孫を殺害する口実があるのです。
それは例の『交通事故とは…』の下りの直後にある『金銭的に貧しいながらに…』の記述がヒントになっています。
ここから息子夫婦は貧乏な家庭であったことが窺えます。
貧乏な夫婦が自分の子を殺害する口実。そう言われると、多くの方は少なくとも次のうちのどちらかを考えるのではないでしょうか。
・育児が金銭的に厳しくなったから
・保険金が欲しくなったから
前者の理由に関しては、本作においては少しおかしいですね。
それだけの理由でわざわざ交通事故に遭わせて殺害するなんて、効率が悪過ぎます。倫理的な話は抜きにしても、他に子供を処分するもっと良い方法があるはずです。
となると必然的に理由は後者になっていきます。
交通事故によって死亡した場合も生命保険の保障範囲内です。つまり、交通事故で人が亡くなった場合、その遺族には生命保険による保険金が支払われるということになります。
これを理由に息子夫婦は彼らの息子、すなわち孫を殺害したことになりますね。
また本文ラストに『あと何回、こんなことが続くのだろう』と語り手(男)が溜息混じりに考えるシーンがあります。
ここで言う「こんなこと」とは、「保険金目当ての息子夫婦が己の子供を殺害する」ことを指しています。ここはほぼ完全に推測ですね。つまり息子夫婦は以前にも何度か同様の事件を繰り返しているわけです。子供を作ってはそれを保険金目当てで殺害していくという悪行を成していたわけです。
何故かはわかりませんが、語り手(男)はそれを知っていました。だからこそ本文前半にあるように、息子夫婦が金目当てに作った生命であるにも関わらずそんなことも知らないで屈託のない笑顔を見せる孫の遺影を見て、語り手(男)は『可哀想で見ていられな』いと感じたわけです。
また、本文後半に登場した兄のメモ書きですが、これには何の意味もありません。
縦読みとか文末読みとか、そういう暗号的なものでも何でもなくて、単なるフェイクとして入れたに過ぎません。
以上で今回の解説(フルver)は終わります。
コメント