スキルイータ

北きつね

第百三十七話


 新居はできた。新居で楽しい生活の・・・前にゼーウ街の報告を聞く事になっている。

 当初は、ログハウスで報告を聞くことにしていたが、ゼーウ街の動きが鈍い事もあり、迎賓館の会議室で意見を集約したルートガーから報告を聞くことになった。行政区と商業区と自由区に来ている代官や希望者が迎賓館に集まっている。

 一種のパフォーマンスだ。

 報告は滞りなく行われた。

 ルートガーの報告の中で、一つだけ聞き逃がせない情報があった。

「ルート。それで、ゼーウ街とアトフィア教の一部が戦闘状態に入ったのは間違いないのか?」
「はい。間違いない情報です。違う情報網から同じ話が伝わってきています」
「そうか・・・監視は続けているのだよな?」
「はい。もちろんです」

 戦闘状態に入ったのが、3日程度前だという事だ。
 使節団の話とも合致する。強硬派の人間たちだろう。

「何か動きがあったら連絡してくれ?こちらへの動きはまだ無いのだよな?」
「はい。無いようです。数百人が港に向かったという情報もありますが船もまだ数が揃っていないようです」
「わかった。ルート。引き続き監視を頼む」

 ゼーウ街の規模や戦闘の状況が報告される。
 同時に、作戦に沿った情報が皆に伝えられる。こちらの動きも隠している部分も有るのだが、表の作戦の進捗が報告される。
 会議への参加者たちもこの”聞き逃がせない情報”を持って各地に散るだろう。噂話しとなって戦闘が近い事が周りに伝わるのだろう。そして、表の作成の進捗がゼーウ街にも伝わるだろう。

 会議はここで終了した。
 場所を執務室に移して、ルートガーから俺だけが報告と聞く事になる。

 表では話していなかった情報として、準備状況や進捗が報告される。概ね問題はないようだ。

「各区は問題ないか?」

 ルートガーは、少しだけ躊躇したが、隠しておく意味もない事から正直に話してくれるようだ。
「二つ問題・・・というか、情報があります」
「ん?」
「まずは、1つ目ですが、パレスキャッスルに来ているエルフ族から、”カズト・ツクモは、エルフをまとめる者”だという話しがでています」
「はぁ?」
「根拠となっているのが、メリエーラ殿がツクモ様に膝を付いて居る所を何人かのエルフが見て、それをエルフの里に報告した結果、メリエーラ殿が認めた人物だという評価がでています。そういう判断になった原因はカイ殿とウミ殿の存在です」
「メリエーラ老はしょうがないとしても、カイとウミ?」
「はい。ツクモ様。カイ殿とウミ殿をどこかで本来の姿になってもらいましたか?」
「・・・うーん覚えてないな」
「そうですか・・・ユーバシャール区でしませんでしたか?」
「悪い。覚えてない」
「そうですか・・・どうやら、エルフ族にとって、フォレストキャットは神聖な魔物で、それの上位種を従えたのは、エルフ族の英雄以外には居ないという事です」
「・・・ん。忘れよう」
「・・・わかりました、その件は忘れてください。些細な事です」
「些細な事?」
「えぇエルフの里から使者が来るとか、俺には関係ない事で、”カズト・ツクモ”がなんとかしてくれるでしょう」
「ルート。何を怒っている?」
「怒っていませんよ。呆れているだけです」

 ルートガーを睨むが反応はない。
 なれたものだろう。

 これ以上話を掘り下げると本当に俺が対応しなければならなくなってしまいそうだ。
 エルフ族の件は棚上げ決定!

「もうひとつは?」
「賢明ですね。今なら、メリエーラ殿が対応してくれますからね」
「あぁなんの事かわからない。ルート他には?」
「・・・はぁ・・・本当に・・・まぁいいですよ。もう一件は、それほど深刻では無いのですが、問題が大きくなっています」
「ん?」

 ルートガーが机の上にいくつかの紙の束を叩きつけた。

「ツクモ様。これは、ツクモ様が許可されたのですか?」
「ん?」

 パラパラめくる。
 ナーシャとイサーク・・・仕事が早いな。

「これは?」
「最近、自由区の門近くで売られている”ガイドブック”です」
「へぇよくできているな。何か問題でも?」

「問題?問題はありませんよ。一切ね。そのうち、ミュルダ殿やシュナイダー殿やゲラルト殿から苦情が来ると思います。俺は、ツクモ様が全責任を取ると言っておきました!」
「は?苦情?この内容なら問題ないだろう?」

 はぁ・・・っとルートガーが大きなため息をつく

「ルート。ため息一つで幸せが一つ逃げていくぞ」
「なんですか・・・それ?意味がわからないですよ。いいですか、ツクモ様。”甘味処”と”宿屋・飲み屋”はこの”ガイドブック”でわかるようになりました」
「そうだな。ナーシャの甘味処は正直どうでも良かったのだが、”宿屋”と”飲み屋”は便利だろう?」

 サービス別や出している料理や酒で分けてる。
 索引と店の情報を別々に作っているので、調べるのが楽になったと”イサーク”から評判を聞いている。

「便利ですね。確かに便利です。まだわかりませんか?それとも、わからないフリをしているのですか?」
「ん?」

 もう一度、ルートガーはため息をついてから
「いいですか?店は、甘味処と宿屋と飲み屋だけじゃないのですよ?」

 そういう事か・・・それで、ミュルダ老=行政サービスの案内。シュナイダー老=商店情報。ゲラルト=鍛冶屋。

「商店情報と鍛冶屋も作らせればいいのか?」
「そうですね。あと、酒精を出していない食べ物屋や屋台。温泉施設や休憩所、馬車や武器や防具のメンテナンスができる場所。それら全てに関して、作って欲しいと、ミュルダ殿やシュナイダー殿やゲラルト殿に苦情が集まっています」

「・・・え?苦情?」
「各区に住んでいる人たちや、自由区やSAやPAを訪れる人達ですね。あとは、”ダンジョンの情報”も有るといいですね」
「おい。ルート・・・それ・・・」
「”甘味ガイド”と”宿ガイド”と”酒精ガイド”を作られた。”カズト・ツクモ”に作って欲しいという”依頼”です」
「・・・勝手に作れば?」
「この街でそれができると思っていますか?」

 思っているが、思っていると言い出せない。

「わかった・・・ルート「イヤです」」
「俺、何も言ってないよな?それじゃクリ「ダメです」」
「ルート。最後まで言わせろよ。そんなにかぶせてくるなよ」

「最初に言っておきますが、ヴィマ、ヴィミ、イェレラ、ラッヘル、ヨナタン、イェルン、ロッホス、イェドーアもダメです。あと、ギュアンとフリーゼも手一杯です。各獣人の長も手伝える状況ではありません!!!」

 なに?

「それじゃ・・・誰にやらせれば・・・・」「神殿区もダメです」
「ルート・・・」

 ルートガーが俺を睨む。
 よほど、いろんな所から言われてストレスが溜まっているのだろう。

 紙に移す作業は、やっと見つかった・・・というか貢物の中にあったスキルカード”レベル7複製”を使えばできる。見つかるまでは、実験区の実験体をスキル操作で複数操って、同時に書かせる方法を使っていたのだが、時間がかかる上に操作している者の負担も考えなければならななかった。
 レベル7複製を使えば、全く同じ物ができる事がわかっている。
 ただ、材料は別途必要になるので、同じだけの紙とインクは必要になる。それでも手間はかなり省略できる様になった。
 もちろん、スキル道具化して行政区に置いてある。

「わかった・・・それでも、人手は必要だな」
「えぇそうですね。そう言えば、メリエーラ殿の所から連れてきた元奴隷が仕事を探していましたよ」
「!!お!ルート。ありがとう」
「いえ、ツクモ様・・・治らないと思いますが、一応言っておきます。その場の勢いで動かれるのは控えてください」
「え?あっそうだな。そうだけど、無理だな」

「・・・ツクモ様。貴方の影響力が強いを考えれば、俺として・・・あの作戦も反対なのですよ?」

 あの作戦・・・・

「?」
「あぁ・・・やっぱりですね。ゼーウ街への遠征作戦です」

 表の作戦の事ではないのは、ルートガーの雰囲気から察する事ができる。

 裏の作戦。
 知っているのは、ごくごく一部の人間だけだ。
 俺とシロと従者(リーリア、オリヴィエ、ステファナ、レイニー)と眷属達、行政側ではメリエーラ老とモデストとルートガー(多分クリス)とローレンツだけだ、フラビアとリカルダにも伝えていない。

 表の作戦にも二段階ある。
 既に公表している、ロングケープにて迎撃を行うと見せかける作戦・・・これが第一段階。

 パレスケープで船団を抑えている間に、大陸側の港を抑えてしまおうという作戦・・・これが第二段階。
 ある程度の者は知っている。港を抑えて、船団の帰る家をなくしてしまってから、ゼーウ街に降伏を迫る作戦だ。
 外に向けての公表はしていないが、迎賓館で代官に向けて説明された作戦で既に承認もされている。竜族頼みの作成だが、竜族の長からも承諾をもらっている。

 この作戦は、ミュルダ老が中心になって、獣人たちや新たに編成されたペネム軍が担当する。
 粛々と準備が進められている。軍への志願も増えている。ミュルダ老やシュナイダー老の試算では、合計で7万程度は常備兵として養えるという事だ。今後の発展を考えれば、7万でもいいような気がするが・・・とりあえず、3万を常備兵としてペネム軍を編成する事にした。

 残りの予算で、各区が警備兵を養えるように補填する様にした。

 第一段階の準備は終わっているが、ゼーウ街が来てくれていないので、進められない。
 表の作戦は、二段階目に準備は進んでいる。
 ミュルダ老からも報告が来ている。準備は進んでいるので、ゼーウ街が攻め込める体制になる頃には、こちらも準備が終わっているだろう。急ぎすぎずにでも間に合うように準備をしてもらっている。デ・ゼーウが搦め手を使わなくても、力技で勝てると思っていてくれないと困るのだ。

 ルートガーが言っているのは、この表の作戦では無いだろう?

「ミュルダ老からは準備が遅れているとは聞いていないぞ?」
「・・・ツクモ様。わざとですか?」
「なんの事だ?」
「そっちの作戦ではありません!」

「あ・・やっぱりな。反対って言われてもな。一番犠牲が少なくていいだろう?」
「えぇそうですね。それは間違いないです。でも、わざわざツクモ様が出向く必要は皆無ですよね?」

「そうか?俺が一番適任だと思うけどな」
「・・・そうですね。反論できないのが悔しいのですが、ツクモ様が出向かないと終わらないでしょう」
「だろう?」

 俺が立てた本当の作戦は、俺とシロとリーリアとオリヴィエとカイとウミとライとステファナとレイニーでエリンに乗ってゼーウ街に潜入するという作戦だ。

 作戦目的は、”デ・ゼーウを捕らえるか殺す”こと。

 俺にしかできない・・・と、勘違いしているのを正さないまま、承認させた作戦案だ。
 実際には、俺で無くてもいいルートガーが行って殺すだけならできる、捕らえる事もできるだろう。

 俺にしかできないと思われているのは、ゼーウ街を支配下に置く時の手段で執事エントたちを大量に呼び出す必要がある事や、その場で終結させるためには上位者がその場に居ないとならない。その他の複合条件から俺が行く必要があると思いこんでいる。メリエーラ老やモデストは気がついているだろうが、誰が行っても同じなら、俺の気持ちを優先してくれているようだ。

 この裏の作戦を知っている人間を選別したのも俺だ。

 ローレンツは、戦闘終結時に、アトフィア教の把握を行ってもらうために、先に声をかけてある。強硬派や教皇派閥の人間が入り込んでいる事も考えられるが、穏健派の人間がいち早く終息に動いて教会を把握してくれれば、ゼーウ街に・・・アトフィア教で俺たちと敵対した勢力が入り込む心配がなくなる。

 ルートガーは、情報伝達の要として作戦案を教えた。

 メリエーラ老は、ゼーウ街の事を・・・デ・ゼーウを知っている事から、作戦を実行したときの問題点を洗い出してもらった。

 モデストは、ルートガーを手伝ってもらっている事もあるが、既にゼーウ街の中に”草”を忍ばせているので、作戦の詳細を詰める時に意見を聞きたかった。

 最初、俺とカイとウミとライとエリンだけで行くつもりだったのだが・・・。
「カズトさん。それでは、ゼーウ街で目立ってしまいます。僕が一緒なら・・・けっ結婚したばかりの夫婦に見えるはずです」
「ツクモ様。ワシも、シロ様の意見に賛成じゃ」

 メリエーラ老の一言で、シロと一緒に行く事が決定した。
 その後は・・・俺とシロ二人で行くと、軽く見られるということで、リーリアとオリヴィエがついていく事になり、そうしたら、ステファナとレイニーが俺とシロが一緒に行くのに、従者がついていかないのはおかしいといい出して、モデストの意見から誰かを連絡に走らせる場合に信頼できる人手は必要だろうという事で参加が決定した。

 大所帯になってしまったが、移動手段はエリンに頼る事になる。
 この問題も解決している。改良した馬車をエリンが持って移動する事になる。正確には、馬具の様に身体に固定するのだが胴体部分に馬車がぶら下がる状態になる。何度か試作して耐久度や居住性や竜体への負担を考えた物だ、既に馬車ではなくなっているが、便宜上馬車と呼んでいるだけの物だ。少し狭いが、6名が中に入っても大丈夫な位の広さは確保できている。寝る事は難しいが、座る位なら余裕でできる。

 これら事を決定したのだが、ルートガーだけは最後まで反対していた。
 作戦の意味や実行されたときの犠牲者の比較もわかるが、俺が行く事に反対しているのだ。

 しかし、ルートガー以外の面子が前向きになっている事や、俺に何を行ってもダメだろうという”経験則”から渋々だが賛成してくれた。

 裏作戦の実行のタイミングは、表の作戦で港を抑えてからになる。
 情報の伝達速度では、俺たちの方が早い。その時間差をつかって作成を実行する事にしている。

 戦闘を終結させるための条件はいくつか考えられる。デ・ゼーウの排除は絶対条件だが、面倒な商会や奴隷商の排除も行わなければならない。これらを、大量に呼び出す執事エントメイドドリュアスが担当する事になる、もちろん、アントビーナ蜘蛛スパイダーも協力する事になっている。現地で潜んでいる”草”も協力して、排除しなければならない者たちをリストアップしてもらっている。

 残された問題は、統治をどうするのかだが、理想としては”傀儡政権”を立ち上げる事だが・・・。”政権”という考え方もない状態では難しいだろう。
 今の所は、直接統治が好ましいだろうという結論になっている。
 だが、俺が常に”ゼーウ街”に行っているわけにはいかない。そのために、執事エントメイドドリュアスを置いて、偽ツクモが統治者として振る舞う案が有力だ。偽シロも用意すればいいだろうという意見になっている。
 入れ物になりそうな実験体を連れて行く、普段は表に姿を見せないで、執事エントが客人の対応を行う。
 重大な案件や面談の時にだけ、偽ツクモを操作する事になる。俺が操作しない時には、執事エントメイドドリュアスが適度に操作して印象を残す事もできる状態にしておけばいいだろう。
 移動手段を考えておく必要が出てくるが、即時面会が必要になる事は考えられないという意見を信じて、最初は偽ツクモと偽シロの運用で統治を行ってみようと思っている。

「ルート。でも、俺は既に準備が終わっているからな」
「わかっています。一度賛成しているので、反対はしません」
「わるいな」
「いえ、いいのですが、教えてください」
「何を?」
「なんで、自分で動く事を望まれるのですか?」
「ん?質問の意図がわからない」

 ルートガーは俺をじっと見ている。

「俺との戦いの時もそうですし、今まで殆ど、ご自分で動いていますよね?今回の事なんか、表の作戦でも十分な成果があるでしょ?」
「そうだな・・・でも、犠牲は出るだろう?」
「・・・えぇ・・・でも」
「わかっている。わかっているが、ルート。俺は、お前を含めて、誰にも死んでほしくない」
「ツクモ様。それは、俺たちも同じです。クリスも同じ考えです。俺たちは、冒険者や自ら望んで兵になった者たちが死んで、悲しむ人たちが居るのだとしても、貴方を、”カズト・ツクモ”に死んでほしくないし、傷ついてほしくない。できることなら、俺たちが勝利の報告を持ってくるのを、ログハウスで待っていて欲しい。ミュルダ殿もシュナイダー殿も・・・実際に戦闘を行う者たちの考えです。誰を失っても、貴方を失いたくない。失ってはダメなのです」

「ルート・・・その・・・嬉しいけど、やっぱり、ダメだ。俺は・・・自分ができるのなら、自分で動きたい・・・美味しい果実を食べるのに、誰が取ってきたからわからない物よりは、俺が信頼する者が取ってきた果実を食べたい。もっというと、同じ食べるのなら、自分が取った果実を食べたいと思う。理解してくれとは言わないが・・・」

「大丈夫です。貴方を理解しようなんて思っていません。俺とクリスは、貴方の邪魔にならないように、貴方が邪魔だと思った事を排除するだけです」
「ありがとう」

「でも、約束してください。貴方が帰ってくる場所は、ここだという事を忘れないでください」
「大丈夫だ。俺は絶対にここに帰ってくる。約束する」

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