スキルイータ

北きつね

第五十三話

/***カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ Side ***/

 まずい事になった。

 ピムが儂に会いたいという事だったので、ツクモ殿が来られたのかと思ったが違った。

 どうすべきか?
 謝罪して済むような問題ではない。ツクモ殿が対等な街の領主だと仮定したとして、その領主からら使者を襲って、持っていたスキルカードを奪おうとした。それだけではなく、使者を貶めようとした疑いもある。
 そんな事をすれば、戦争になるのは間違いない。全面的な非がこちらにある。勝てればいいが、負けた場合には、総てを失って・・・街の住民総てを隷属されても文句は言えない。なんて事をしてくれた。そのうえ、自分の娘までも・・・。

 確かに、リーリア殿の見た目は、クリスと変わらない少女だ。ツクモ殿も、聞いた話では、変わらない年齢らしい。しかし、イリーガルの称号持ちを数体・・・もしかしたら、もっと抱えている者で、ブルーフォレストの上位種であるエルダーエントが従っている。獣人族のほとんどを支配下に置いている人物と戦争なんて事になったら・・・勝つとかのレベルではなく、生き残るのが至難だというのに・・・。

「ピム。それで、その後はどうなのだ?」
「わかりません。イサーク達は、クリスティーネ様とリーリア殿を監視している奴らが居る事は確認したようです」
「そうか・・・もう手遅れになっている可能性があるのか?」
「そうですね。でも、まだ我らの手で拘束すれば!」

「そうだな。エンリコはどうしている?」
「街領隊に向かってもらっています。勝手に申し訳ない」
「いや、いい。それで?」
「わかりません」

 それから、どのくらい時間が経過したのだろう。
 10分かもしれんし、1時間かもしれん。

「領主様!」
「どうした!」
「いえ、失礼しました」
「いい。それでどうした?」
「はい。クリスティーネ様が、街で暴漢に襲われました」
「・・・それで」

 最悪な結果だ。
 リーリア殿は?

「はい。リーリア様に付き添われて、今お部屋で休んでおられます」
「暴漢たちは?」
「リーリア様がおっしゃるには、偶然、そこに居合わせた、イサーク殿が、拘束して、街領隊に連れて行ったそうです」

 リーリア殿に感謝だな。
 儂たちの手でとはいかないが、街の者が解決に尽力した形・・・体裁を整わせる事ができる。

「そうか・・わかった」
「はい・・・それでですね」
「なんだ?」
「いえ、クリスティーネ様が、エンリコ様の執事が暴漢の中に居たと・・・おっしゃっています」

 確かに、あやつなら、イサークたちなら抑える事ができるだろう。
 しかし・・・

「無駄でしょう」
「そのようだな。ピム。頼みがある」
「えぇ大丈夫です。今から、街領隊にむかいます。本人が居る事を確認したら、エンリコ殿の拘束にむかいます」
「頼む。なんとしても、我らの手で、エンリコだけでも抑えないと・・・ならない」
「わかっています。それで、行ってきます」

 ピムが部屋から出ていく、儂は、確認するために、クリスに部屋に向かう。

「クリス!クリス!」

 ドアをノックするが反応がない。
 少し待っていると、ドアが開けられた。

 リーリア殿が出てこられた。

「領主様。クリスティーネ様は、今泣きつかれて、眠った所です。少し眠らせてあげて下さい。それで何か御用ですか?」

「領主様!!!領主様!!!」
「静かにしろ!今度はなんだ!」

 怒鳴りたい気持ちを抑えて、執事を叱る。

「りゅりゅりゅ」
「落ち着け。いいから、まずは落ち着け」
「申し訳ありません。街に、竜族が竜族が飛来しております」

 は?
 竜族と言ったか?

「あっ!ご主人様が来られたのですね。少し行ってきます!後、よろしくお願いいたします」

 え?リーリア殿?
 どういう事?

 え?え?え?

「はぁぁぁ!?」

/*** ピム Side ***/

「頼む。なんとしても、我らの手で、エンリコだけでも抑えないと・・・ならない」
「わかっています。それで、行ってきます」

 もう既に遅いような気がするが、少しでも早く・・・。スキルを発動して急ぐ。

 途中、領主様の執事がすごく慌てた様子でかけていったが、気にしないで置こう。

 領主の屋敷から、エンリコの屋敷まで、スキルを発動して向かえば、3分かからないで到着できる。

 街領隊が、屋敷を取り囲んでいる。
 執事が連行されて、イサーク達が証言を得たのだろう。どうやって得たのかは聞かないほうがいいだろうけど、証拠は揃った事になる。

「領主様からの命令です。エンリコを拘束して、街領隊で尋問して下さい」

 街が騒がしいような気がするが、丁度いい。エンリコの屋敷で何が行われているのか、知られないで済む。

 隊長が自ら突入する。
 乱暴だな。街領隊としては、前隊長が暴漢の1人として拘束されたのだから、名誉を守るためにも、必死になるしか無い。スキルの使用も許可されているのだろう。10分程度で、エンリコが拘束されて出てきた。
 なにかブツブツ言っているが、わからない。

「ピム!」
「あっイサーク。今、エンリコが拘束されたよ」
「あぁでも、それどころじゃない」
「え?どうしたの?クリスもリーリア殿も無事だったよ?」
「いや違う。お前!あれを、あれを見ろ!」

 イサークが示す方角を見る。
 そこには、ミュルダの上空を旋回している竜族が目に入る。

「はぁぁぁぁぁぁなんで竜族が?ガーラントは?」
「ナーシャと一緒に門に向かった!」

「え?なんで門?」
「・・・ピム。あれ・・・カズト・ツクモ殿だ」

「えぇぇぇぇ・・・はぁぁぁぁぁ???」
「俺たちも行くぞ!」
「え?あっうん!」

 門に向かって走り出した。

/*** リーリア・ファン・デル・ヘイデン Side ***/

「リーリアお姉ちゃん。僕、いらない子?」

 もう一度、同じ事を聞かれます。

「わかりません。でも、領主様は、クリスを治すために、私に頭を下げました。ハーフ・ドリュアスである私にです」
「え?リーリアお姉ちゃんも・・・なの?」
「そうですね。でも、クリスとは違います。私の母は、人族の男に乱暴されて、私を産みました。私は、ご主人様の眷属になるという幸せを得る事ができました。でも、クリスは違いますよね?」
「え?あっうん。わかるの?」
「いえ、私にはわかりません。ただ、クリスのスキルが、私たちよりなのが気になっていました」
「そう・・・なの?」
「はい。ご主人様なら解るとは思いますし、答えを出してくれるかも知れません。でも、それは、必ずしもクリスが望んでいる答えでは無いかも知れませんよ?」

 私は、クリスを黙って見つめます。

「僕は、自分が何者なのか知りたい。お父様は僕を化物と呼ぶ。ママは僕の事を可愛い娘と呼ぶ。お祖父様は、なにか知っているみたいだけど、教えてくれない。でも、僕の事を大切に大切に思ってくれている。ナーシャお姉ちゃんも、僕の事を知っても、僕の所に来てくれる。でもお父様は僕の事が嫌いなんだと思う。汚らわしいと言う。僕の耳を頭を見ると、ママを殴る。殴って、お前が悪いと言う。そして、誰と姦通したと蹴る。ママは、そんな事していませんと言う。でも、お父様はママを殺す勢いで殴る」

「クリスはどうしたいのですか?」

「僕は知りたい。僕の事を、そして、お父様がなんで、僕を、リーリアお姉ちゃんを・・・ママの事も・・・」

 最後は、泣きながら眠ってしまったようです。
 私の服を摘みながら、泣きつかれたのでしょう。

 ご主人様にご相談しなければならないようですね。

// 種族:人族

// 固有スキル:樹木

 これは、エントやドリュアスが取得するスキル。

// 固有スキル:獣化

 これは、獣人族が持つ場合があるスキルです。一時的に、総てのちからを強めるスキル。

// 固有スキル:魔眼(未覚醒)

 これがわからない。何らかのスキルだろう事は解る。
 そして鑑定をしても情報が表示されない。誰かにロックされているように感じるスキル。

 ドアがノックされる音がします。

「クリス!クリス!」

 領主様のようです。クリスの事が心配で来たのでしょうか?
 それとも、バカを捕らえる事ができたのでしょうか?

 ひとまず、廊下に出て、話をしましょう。クリスが起きてしまうかも知れません。

「領主様。クリスティーネ様は、今泣きつかれて、眠った所です。少し眠らせてあげて下さい。それで何か御用ですか?」

「領主様!!!領主様!!!」
「静かにしろ!今度はなんだ!」

『リーリア。どこに行けばいい?』

「りゅりゅりゅ」
「落ち着け。いいから、まずは落ち着け」
「申し訳ありません。街に、竜族が竜族が飛来しております」

『ご主人様!』
『あっナーシャが居るから、近くに降りるな』
『わかりました。すぐにお伺いいたします』

「あっ!ご主人様が来られたのですね。少し行ってきます!後、よろしくお願いいたします」

 なにか、後ろで領主様が叫んでいるようですが、今は、ご主人様の方が大事なのです。

 門まで急ぎます。
 でも、本気では走りません。目立ってしまうからです。街の皆が空をご主人様を見上げています。誇らしいです。

 門番とは既に顔なじみなのです。外に居るアンクラムからの移民たちを世話したり、治療したりするために、何度も外に出ています。

 ナーシャさんが、門を出て、少し行った所にいらっしゃいます。

「ナーシャさん!」
「あっ!リーリアちゃん。ツクモ君すごいね!!」

 大興奮と行った所です。

「それで、どうして、ナーシャさんはここに?」
「ん?あっ竜族が空に見えたから、街に被害がでるのなら、私たちが囮になって、街に少しでも被害が出ないようにしようかなと思って・・・ね。そうしたら、ツクモ君だって言うからびっくりしちゃったよ」

 だから、この人たちは、ご主人様がお気に入りになるのですね。
 やっている事は愚かなのかも知れない。でも、本気で建前を守ろうとしているのです。

 ナーシャさん達が、竜族に立ち向かう必要は無いのです。
 そのための、街領隊なのです。でも、冒険者は、力なき者を守るという建前を守ろうとしているのです。

 ナーシャさんだからかも知れません。でも、少なくても、イサークらんやガーラントさんやピムさんも同じ様に感じます。正義感なのかわかりませんが、困っている人を助けるために、動かれる人たちの様です。

「それで、ナーシャさんは、そのスキルで攻撃しようとして、ご主人様から連絡を貰ったのですね?」
「ん?もう攻撃しちゃった。反撃されそうな所で、ツクモ君に助けられちゃった」

 はぁせっかく褒めようと思ったのに・・・。でも、そこが、ナーシャさんらしいですね。
 レベル4水弾。その程度では、竜族はもちろん、私達にも傷を付ける事も難しいです。最低でも、レベル5氷弾や爆炎くらいは使って欲しい所デスね。

「え?あっそう・・・全然効かないってよりも、合図程度に思われちゃったよ。ツクモ君がやっていたように、魔力を込めるようにやってみたのだけどね」
「それで、ご主人様は?」
「え?あっうん。もうすぐ降りてくると思うよ。ガーラントが、アンクラムの人たち誘導を頼んで・・・・そろそろ終わると思うからね」
「え?誰に?」
「あぁヤルノさんだよ」

 あぁそう言えば、ヤルノさんが、アンクラムからの人たちのまとめ役をしてくれていたのでした。
 丁度良かったです。

「おぉナーシャ!誘導・・・あっリーリアさん!」
「ヤルノさん。ありがとうございます」
「いや、問題ない。それにしても、リーリアさんのご主人様にやっと挨拶できるとは思っていたのだが、まさか竜族に乗ってこられるとはすごい人だな」
「ご主人様ですから!」
「ハハハ、そうだな。その御蔭で、俺たちはこうして無事に生きているのだしな!」

『リーリア』
『はい。ご主人様』
『エリン。お前の姉さんになるのだから、後でしっかり挨拶しろよ』
『うん。妾は、エリン。リーリアお姉ちゃん。よろしくなのじゃ』
『うん。私は、リーリア。ご主人様を無事につれてきてくれてありがとう。すごく嬉しい』
『当然なのじゃ。マスターは、妾にとって大切な人なのじゃ!』
『うんうん。あっご主人様。領主様とクリスがご主人様にお会いしたいと言っていますがどうされますか?』
『うん。そのつもりで来たからね。まずは、エリン。降りるぞ!』
『はいなのじゃ!』

 エリンが地上に近づいてきます。
 ゆっくり、ゆっくり、優しく地面に降り立ちます。

 周りが光ります。多分、ご主人様がスキルを使われたのでしょう。
 光が弱まると、竜の姿はなく、私のご主人様を中心にして、左側に多分女の子がエリンなのでしょう、右側に居る男の子がオリヴィエなのでしょう。カイ兄さまと、ウミ姉さまもいらっしゃいます。
 私は、嬉しくなって、ご主人様の足元まで急ぎます。
 抱きつきたい衝動を抑えて、ご主人様の御前に跪きます。

「お久しぶりです。ご主人様」
「うん。リーリア。お疲れ様。そして、ありがとう。報告は、後で聞くな」

 お優しい言葉です。
 それだけで、報われます。

「リーリア。街に行きたいけど大丈夫か?」
「多少混乱しているかと思いますが、大丈夫だと思います」
「まぁ門で待って、イサークたちを呼び出せばいいだろう?」
「はい。多少お待ちいただくかも知れません」
「いいよ。いいよ。そのくらいはかまわないから、しっかり対応してくれた方が嬉しいからな」
「かしこまりました」

「あっリーリア姉。俺も一緒に行くよ」
「オリヴィエでしたか?そうですか、お願いできますか?」
「あぁよろしく!」

 私は、ナーシャさんとヤルノさんと誘導を終わらせたガーラントさんを伴って、門に急ぎます。
 ご主人様は、カイ兄さまとウミ姉さまとエリンを連れて、ゆっくりついてきてくれています。

 これで、クリスの問題も解決するでしょう。
 ミュルダに関する諸問題も大丈夫でしょう。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品