天才の天才による天才のための異世界

白兎

第三十五話  確証と疑問と危機

 
「ナトリア」


 リリはナトリアを問い詰める。
 ナトリアはリリの威圧に押され、口を開いた。


「……わかった。ヒドロは、……」


 リリも大方予想がついている。それでも、絶対的な確証が欲しかった。


「ヒドロは、クリトンだった」


 リリの予想は的中した。クリトンはギルドの顔役、なのに一度も事件に関わらなかった。そして、ラドンの件の時、ラドンは腹を切り裂いて中身を持ち帰るのが特徴。しかし、クリトンたちが襲われた時は腹をやられただけだった。おそらく、自分を疑惑から外そうと、早々に手を打ったのだ。セノも同じ状況にしたのも自分が疑われないようにするため。ラドンの依頼に参加したのも利用できると思ったからだろう。ナトリアの戦闘を見たクリトンはナトリアを手にしたいと思った。だが、姿を現すのは少なからず危険だ。すべては最初のうちにナトリアたちから自分への疑いを消すための自作自演だったのだろう。
 リリは辻褄を合わせ、確証を得て、この事件に終止符を打つために行動した――






 ********************






 「一体何があったんだ?」


 水晶体が赤く染まった瞬間、ルビーは部屋から飛び出した。和也も急いで後を追う。
 ルビーは魔法で風を身に纏い、宙を浮いて移動する。走り、ましてや和也の運動能力では到底追いつけない。
 見かねたルビーは和也にも同じ魔法をかける。和也の体は宙に浮き、勝手にどんどん進んでいく。これほど楽なことはない。


「いました」


 ルビーは魔法を解いて立ち止まり、一点を見つめる。和也もつられるように視線を向ける。ここはベルウスの森の端だ。森林は途絶え平地が広がっている。その向こうにはざっと一万ほどの兵力が進軍してきたいる。このままだとベルウスの森に侵入される。
 それに――


「なんで奴らが」


 鎧は赤く、いやな思い出しかない身なりをしていた。


「あれはドルド国の方からですね」


「あぁ、ドルドの軍隊だ。でも何でここに?」


 和也は疑問に思った。最近勢力を大きくしていたドルドが他国に進行することは珍しくない。実際ルカリアは何度も戦争している。しかし、ベルウスの森に進行する意味が分からない。ベルウスの森を通過した先にある国々――チソ連合に進行していたとしても、わざわざリスクを負ってまでここを通るのは無駄だ。
 つまり――


「何かあるな……」


 和也はドルドの軍隊を見てそう呟く。ルビーは和也の言葉を聞いていたが、あまり警戒しているようではなさそうだ。この森の中では絶対的な力を誇るルビーは警戒の必要がないのだ。あくまで、ルビーの認識の範囲だが。


 和也は成り行きを見届けることにした。向こうが何を企んでいるか分からない上、ルビーの実力なら対処できるかも知れないと踏んだ。
 すると、ドルド兵が進軍してくる方向より九十度左から別の集団が迫っている。銀色の鎧を身にまとい、先頭のは国旗を掲げている兵士がいる。


「ジンク帝国!?」


 ドルドより南の国――ジンク帝国だ。勢力圏は大陸でも最大の国だ。それゆえ、軍事力も大陸の中ではトップクラスだ。
 和也は少し混乱している。ドルドの進軍だけでなく、ここにきてジンク帝国までやって来たのだ。お互い認識できている距離にいるのに対し、一切牽制しないところを見ると、この二勢力は共闘している。そして、ジンク帝国もこちらに向かっていることから、二勢力の目的はベルウスの森だ。


「どうする?」


 和也はルビーの意見を聞く。この地ではルビーの意見が最優先だ。


「どうするもこうするもありません。私はこの森を守るだけです」


 ルビーがこの森の中では国の一つや二つ問題なく撃退できるだろう。だが、その上でドルドとジンク帝国は進軍している。何も考えずに来ているわけがない。
 和也は観察する。ぱっと見変わったところは何もない。ルビーが警戒しないのもわかる。
 しかし、この考えは一瞬にして変わった。
 二勢力の軍隊の中心から大層な装置が出てきた。大砲のような形をしているが大きさは大砲の五倍くらい大きい。


「何の道具だ?」


 すると、その装置の筒先は上空に向けられる。そして、二つの筒先から緑の閃光が放たれ、ベルウスの森の上で拡散した。みるみるとベルウスの森を囲うようにドーム状に薄緑の結果のようなものが張られた。
 和也は、分析の力を発動。装置までは距離が遠いので、上空の現象に使った。


「魔法を……阻害する!?」


 和也はかなり動揺した。今まで落ち着いていたのはルビーがこの森の中では無敵だったからだ。しかし、それは魔法が使えた場合のみの状況。この二勢力を撃退する手段である魔法を塞がれれば、太刀打ちできない。ルビーも現状を理解したのか、少し冷や汗をかいている。
 和也とルビーは最大のピンチを迎えたのだった。






 ********************






 オストワルが手紙を開き中を確認した後、すぐに集合をかけた。
 何事かと不思議に思いながら第三騎士団団員は集まる。


「みんな、落ち着いて聞いてくれ。今ルカリアにドルド国とジンク帝国が進軍中との情報を得た。今のルカリアの前線だけではこの二国を相手にするのは難しい。そして、騎士団を総動員してこの状況を打破してほしいだそうだ」


 周りはざわめく。それもそうだ、普段本格的な戦闘は第一騎士団や第二騎士団の管轄だ。それが、第三騎士団も本格的に戦闘に参加し、ましてや二国も相手にするだろうとは思いもよらなかったからだ。フランたちはそれほどまでにルカリアが追い込まれているということを実感した。


「今の兵力では撃退は難しいかもしれん。しかし、やるしかないのだ! 皆剣を抜け! この状況を打破し今後の戦闘に勢いを持たせるのだ! すべてはルカリアのために!!」


「「「「すべてはルカリアのために!!」」」」


 オストワルの鼓舞で、団員は剣を掲げる。そして、すぐに準備し出陣した。
 第三騎士団はドルド国の方に向かった。カリファーたち第一騎士団が相手にしている所に加勢するのだ。
 兵站には第五騎士団が待機している。第五騎士団は主に治療や調理などの裏方を請け負っている。戦争に行く時は必要な騎士団だ。 
 第三騎士団は兵站を超え、前線に向かった。そこにはカリファー率いる第一騎士団とドルド国が壮絶な戦いを繰り広げていた。しかし、少し押されいる。カリファーはマグスに手一杯になっており、うまく指示が出せない。勢力差がここにきて現れる。


「かかれぇーー!!!!」


 オストワルの掛け声とともに第三騎士団は突撃する。本格的な集団戦闘は初任務以来だ。当然大した戦力にはならないが、少しでも勢力が上がるだけで全然違う。その上オストワルはカリファーとともにマグスを抑える。それにより、第一騎士団に指示を出す余裕ができた。 
 押されていた状況はから互角にところまで持ち込む。この場にナトリアがいた場合、均衡は一瞬で崩れただろう。ナトリアの実力を知っているものなら誰でもそう思った。しかし、彼女はここにいない。自分たちでどうにかするしかないのだ。
 兵力は第三騎士団の参加により、ほんの少しだけルカリアが勝っている。この戦場で警戒すべきはマグス一人だ。これはカリファーとオストワルで上手くカバー出来る。あとは決定的な勝機だけだ。均衡した状態はあまり望ましくない。なぜなら第三騎士団は集団戦闘に慣れていないのだ。もちろん訓練は受けているが、訓練と実践は大きく違う。ましてや前線ともなるとこの差は大きく出るのだ。
 ルカリアも二国の進軍により、ピンチを迎えている。




 ルカリア、キスガス、ベルウスの森――この三か所による戦いは今後の勢力図を大きく変えることになることを和也達は知る由もなかった――





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