天才の天才による天才のための異世界

白兎

第二十九話  暗闇の殺人鬼



 ギルドでの仕事の流れはこうだ。
 まず、クエストボードに張ってる依頼書を受付に通し、仕事を行う。依頼内容は猫探しのような小さな仕事からドラゴン討伐といった命を張った仕事まである。
 今回、ナトリア、リリ、クリトン、セノの四人はキスガス領土内の村に迫る多数のゴブリン退治だ。
 緑の体、とがった鼻、身長は低いががっしりとした筋肉。手には斧や剣、弓を所有しているゴブリンもいる。とても危険な存在だ。だが、彼女ら四人の敵ではなかった。というより、彼女の敵ではなかった。


「マジか……」


 クリトンは一瞬の光景に目を疑った。三十体ほどのゴブリンが十秒立たずに全滅したのだ。ゴブリンの死体が広がる中心には血に染まった二本の剣を持つナトリアがいた。
 クリトンやセノでもこれぐらいなら一人でも余裕だ。だが、それでも一体一体倒していく。構えた瞬間にゴブリンが倒れていく光景など見たことも無かった。リリもナトリアの戦闘を見たのはこれが初めてだ。普段のマイペースなナトリアしか実際に見たことがないため、このギャップには驚いている。もちろん、死体自体そうそう見ないため刺激が強いのもあるが。


「ごめんリリ。少し、刺激が、強かった」


「あっううん大丈夫。少し驚いたけど大丈夫だから」


 ナトリアはやりすぎたと反省している。そんなナトリアに笑顔で近づく奴らがいた。


「凄いじゃんナトリア! あんたそんなに強かったんだな」


「なんかおっとりしてる子だなと思ってたけど見直しちゃった!」


 クリトンとセノは一切抵抗せずに気軽に接する。普通なら引くところだが、彼らにはそんな感情はない。キスガスが内部抗争が起こらないのは仲間意識が高いこともあるだろう。


「んじゃ、帰って宴の準備だ。報酬も出るし」


「まぁ、あたしたちは何もしてないけどね」


 実際、クリトンたちがしたのは武器を構えただけだ。本来ならナトリアだけに報酬いきわたってもおかしくはないが、ナトリアはそんなの興味はない。もちろん報酬は山分けだ。
 クリトンたちはギルドに戻る。ナトリアとリリは依頼主の村に行った。依頼の達成報告もあるが、他に目的があった。


「……すまない。わしは知らんな」


 村長は言う。ナトリアたちは和也の情報を聞き出していた。どこに消えたのか一切分からないため、依頼達成報告に行った先に聞いてまわった。キスガスに来てから一週間が経つが、まだ進展はない。そりゃそうだ。和也は今、不可侵の領域にいるのだから。一村長が知っていればもうそれはただの村長ではない。






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「カンパーイ!!」


 ゴブリン討伐の報酬はそれなりに大きかった。お調子者のクリトンはギルドで飲んでいる奴らに奢ると公言してしまった。今回の報酬はそんなに残らなそうだ。もちろんナトリアはそんなに気にしていない。気にしているのはリリだけだ。


「あぁ今回の報酬はゼロか……」






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 今日も仕事をしなければならない。移動を含めればそれほどのんびりしていられる時間はない。ナトリアが朝食をとっている間にリリは仕事を選ぶ。ナトリアの食費を考えれば簡単な仕事では足りない。さすがに他国に来てまでルカリアの支援は受けられない。ナトリアの実力なら少しぐらい難しい仕事でも大丈夫だろうと、リリは依頼内容よりも金額を重視した。
 そして、一枚の依頼書を手に取りナトリアの元に持ってくる。


「ナトリア、今回の仕事はこれにしよ!」


 リリが持ってきた依頼書にはある男の捕獲と書かれていた。報酬は五百万ホルム。


「凄い金額。一体どうゆう、奴なの?」


 依頼書には詳しいことが書かれていなかった。詳細は来てから伝えるとだけ書いてあった。






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「んで、ここが依頼主の家か」


 クリトンはその建物を見て呟く。あの後、出発しようとしたナトリアとリリは偶然クリトンとセノのパーティに遭遇し、そのまま二人についてきたということだ。


「立派な屋敷ね~これは相当な金持ちね。腕がなるわ」


 セノは指の骨を鳴らしながらやる気満々な表情を浮かべる。


 四人は屋敷の中に入って行った。
 屋敷の中はとても華やかできれいだった。赤いじゅうたんが敷かれ、高そうな壺、額に入れられた絵画、天井には光の魔石で作られたシャンデリア。そして――


「お待ちしておりました。リリ様、ナトリア様、クリトン様、セノ様ですね。主人が会いたがっております」


 そう言って執事服の老人が中を案内する。クリトンとセノは物珍しそうにあたりを見渡しながらついていく。
 そして、執事服の老人の足が止まり、ある扉に案内する。その扉は他よりも豪華で、いかにも主の部屋という風貌だった。
 四人はその部屋に入る。中には若い男性が座っていた。おそらく、この人が依頼主でこの屋敷の主だ。
 四人は先導されるままにソファーに腰を掛ける。


「で、依頼についてなんだが……」


 クリトンが珍しく真面目な表情で話す。普段見ない顔にナトリアとリリは少々驚きを隠せないでいる。


「その男はこの町で殺人を繰り返しているんです。今は夜に外に出るのは最も危険で、家にいてもおちおち眠ってもいられません」


 彼の言っていることは事実のようだ。よく見たら目にクマが出来ており、少しやつれている。


「で、標的の詳細を教えてくれ」


 クリトンがそういうと、依頼主は一枚の写真を見せる。そこには依頼主ともう一人の男が写っていた。


「彼の名前はラドン。私の親友だった男です」


 写っている姿は殺人など起こしそうにない優しそうな笑顔を浮かべている。


「ラドンは子供のころからの付き合いで、よく一緒に遊んでいました。私の立場上何かと言われることはありましたが、最終的には親も認めてくれていました。ですが、突然彼は変わってしまった。言葉遣いもおかしくなり、考えていることはとても恐ろしいことばかり」


「具体的には?」


「昔は猫などを見かければ、近づいたりしていたのに、変わりだしてから、彼はごみを見るような目で動物を見るようになり、刃物や血などに興味を持つようになっていました。それだけならまだよかった。彼はついにその手で人を殺め始めたんです。最初は全く気づきませんでした。ですが、彼が最近出かけている時間帯と事件が起きている時間帯が重なっていたので、少し怪しく思って、ある日、彼をつけてみたんです。それは恐ろしかった……彼は人の体から出てくる血や臓物を持ち帰っていたのです!」


 リリはその話を聞いて、手で口を覆う。セノはリリを連れ部屋の外に出て行った。


「すまない。彼女はこういうことに慣れていなくてな……」


「いえ、私もこういう話は一言言ってからするべきでした」


「で、その男――ラドンを捉えてほしいと?」


「これ以上、親友に人殺しをさせてはいけない。最悪生死は問いません」


 そう言って、依頼主は黙り込んだ。






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「あれは、怯えているな」


 日も落ち、ラドンが活動するであろう時間帯になった。
 二手に分かれ、夜の町を散策する。ナトリアとリリ、クリトンとセノのペアだ。
 クリトンは依頼主の表情から思ったことを話す。


「怯えている?」


「あぁ、口では親友を助けたいと言っているが、あれは恐怖を覚えた奴の目だ。多分、見てしまったことから今度は口封じに殺されるんじゃって思っているんだろうぜ」


「まぁ無理もないね。話を聞いてると、今のラドンって奴は何をするかわからないしね」


 二人がそんな話をしながら夜の町を歩いていると、目の前に一人の男が現れた。
 二人は警戒して構える。その男は何も持っていない。依頼がなければ全く相手にしないほどに彼には威圧感がなかった。それがさらに二人の警戒心を呷る。


「油断するなよ……」


「あんた、あたしが何年この仕事してると思ってんの」


 二人とその男の距離が一メートルほどにまで近づいた。
 しかし、彼は二人を通り過ぎて行った。


「なんだよ、一般人か。ったく人騒がせだな。なぁセノ」


 クリトンがセノのいた場所を見つめると、そこには血を流しながら倒れているセノがいた。


「お……おい……」


 クリトンがセノに近づこうとすると、自分の違和感に気付いた。彼の腹部は血がにじんでいた。


「な……いつ……やら、れ……」


 クリトンはそのまま崩れ落ちた―― 





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