天才の天才による天才のための異世界

白兎

第二十五話  危機的状況



 戦場にて金属が激しくぶつかる音が響き渡る。
 その中心には、二人が壮絶な攻防を繰り広げている。一体何人がこの戦いをまともに見えているのだろうか。そう思えるほどに二人の戦闘は速かった。
 使用している武器で見れば、ナトリアが不利だ。マグスが使用しているのは長槍。リーチが長い分、攻撃範囲も広い。だが、間合いを詰めればナトリアが有利になる。しかし、マグスは簡単にはそうさせない。間合いを詰めれたとしても対抗策は持っている。


「一体何が起こってるんですか?」


「いや……何が起こってるか俺にもわからん」


 和也の目には二人の時間だけ飛んでいるように見えている。
 この状況で指示を出せるのはただ一人――オストワルのみ。
 オストワルは二人の戦闘を見て、団員たちに指示を下す。


「全員、絶対に手を出すなー!」


 オストワルの判断は正しい。二人の戦闘に下手に手を出すのは自殺行為だ。まぁ、あの激しい戦闘に割って入るような勇敢な馬鹿はこの場にはいないのだが。


「だが、危機的状況は変わらないな」


 現状、この場はナトリアにかかっている。ナトリアがマグスに負ければ、対抗できるのはオストワルのみ。だが、オストワルにはナトリアほどの戦闘力はない。つまり、ナトリアの勝利のみがこの危機的状況を打開する手段だ。
 ナトリアとマグスの力は均衡している。この場で確実にナトリアが勝利する保証はどこにもない。


「かと言って、これほどの使い手をあのカリファーが見逃すわけがない。それでも、援軍をよこさないのは追い詰められているか、食い止められているかのどっちか。なら、援軍を呼びに行っても無駄か……」


「……ヤさん……カズヤさん!」


「……ん? な、なんだ?」


 深く考え込んでいる和也は、フランの呼びかけで現実に戻る。


「ちょっとヤバイことに……」


 フランはかなり困惑した表情で、ナトリアが戦っている方を見ている。和也もフランの視線の先を見る。そして、その先に広がる光景に目を疑った。


「ナトリアが……押されてる!?」


 ナトリアがマグスに押し負けていた。和也はまともに見ていなかったため、この短時間で何が起こったのか想像もできなかった。
 今のナトリアなら和也でも普通に目で追える。それくらい、ナトリアの動きが遅くなっていた。


「おいフラン! 何がどうなってる! 一体何があった!」


「それが、よくわかりませんが、少しずつですがナトリアさんの動きが鈍くなってるんです」


「奴の能力か? 団長は――」


 オストワルはナトリアの負けを悟ったのか、援護に向かう。確かに、ナトリアが完璧に敗北すればこの場の全員が死ぬ。オストワルがマグスに一対一で挑んでも負けは確実。あくまで、ナトリアの援護だ。
 オストワルの行動は正しいが、和也は援護に入る前に頼みたいことがあった。
 和也は急いでオストワルの元に向かう。


「団長!」


「なんだカズヤ君」


 騎士団内での嫌がらせの件もあり、オストワルは和也のことをよく知っていた。


「団長! 五秒間だけでいいので、奴の気を完全に自分からそらすことはできますか?」


「……わかった! やってみよう」


 オストワルはナトリアの援護に向かい、和也は分析の力を発動するタイミングを計る。


「おらぁああ!!」


 オストワルは強烈な攻撃を仕掛け、マグスは長槍で受け止める。そして、マグスを中心に地面が割れた。


「すげぇ……団長って強かったんだ」


「当たり前じゃないですか。団長ですよ」


 オストワルはマグスとそれなりに渡り合っている。ナトリアは体力の回復を図るため、少し距離を取り、様子を見ている。
 オストワルの戦いはとても力強く、勇ましい。だが、スピード特化のマグスにはやはり分が悪い。


「おらおらどうしたぁあ!! そんなんじゃ俺にはかすりもしないぜ!」


「くそっ!」


 オストワルはマグスの速さに追いついていない。いくら一撃が協力でも、当たらなければ意味がない。もともとの実力差の前に、戦闘スタイルから圧倒的に不利だ。
 だが、今のオストワルの目的はマグスの撃退ではない。


「くらうがいい!!」


「なにっ!?」


 オストワルは勢いよく剣を地面に突き刺す。すると、地面が光だし一気に粉砕した。足場を失くしたマグスは体制を崩す。


「今だ!」


 和也は分析の力を発動。


「なるほど……奴の神通力は特定の範囲内にいる人間の運動量を増加させる。ナトリアの体力切れはこいつが原因だな。」


「どうします?」


「あいつの能力はあくまでも運動量の増加。体力の回復は普段と変わらない。つまり――」 


 オストワルはマグスに手も足も出ないほど疲れ切っている。しかし、ここでナトリアが復活。


「お~なんつう回復力だよ。普通ならまだ立つのがやっとぐらいなんだけど……」


 ナトリアが復活したとしても、マグスの能力を何とかしなければ勝つことはできない。
 ナトリアはマグスに向かう。だが、さっきまでと動きは全然違う。
 それを見た和也は少しばかり勝機を感じた。


「ナトリアさんの動きがさらに早くなってる?」


「あぁ。奴の能力は体力の低下ではなく、運動量の増加。つまり、適応進化のスピードも自然と早くなる」


「マグスの力に適応したんですか?」


「適応というよりはさっきより体力切れの速度は遅くなった。だが、戦闘が長引けば意味がない」


 ナトリアは先ほどの戦いより圧倒的にマグスを追い詰める。しかし、マグスも負けてはいない。
 ナトリアの動きがさっきより、速く、強く、機敏になろうと押し負けることはない。
 ルカリアが衰退し、ドルドにこれほどの使い手が居れば、ルカリアが危機に陥るのも無理はない。マグスの戦いを見ていると、そんなことを考えてしまう。


「オストワルも戦える状況じゃない。ナトリアにはもう少し時間を稼いでほしいが……」


「時間を稼いでどうするんですか?」


「あれほどの強さを持つ奴、カリファーがほっとくわけがない。あっちにも援軍をよこせない理由があるはずだ。それさえ、解決できれば……」


 前線の騎士団を待つしかない。これは、和也にとってかなりの不安要素だ、確実な勝算はない。
 和也はオストワルの元に向かう。


「団長!」


「どうした? やれることはやったつもりだが」


「団員たちに援護射撃を指示してほしい」


「駄目だ。奴にそんなもの通用しない。下手に手を出せば死人が増えるだけだ」


「今は援軍が来るまでの時間稼ぎができればいい。現状で奴に勝っているのは兵力のみ。なら、それを最大限に生かすしかないでしょう」


 オストワルは考えをまとめ、団員に指示を下す。


「弓を構えろー! 一斉に奴に放てー!」


 いきなりの指示で、反応に送れるものもいたが、すぐさま弓を握り、隊列を組んで射撃する。
 数百の矢がマグスを襲う。もちろん、マグスには一切通用しないが、ナトリアの体力を少しでも温存できれば十分だ。
 マグスが団員たちを標的にすれば、ナトリアが戦い、ナトリアに注意が向けば、再び一斉射撃を繰り出す。これを繰り返し援軍が到着するまでの時間を稼いだ。


「やっとか……」


 すると、前線からカリファー率いる第一騎士団の一部が援護に来た。
 いくらマグスでも、ナトリアとカリファーを相手に勝てるわけがない。


「はぁ~ったく、時間切れってか」


 マグスは戦闘態勢を解き、ナトリアを見つめる。


「嬢ちゃん、なかなか楽しかったぜ」


「……次は、殺す」


 マグスはカリファーたちが到着する前に、この場をさろうとする。しかし、何かを思い出したように振り返り、その眼は和也を見ていた。


「早く逃げないといけねぇーんだけど、お前だけは消しとくわ」


 そう言って、マグスは槍を構えた。その金色の槍に視認できるほどにエネルギーのようなものがたぎっている。


「俺の槍、ちょっと特殊でな。空間を捻じ曲げ、物体をランダムに飛ばすことができるんだ、ぜ!!」


 マグスは和也に槍を投擲。ナトリアは和也の元に向かうが、槍の速さにはかなわない。


「これはやばっ――」


 和也は槍に切り裂かれた空間に吸い込まれている。ナトリアは必死に手を伸ばし、和也もナトリアの手を掴もうとする。しかし、あと少しのところで間に合うことはなく、和也は空間の割れ目に完全に吸い込まれていった。


「カズヤぁあああ!!!!」


 静寂に包まれた戦場にナトリアの叫喚の声が響き渡った――





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