天才の天才による天才のための異世界

白兎

第二十一話 デービーの精神



「「「うわぁあああ!」」」


「……はぁあ!」


「なんでこうなった……」


 和也は目の前の光景を見てそう呟いた。
 ナトリアは次々と出てくるカストナーの部下たちを蹴散らしている。
 ここまでの流れを説明すると――


 和也達、カストナー邸に侵入成功。
      ↓
 ナトリアの腹の音により発見される。
      ↓
 ナトリアが容赦なく部下を吹き飛ばし騒ぎを大きくする。
      ↓
    現在に至る。    


「ナトリアさんに隠密活動は無理そうですね……」


 ナトリアは暗殺者だ。だが、そのやり方は突撃の一つしかない。故に、コソコソ隠れながら行動するのは得意ではないのだ。そもそも、そんなやり方で通用するほどにナトリアは強かったため仕方がないのだが、この状況は和也が望むものではない。なぜなら、この騒ぎで出くわしたくない男に会うのだから。


「君は昔から変わらないね~」


 その男――ホルスゲインの登場にその場の全員の緊張感が一気に増す。


「やっぱり来やがった……」


 もちろん和也たちも覚悟は決めていた。だが、もしかしたらという希望は持っていたのだ。その希望は一瞬で崩れたのだが。


「ここは……任せて」


「いや~帰ったら主に怒られてね~『なに、二度も見逃してるんだ!』ってね~」


 二度も――この言葉に和也は引っかかるものがあった。


「だから……もう逃がさない」


 ホルスゲインとナトリアの戦闘が始まった。相変わらず、ナトリアの攻撃は通用せず、ホルスゲインの攻撃は、当たる寸前で停止する。
 この光景は、この二日間で飽きるほど見ている。だが、今までとは少し違う点があった。


「イラついてる?」


 ホルスゲインの表情はいつも通り楽しんでいるように見えるが、その中にイラついているようにも見えた。そのイラつきは、ナトリアに攻撃をするたびに起きている。このことが、和也の予想が確信に変わった。


「やっぱりあいつ、ナトリアに攻撃できないんだ」


 和也の言葉を聞いていたのか、ホルスゲインは攻撃を中断し、和也に目をやる。


「君は~原因を知っているのか?」


「知らないな。だが、そう言ってることはナトリアに攻撃できないのは本当みたいだな」


「僕も意味が分からなくてね~どれだけ本気で攻撃しても当たる寸前にブレーキがかかるんだよ~」


「ほぉ、つまりお前はナトリアに勝つことができないんだな。これはチャンスだ」


「それは違うね~確かに僕はナトリアちゃんに勝つことはできないかもしれないけど、それは、君たちが勝てるということにはならないんだよ~」


 ホルスゲインの言うことは正当だ。ホルスゲインとの実力差ではこちらも倒すことはできない。その上、ホルスゲインには腕を一瞬で治す治癒能力がある。
 こそ差は実力ですぐに埋まるものではない。なら、和也は和也にできることをする。


「なあ、あんた。さっき二度もって言ってたが、ナトリアを逃がしたのはあんたなのか?」


「それがね~全く記憶がないんだよ~ナトリアちゃんを気絶させたところまでは覚えてるんだけどね。気が付いたら外にいたんだよ~いや~不思議だね~」


 ホルスゲインの言っていることが確かなら、ナトリアを逃がしたのはホルスゲインではない。しかし、カストナーのホルスゲインに言ったことを思い返すなら、ナトリアを逃がしたのはホルスゲインになる。つまり――


「ナトリアを逃がしたのはホルスゲインだが、記憶はないということだな。フラン、ニクス、お前たちはカストナーを捕まえといてくれ」


「カズヤさんは?」


「俺は……戦う」


「はい!?」


 和也は剣を取り、戦闘態勢に入る。もちろん和也がホルスゲインに勝てるはずがない。それでも、試せるものは試したいのだ。和也もあれからナトリアに特訓してもらっているため、ある程度は宝剣についていけるようにはなっている。
 和也は右手に剣を、左手に鞘を持った二刀流スタイルで構え、


「ナトリア、全力で俺を守れ!」


 そう叫んだあと、和也はホルスゲインに突撃する。フランと二クスは困惑しながらも、和也の指示に従い、別ルートからカストナーのもとに向かった。
 これまでは剣に振り回される形だったが、今ではそれなりに様になっている。攻撃の手数を増やすため、鞘も攻撃手段として扱っているが、やはり隙が大きい。ホルスゲインもそこを突いてくるが、ナトリアがサポートし、何とかやりあっている。


 和也が戦闘に加わり分かったことがある。一つは、ホルスゲインは和也攻撃はできるようだ。これで、ホルスゲイン本人にも自覚していない現象はナトリアが関わっていることが判明した。
 二つ目は、この戦いはシンプルな二対一ではないということ。和也とナトリアからすると、敵はホルスゲインただ一人。だが、ホルスゲインからしては敵は和也一人に見える。なぜなら、和也の宝剣はナトリアなど眼中に入れていない。つまり、時々ナトリアにも当たりそうになっているのだ。ナトリアはホルスゲインを相手にしてるため宝剣をかわすのは難しい。しかし、その状況になるとホルスゲインは和也の宝剣が無視できないような攻撃を繰り出し、強制的に宝剣を止める。つまり、ホルスゲインはナトリアを守りながら戦っているのだ。このことを踏まえるて、和也にある仮説が生まれた。


「もし、そうなら……」


 和也はゆっくりとナトリアの横に立つ。そして、ナトリアに向かって高速の剣撃を繰り出した。ホルスゲインは瞬間に和也に攻撃を放つ。この時不思議な光景が出来上がった。和也はナトリアに剣を向け、ホルスゲインはその剣を止めながら和也に拳を振るい、ナトリアはホルスゲインの攻撃を受け止める。もはや、はたから見れば、誰と誰が仲間なのか検討もつかない状態だ。この結果は和也の仮説を証明する一つになった。だが、まだ確定までは至らない。しかし、そんな時間はない。和也は距離を取り、考えを口にする。


「もしかしてだが、あんた……デービー・ハンフリーか?」


 この仮説にナトリアは驚愕し、ホルスゲインは困惑している。


「カズヤ……どういうこと?」


 ナトリアが震えた声で答える。


「あくまで仮説だが、ホルスゲインの精神にデービーの精神が混じっているとすれば、今までのことに説明がつく。ナトリアを助けた記憶がない。ナトリアを攻撃することができない。この二つはデービーの精神により引き起こされたことだとすれば……」


 和也の仮説をホルスゲインは邪魔をすることなく耳を傾ける。


「デービーは仇がカストナーだと知り、乗り込んだ。だが、いくら何でも一人では無謀すぎる。デービーは何か作戦があった。それが、魔法科神通力かは知らないが、精神をのっとることができるとすれば一人でも何ら問題はない。身内に成りすましてカストナーを殺すことができるのだから。しかし、精神をのっとったはいいが問題が発生した。それは、ナトリアが関わってしまったことだ。そして、運の悪いことに続けて問題が生じた。それが、ホルスゲインの精神が予想以上に強かったことだ。のっとった体を取り返された。そうして、デービーの精神はホルスゲインの精神の奥底にやられた。それが、表に浮き上がるときはただ一つ、ナトリアのピンチだ。ナトリアがカストナーに殺されそうになった時、力を振り絞って再びホルスゲインの精神をわずかにのっとった。カストナーを殺せるほどは動けなかったが、ナトリアを外に連れ出すくらいは動けたんだろう」


「つまり、僕がナトリアちゃんに攻撃できないのは今もデービーの精神があるからといううことかい?」


「デービーが……そこに……いるの?」


 ナトリアの心が考えに追いついていない。
 ナトリアもホルスゲインに攻撃することはできなくなるかもしれない。しかし、和也はそのリスクを負ってでも伝えなくてはならなかった。これがホルスゲインに対抗する唯一の手段だからだ。最強の治癒能力を持ち、もともとの戦闘力も強い。だが、味方になればこれほど心強いものはない。つまり、ホルスゲインを突破する方法。それは、デービーの精神を取り戻すことだ。なら、やることはただ一つ―― 


「デービーさん。そこにいるなら出て来いよ。ナトリアが会いたがってるぜ」


「デービー……いるなら……返事して!」


 和也たちの呼びかけに、ホルスゲインはわずかに反応する。和也たちの言葉は少しだが届いている。だが、ホルスゲインもわざわざ待ってはくれず、和也に襲い掛かる。だが、ナトリアはそれを阻止する。ホルスゲインがナトリアに攻撃するたび、デービーの精神が浮かび上がる。それは、回数を増やすたび、強く、長く浮かび上がっていた。
 デービーの精神が強くなるにつれ、ホルスゲインの余裕は完全に消えていった。





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