天才の天才による天才のための異世界

白兎

第二十話  ホルスゲインの謎



 和也は何が起こったのか、理解が追い付いていなかった。確かにさっきホルスゲインの拳が迫っていた。だが、振り返った時には存在していなかった。


「何が……」


「くっ……やるねぇ~」


 よく見ると、ホルスゲインの右腕がなくなっていた。そして、さっきまで離れた場所にいたはずのナトリアが和也の目の前にいた。足元には腕が転がっている。


「た、助かったサンキューナトリア」


「……問題ない」


「痛いね〜腕がなくなっちゃったよ〜」
 

 ホルスゲインは片腕が無くなったというのに、随分と余裕だ。
 ホルスゲインは無くなった腕から、血が大量に出ていた。が、すぐに止まった。
 よく見ると、無くなったはずの腕が再生していた。


「おいおいマジかよ……」


「僕はね~腕くらいならいくらでも生えてくるんだよ~」


「気持ちわる!」


「傷つくね~これでもガラスのハートなんだよ~」


 ホルスゲインはふざけた態度を止めない。そこに妙な恐怖感を感じていた。


「ナトリア、あいつの動きを五秒間だけ止めることはできるか?」


「……やってみる」


 ナトリアはホルスゲインに攻撃を仕掛ける。先ほどの攻防でナトリアの身体能力はさらに上がった。だが、それでもホルスゲインには追いつかない。
 和也は分析の力を試みるも、見事に回避される。まるで、


「あいつ、俺の力を知っているのか?」


 だが、この力は誰にも話していない。つまり、そう思えるほどに、ホルスゲインの立ち回りは凄かった。


「……じっと……して!」


「それはできないね~」


「カズヤさんどうするんです!? このままだと……」


「俺もこの戦いにどう混じっていいか検討もつかん」


「二クスですらそんな状態か……」


 和也は作戦を変更した。ホルスゲインを倒すことは現時点では不可能だ。それなら、少しでも情報が欲しいと考えた。


「フラン、二クス、この戦いをしっかり観察しろ。気付いたことがあれば教えてくれ!」


 和也は引き続き分析を試みる。フランと、二クスはホルスゲインの戦いをしっかりと見ていた。


「気付いたことって言われましても、あの人さっきから遊んでいるようにしか見えないんですけど……」


 ナトリアとホルスゲインの戦いは、さっきから何も変わっていない。ナトリアがどれだけ殺気立った攻撃を仕掛けても、ホルスゲインは難なく受け流し、攻撃を繰り出す。もちろん寸前で止めている。


「そういえば、奴の攻撃なんだが……」


「二クス、なんかわかったのか?」


「いや、奴の攻撃、寸止めしてはいるが、殺気はしっかりとこもっている」


「殺す気で攻撃してるってことか?」


「わからん。少なくとも構えたときはそのつもりだと思う」


 ――確かに……よく見るとホルスゲインの攻撃は当たろうとする寸前で急激に勢いを失くしている。まるで、攻撃しないのではなく、できないように。


「ホルスゲイン!!」


 和也が唐突に叫んだ。ナトリアとホルスゲインは動きを止める。
 今なら分析の力もと考えたが、警戒しているホルスゲインには無駄そうだ。
 和也はこのままではマズいと考え、ある提案を持ち掛けた。


「なあ、あんたにその気がないなら、ここはお互いに引かないか?」


「カズヤ……何を……言ってるの?」


「ナトリアちゃんの言う通りだよ~何を言ってるのかな~」


「あんた、さっきからナトリアに危害を加える気はないんだろ?俺たちの狙いはあくまでもカストナーなんで、なるべく無駄な戦いは避けたいんだ」


「カズヤさん、さすがに無理ですよ。そう簡単に逃がしてくれるわけ……」


「いいよ~」


「いいんですか!?」


「僕も気になることがあってね~手を引いてくれるなら本望だよ~」


「残念だけど……逃がすことはできない」


 ナトリアが剣を構えた。和也はナトリアに一言、


「やめろ」


 ナトリアの動きが止まる。誓約のせいで和也に反抗できないのだ。
 和也はホルスゲインに聞こえないようにフランに話しかける。


「フラン……ちょっと頼みたいことがある」


「なんです?」


 ホルスゲインは歩きながらその場を去った。






 ********************






 日が落ち月が出ている頃、和也たちは作戦会議をしていた。
 火を囲うように、和也、二クス、ナトリアは座っている。


「……さっきからなんだナトリア?」


 ナトリアは倒したドラゴンの肉を頬張りながら、和也を睨んでいる。


「なんで……逃がしたの?」


 ナトリアにとって、ホルスゲインも立派な復讐対象だ。そのチャンスを失くしたんのだから怒っているのも無理はない。


「ホルスゲインはかなり余裕だった。いくらナトリアでも適応進化で強化されるにも一度には限界がある。ホルスゲイン並みに強くなる前に、ナトリアの体力が尽きる。それは困るからな」


「だからって……逃がしては……元も子もない」


「安心しろ。ホルスゲインはフランが追ってる」


「カズヤ、いくらなんでもフランが危険ではないか?」


「大丈夫。おそらくホルスゲインはフランに気付く。だけど、特に何もせず案内すると思うぜ」


「なんで……そう思うの?」


「何も出来ない俺たちには攻撃しないあたり、ホルスゲインの狙いはナトリアだ。だが、何故かあいつはナトリアに攻撃できない。だから、俺の提案に乗ってくれた。あいつにも考える時間が欲しいだろうからな。そして、カストナーの居場所が分かれば確実に俺たちは向かう。あいつにとってはわざわざ会いに行く手間が省けるんだ」


「そのことなんだが、なんでナトリアに攻撃できないんだ?」


「それはわからない。だが、何かあるはずだ。ナトリア、あいつとやりあって何か気づいたことはあるか?」


「わからない……でも……ホルスゲインは……私に攻撃しないのは……本当」


「唯一の情報はこれだけだな。あいつの能力もわからないままだし、フランの帰りを待つしかないな」


 和也たちはとりあえず体を休めた。






「いい加減にしてくんない!?」


 次の日、和也は朝から大声を上げている。


「なんで、毎回関節技で起こされなくちゃいけないんだ!」


「そんなこと……言われても」


 ナトリアが和也の家に転がり込んでから、和也の朝はナトリアの関節技で始まる。これは、外でも変わらない。


「なんか……カズヤも大変だな」


 和也の日課に二クスは同情の目を向ける。
 そんなことをしていると、フランが戻ってきた。


「みなさーん、カストナーの居場所が分かりましたよー」


 一晩で戻ってきたあたり、そう遠くではなさそうだ。


「カストナーはここから東に十キロ程にある屋敷にいました。ホルスゲインもそこにいます」


「さてと、んじゃ、飯食ったら行くか。フランも食うか?ドラゴンの肉」


「そんなものどこにあるんです?」


「どこって、そこに……」


 そこには一切肉のついてない骨が転がっていた。誰が犯人かは明白だ。
 和也はその人物に目をやった。


「ナトリアさん?」


「……ごめん……夜中にお腹が空いて……つい」


 ドラゴンの肉はそうそう味わえるものではない。ナトリアの食への欲望はかなりのものだった。






 ********************






「ここか……」


 和也たちはフランの案内の元、カストナーの屋敷に辿り着いた。
 それほど厳重な警備ではない。おそらく、ホルスゲインに多大な信頼を寄せているからだろう。


「中に入るのは簡単です。問題はそのあとですよ」


 フランの忠告は言われるまでもない。和也たちはホルスゲインに勝てる手段を持っていないのだから。


「最悪、ホルスゲインは後回しだ。カストナーだけ始末して逃げる。逃げるが勝ちだ」


「カズヤさん卑怯さに拍車がかかりましたね」


「まあ、ホルスゲインはナトリアが数回戦えば何とかなる。つまり、今は後回しだ。ナトリアが目的な以上ホルスゲインは居場所が分かりやすい。だが、カストナーは一度逃がせば、また探さないといけない。このチャンスは絶対に逃すことができない」


「わかった……今回は……我慢する」


「んじゃ、まとまったところで中に入りますか。もちろん、見つからないように心がけろよ。作戦名はチキンプレイだ」


「なんか嫌な作戦名ですね」


 四人は話し合いを終え、カストナーの屋敷に侵入した――





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