天才の天才による天才のための異世界

白兎

第十二話  恐怖の隠蔽



 ルカリアから東南に数キロ――まだルカリア領土内だがもうすぐ兵站に到着しようとしていた。
 道の両端には森が茂っている。
 物資を積んだ馬車が何台も並び、和也とフランは列の中央付近を歩いていた。


「いや~戦わなくて済む任務でよかったですね。騎士団に入ったから常に戦闘かと思ったましたけど」


 フランは気楽に頭の後ろで手を組み歩いている。
 和也もそんなフランを見て、少し落ち着いていた。


「確かに戦闘になったらキツイからな。配属先がここでよかったよ」


「カズヤさんの場合、セシア姫がいるんであんまり危険なところには配属されないと思いますけど」


 物資の運搬――兵站に物資を届けるのが任務。戦闘に参加することなく、届け次第撤退する。その任務内容に騎士たちはそれほど緊張していなかった。団長のオストワルは先頭で先導しているが、近くの団員と会話を交わして、それなりに楽しそうだ。


「団長もあんな感じだし、今回はそこまで気負うもんでのなさそうだしな」


「うちは直接戦闘に参加できるほどの人数が居ないなので、襲われたら終わりですしね」


「怖ぇこと言うなよ」


 和也たちの少し前を二クスとエレクが歩いていた。二クスは誰とも話すことなく前を向いて足を進めている。どこか真面目な部分がありそうだ。違って、エレクは他の団員たちと話している。団員たちの受けがいいところを見ると、ムードメーカー的な立ち位置になりそうだ。


「こうしてみるとホントに遠足だな」


「前線で激しい戦闘が行われているとは思えませんね。団長の性格もありますけど」


「確かに、硬い感じの奴が団長だったら団員達もやりずらいだろしな」


 ――ま、普通軍隊なら硬い感じじゃなきゃおかしいんだが……


 そんな話をしていると、和也は何かを思い出したようにフランに尋ねた。


「そういえば、ルカリアの現状ってどうなってんの?敗戦が続いているぐらいしか知らないんだけど」


「図書館にそれ関係の本は置いてなかったんですか?」


「置いてはあったけど、何分古くてな。新しくても七年前ぐらいまでしかないんだよ」


「そうなんですね……ちょうどそのころから負けが続いてますかそれもあるかもしれませんが」


「なんで負けが続いてんだ? 記録によるとそれ以前は今のドルド領土の半分くらいはルカリアのものだったのに」


「理由は二つほどあります。一つは前国王の衰退です。もともと前国王の仕事量は凄く、政治や経済、軍事までも前国王を中心に回し、隣国だけでなく遠方の国からも注目されてました。そんな前国王が体調を崩してから状況が一変し、今や大陸で最小の勢力だったドルドに領土を奪われ、今やルカリア、ドルド、キスガスで小競り合いを繰り広げてるってわけです」


「なるほど……で、二つ目は?」


「ルカリア勢力の縮小です。ルカリアには当時、他国から恐れられていた三人の騎士がいたんです。一人はあなたも知ってる第一騎士団団長のカリファーさん」


「へ~やっぱすごいんだあいつ」


「とてもすごい人ですよ。剣の腕も他二人にも引けを取らないですがですが、弓の腕は大陸でもトップクラスで、たとえ敵が森林に隠れようとも的確に的中させ、カリファーさんのから放たれる矢が黒色をしていることから、ついたあだ名が“黒き流星”」


 ――だ、ダセェ……


「そして現在第二騎士団のオルト団長」


 ――第二騎士団団長ということからして、おそらく大通りでカリファーの横を歩いていた男だな


「オルト団長はもともと貧しい家のかただったんですけど、とてつもない努力で剣術のスキルを叩きあげて騎士団に入団し、いくつもの戦場を経験し、団長まで上り詰め、他国から“奮励の騎士”と呼ばれるようになった方です。カリファーさんが天才タイプならオルト団長は秀才タイプですね。」


「全然他国に引けを取ってない気がするけど……」


「はい。確かに今、ドルドやキスガスと渡り合えてるのはこの二人の団長が居るからです」


「じゃあ、問題はもう一人の騎士だな」


「そうなんです。もう一人は第七騎士団団長のリリシアさんです」


 フランは曇った表情で話し出す。


「第七騎士団は、貴族の護衛、監視、取り締まりといった国内の問題を主に取り扱っていました」


 ――警察みたいなものか……


「民衆と接する機会も多く、評判も良かったんです。オストワル団長ともそういう面で気が合いとても仲が良かったとか……」


「でも、今の第七騎士団の団長って違う人だよな?取り扱っている内容からして戦死の可能性は低そうだけど……」


「確かに、戦死ではないですよ。リリシアさんは失踪したんです」


「失踪?」


「はい。ちょうど前国王の体調が悪くなりだした頃です。リリシアさんは前国王の護衛が主な任務になりました。そんなとき、各地で民衆の行方不明者が続出する事件が起きたそうです。リリシアさんと仲が良かった人たちもその中にいたとか。そこで、前国王の護衛を最も仲が良かったオストワル団長に任せてその事件の調査に行ってしまい……それっきり、戻ってきていません。事件も未解決のままです」


「でも、国内のことばかりやっていた人がなんで他国から恐れられるようになったんだ?」


「リリシアさんはそれなりに強く、何度か戦争に出たことがあるんです。リリシアさんの凄いところは一人も殺めなかったところです」


「一人も殺してない?」


「はい。怪我をしている民衆は敵味方関係なく助け、攻撃の意志の無いものは見逃し、襲ってきた者は無力化する。そんな彼の実力派計り知れず、他国の民衆までも受け入れられていたことから、カリファーさんやオルト団長とは違った形で警戒されました。“不殺の帝王”と、他の国王からは恐れられ、民衆からは他国の方までも尊敬されてました」


 ――敵兵士も助けたなら、敵軍の中にも恩を感じている奴もいるかもしれない。そりゃ、敵国王も恐れるわな。それに、難民を前国王時代から受け入れられていたのなら、リリシアが仲介人になって、ルカリア国民と難民のバランスをうまく取っていたのだろう


「前国王とリリシアさんが、居なくなりルカリアは内外から衰退――たった二人が、どれほど影響力があったのか、誰もがその実力を認めていたんです」


「歴史書に書いてなかった七年間で、かなり勢力図が変わったんだな。セシア姫が苦悩するのもわかるわ……」






 第三騎士団は、着実に兵站に近づいていく。もちろん、緊急事態などは一切なく、団員たちも少なからずあった緊張感はどこかに消えていた。
 ただ物を届けるだけ――ここにいる誰もがそう思っていた。だが、オストワルの近くに一本の矢が放たれ、空気は一変する。


「敵襲!! 戦闘準備!!!!」


 オストワルの掛け声は後方にまで伝わり、一斉に抜剣する。それぞれが周囲を警戒し、あたりは静寂とともにとてつもない緊張感が出ていた。
 そして――


「突撃!!」


 どこからか放たれた合図に、両端の森から一斉に赤い鎧を身にまとった兵が出てきた。ドルド兵だ。左右の森林から突撃され、見事に挟み撃ちされている。


「迎え撃てぇぇ!!」


 オストワルの掛け声に反応し、第三騎士団は、ドルド兵と対峙する。
 先ほどまで和やかだったその場所が一瞬で戦場に変わった。
 和也も剣を握ってはいるものの、抜くことができなかった。
 手は震え、足は固まっている。ミノタウロスと遭遇した時より強い恐怖を感じていた。和也はどうにかなってしまいそうだった。
 元の世界ではそういったゲームやドラマも見ていて、グロいものにそれほど体制がないわけではない。だが、そんなものとは比べ物にならない現実の戦争の恐怖
 目に見えるのは、飛び散る血しぶきと数分前まで生きていたと思えない多くの死体。
 耳にするのは、狂気に満ちた雄たけびと恐怖に満ちた悲鳴。
 鼻につくのは、土煙の香りと、血の臭い。
 肌で感じるのは、戦場の音による空気の振動と恐怖と緊張からなる汗。
 口の中はほのかに乾いているが、そんなこと気にしてはいられない。
 和也は全身で戦争というものを体感した。


「うっ、うぉぇっゲホッボォェ」


 和也は思わず蹲ってその場で嘔吐する。


 ――なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ!


 そんな和也のもとに誰か来た。ゆっくりと振り返ると赤い鎧の兵士が、剣を構えている。


 ――や、やばい! は、早く逃げないと、こ、殺される!


 体が言うことを聞かず、助けることも逃げることもできない。
 ドルド兵が和也を切りつけようとした途端、そのドルド兵は和也の横に倒れる。
 ドルド兵の背中には切りつけられた跡がある。そして、目線をドルド兵が立っていた方向に戻すと、そこには血が付いた剣を握っているフランが居た。


「カズヤさんそんなとこで何やってるんですか!! 僕も自分の身を守るだけで精一杯なんです!! 怯えてる暇があったら覚悟を決めて戦ってください!!」


 そう言って、フランは向かってくる敵を切っていく。殺し合いなど経験したことがないのだろう。フラン自身も震えていた。だが、それでも彼は勇気を振り絞り、生きるため全力で戦っている。
 そんなフランを見て和也は思った。


 ――俺は……最初に会ったのがリリやフランでホントに良かったよ


 和也は今まで疑問に思っていてことがある。


 なぜ、クラネデアの宝剣を取りに行ったのか?
 なぜ、誓約の儀を簡単に承諾したのか?
 なぜ、セシア姫の頼みを無償で受けたのか?


 答えは簡単だ。和也は怖かったのだ。未知の世界にいきなり飛ばされ、和也は無自覚に心の奥底で恐怖を隠し持っていた。それを、味方を作ることで無理やりにでも消そうとしていた。
 クラネデアの宝剣を取りに行ったのも、リリの信頼を得ることで、孤独感を消そうとしていたから―― 
 誓約の儀を無警戒でしたのも、フランを信じることで、どこか安心していたから――
 セシア姫の頼みも、この世界での目的を見つけることで、不安を取り除こうとしたから――


 その判断は軽率だった。今までは運がよかった。
 だが、これからはそうはいかない。ここでは、誰を信じ、誰を疑うかで、生死が決まる。一回の判断ミスが運命を大きく変える。
 和也は、恐怖を受け入れた。
 震える手で剣を抜き、震える足で立ち上がり、震えた声を腹の底から叩き出す。


「うぁぁぁぁ!!!!!」


 ――バシュッ!!


 和也は、初めて人を殺した――


 

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コメント

  • ふらふぃ

    和也たちの少し前を二クスとエレクが歩いていた。二クスは誰とも話すことなく前を向いて足を進めている。どこか真面目な部分がありそうだ。違って、二クスは他の団員たちと話している。団員たちの受けがいいところを見ると、ムードメーカー的な立ち位置になりそうだ。

    ニクスが2人います

    1
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