天才の天才による天才のための異世界

白兎

第十話  不合理な選択



 セシアの身を犠牲にした見返りにさすがの和也も困惑し、話を変えようとする。


「ま、まあ、見返りの話は置いとくとして、結局のところ自分はどうしたらいいんですか?」


「あなたには我が軍に入って第三騎士団を指揮してもらおうと思います」


「ですが、そんなことをして大丈夫ですか?」


「と、いいますと?」


「まず一つ、自分は大した実績は無いこと。そんな奴がいきなり上に立つとなって果たしてついてきてもらえるかどうかです。ましてや自分はまだ子供の範疇です。その第三騎士団とやらに長くいる人は面白くないでしょう。次に、自分は難民です。戦争中の他国の人間にそんな役職を与えてしまっては、市民の反感を買うのでは? 一部の市民の難民に対する態度を知らないわけではないでしょう」


 セシアは和也の指摘に自分の考えを話す。


「もちろん、そんなことは存じています。あなたに実績は無いこと。市民と難民の間に溝があることも。
 ですが、あなたにはその溝を取り払ってほしいのです。あなたが活躍すれば市民の考えも変わるはずです」


「それは賭けです。仮に自分が何か功績を上げたとして、その評価はこの国にいる難民全員の評価につながるのでしょうか。それに、問題は功績を上げるまでです。ただでさえこの問題は深刻なのに火に油を注いでは意味がありません。内部崩壊こそ国を滅ぼしますよ」


「それは……」


 セシアは返す言葉もなかった。おそらく自分の神通力に自信があり、具体的な考えを用意してなかった。


「セシア姫の能力を信用してないわけではありません。あなたがそう視えたのならそういう未来になるのでしょう。その時は」


「その時は?」


「未来は変わるということです。あなたが能力を発動したとき、セシア姫とは関わりがなかった。そのうえでその未来が視えた。もし今関わりをもったせいで未来が分岐した場合、それは良い未来になるとは限りません。何なら今確かめてみてはどうですか?」 


「それはできません。わたくしはまだまだ未熟ですので、視えるといっても断片的、それも自分の意志に関係なく発動します。なので今視るというのはちょっと……」


 やはり神通力というのは鍛錬が必要なようだ。


 セシアは自分の未熟さを悔やむ。王位を継ぎ、少しでも良い国にしようと努力してきた。
 しかし、セシアの行動は常に空回りする。それでも、今までやってこれたのは支えがあったからだ。部下もセシアが間違ったことをしても、精一杯補佐してきた。だが、間違いをしっかりと正そうとしなかった。セシアの王位継承の経緯を知っているから、本人は努力家だったから。仕方がない、可哀想と甘やかしてきた。
 だが、和也はそんなこと知らない。同情など一切せず反対意見をぶつける。
 セシアは下を向いた。体を震わせ、目には涙を浮かべている。


「やはり……わたくしではこの国を……ルカリアを救うことはできないのでしょうか。これだけ民を思っても、頑張っても、これがわたくしの限界なのでしょうか」


 セシアの本心。それは、今まで感じていたが認めたくないものだった。上に立つものとして弱いところは見せられないと、五年間、自分自身を欺き続けた。その細身の体に、一体どれだけのものを背負って来たのだろうか。
 和也は今初めてセシアの人柄を理解した。努力家で、周りに支えられ、自分以外の人を思える優しい心の持ち主――和也にとっては憧れに近いものを感じた。故にほっとかなかった。


「なら、団長ではなく、いち兵士って事でどうですか?」


「ですが、それではあなたが他のものに酷い扱いを受けてしまいます。騎士団団長の称号はあなたを守るためなのです」


「セシア姫、誰かを救うには誰かが犠牲になります。今回は一人の犠牲で、国が救えるならこれほど良いことはない。気が変わらないうちに納得してくれませんか?」


 セシアは涙をぬぐい、和也の返答に答える。


「わかりました。こちらも精一杯補佐させていただきます」




「んじゃ、手始めにフランが払った家代、そっちで払っといて」


「あんた……ちゃっかりしてるわね」


 こうして和也は兵士となった――






 ********************






「本当に良かったの?」


「何が?」


 セシア姫との密会の帰り、リリは和也を気にかける。


「兵士になったってことは戦争に行くのよ?それにカズヤの身分じゃまともに馴染めるかどうかも危ういし、それに……」


 リリは自分のことのように暗い顔をして、自分の感じたことを口にする。


「さっきのカズヤ、合理的じゃなかった……」


「……確かにそうだな」


 普段の和也なら絶対に断る場面だった。
 誓約のお陰で断ることができなくとも自らの保身だけは第一に考える。それが、杯戸、和也という人間だ。だが、そんな男が自分よりも他を優先させた。
 その理由は本人ですら理解できていない。


「これから大丈夫?」


 リリは不安げな顔を向ける。和也はそれに笑顔で答えた。


「心配すんな。悪運だけは良いから何とかなるさ」


 なにか考えがあるわけではない。ただ、ここで暗い表情を浮かべてはならないと和也は思った。
 心の中は不安や恐怖といった感情が渦巻いている。だが、それを表に出すとリリに今以上の心配をかけることになる。自分の選んだ道にわざわざリリを巻き込む必要はない。


「んじゃ、俺はこっちだから」


「う、うん、じゃあまた。なんかあったら連絡しなさいよ」


「そん時はよろしく頼むよ」


 そう言って二人は別れた。




 自宅に戻った和也はベッドに寝転がり、今後について考えていた。


「まず、騎士団にいる見方はフランのみ。姫も手助けしてくれると言ってくれたものの、それほど大きな支援はできないだろう。手元には宝剣とよくわからない力……」


 和也は何かを思い出したように起き上がる。


「そうだよ……今まで忘れてたけど、この力、ある程度把握していかないといけないよな。今は自分の武器は一つでも多い方が良い」


 そう言って和也は、いろいろなものを机に並べ、それらを凝視した。慣れたのか痛みは無く、思ったよりも簡単に使えた。そして、能力に関する情報を集めていった。時には街に出て、状況をかえ、三日間、能力の調査にかかりっきりだった。


「これは分析の力といったところか」


 和也は三日間集めた情報を整理する。


 効果発動までの時間は約五秒。
 視線を逸らしたり、瞬きをすれば能力は発動されない。
 対象は物に限らず、生物にも有効。
 書物は内容も把握でき、文字の違いも分析し翻訳することができる。
 武器などは、素材、歴史、特性だけでなく使い方も理解できる


「……こんなところか。割と便利だけどどうせなら戦闘系の能力が欲しかった」


 人生はそう上手くいかないものだなと和也は納得した。
 入団の日が明日まで迫って来ている。和也は早めに眠りにつこうとするが、なかなか寝付けない。遠足前の小学生の気分だ。






 ――王国騎士団兵舎前


 和也は眠たそうにして歩いている。目にはクマができ、あくびが絶えない。国から支給された青色の騎士服を身にまとい、左腰に宝剣を携えている。
 他にも入団者はいるようで、割と多くの人が集まっていた。そこには知った顔があった。


「あっ! カズヤさんお久しぶりです」


「久しぶりフラン。なんか雰囲気変わったな」


「そりゃ前と違って騎士の格好をしているので雰囲気も変わりますよ。なんにせよこれからよろしくお願いします」


「あぁよろしく」


 フランの騎士姿も様になっている。前まで情報屋という胡散臭いことをしてたとは思えないくらいだ。
 あまりを見渡すと、知った顔なのは、フランだけではないことに気がついた。


「あいつら」


 そこには二人組がいた。見た目の風格のお陰でとても目立っている。その二人も、和也の存在に気がついたようだ。一人は短い赤髪を揺らしながら、もう一人はで自分の緑の髪を弄りながらに近づいてくる。


 和也は早く帰りたいと心から思った。





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