天才の天才による天才のための異世界

白兎

第七話  和也、家を買う



 ――一件目


「ここなんてどうです? あまり広くないですが、近くに商業街がありますし、風呂とトイレも完備してます。何より安い。なんと三十万ホルム!!」


 ――ホルムはこの世界での単価だ。一ホルム一円と考えていいだろう


「へ~いいじゃん。ん? この扉はなんだ?」


 和也は何やら他とは違う扉を見つけた。他は付け替えられた新しい扉だが、この扉だけはかなり古くなっている。和也は興味本位で、ドアノブに手をかけ、勢いよく開ける。


「……」


 そこはいたって普通の物置だった。ただ一点を除いては――


 ――なんということでしょう。一見年季の入ったこの扉。中を覗くと真っ白な壁に赤色で装飾されているではないですか。そして中でも一際視線がいくのは、同じ赤色でも一際目立ち、大きく、力強くこう書かれています


      全員死んでし――バタン!!


 開くときとは比べ物にならい位の勢いで扉を閉じ、和也はフランを見る。
 フランはもじもじとしながら今の光景を説明する。


「実は……前の住人がここで無残な最期を遂げまして……その分値段が安くなってるんですよ」


「却下! 次!」






 ――二件目


「ここはどうです?」


「さっきより広めですし、商業街は少し歩きますが、落ち着いていて静かですよ」


「俺的にもこっちの方がいいな」


 静かな環境、落ち着いた場所というのは和也にとって心地の良い場所だった。
 その場所は自然に囲まれ、近くには川がある。澄んだ空気、丁度良い日当たりと昼寝には最適な環境だった。
 ここは和也も気に入った。いや、気に入りかけたという方が正しい。
 中に入ろうとするとそこには先客がいた。
 そいつは鋭い牙と爪、全身は毛に覆われ、魚を食してこちらを見つめる。


「おいフラン。こいつはなんだ? 十七文字で説明しろ」


「この区画、熊が出るとの、噂です」


「お見事。却下だな」


「グァァァァア!!!!」


「に、逃げましょう!」


「次!!!!」






 ――三件目


「ここなら良いでしょう。近くにほとんどのものが揃っていますし。少しお高いですが……」


 三件目にきたのはアパートみたいな建物でその二階の端の部屋がそうだ。基本的には借りる形になるのだが値段によれば買うことも可能だ。
 一部屋は一人で住むには大きく、窓からの景色は中々良い。風呂、トイレ共に部屋にあるので、共有しなくて良い。


「ここでもいいな。もう少し静かな方がいいが、よくよく考えたら買い物に少し歩くのもしんどいし……ここにしよっかな」


 和也は満足そうな顔で、部屋を見渡す。すると、なにやら隣から物音がする。壁に何かがぶつかる音、ものが壊れる音、そして――


「あの……さっきから隣がすごく騒がしいんだけど……うめき声も聞こえる!?」


「実はここ、住人同士の仲がすごく悪くて、喧嘩は日常茶飯事なんですよ。たまに壁が壊れて入ってくることも――」


「うわぁああ!!」


「「うひゃー!?」」


 突然部屋に人が飛んできた。その人はあざだらけで口も切っている。飛んできた方向を見るとさっきまであった壁がなくなっており、その向こうには、拳は血だらけでボロボロになっている人がいた。


「い……ってぇなコノヤロー!!!!」


「こいやオラー!!!!」


 その二人はその場でまた殴り合う。綺麗にまとめられた部屋が嘘みたいにボロボロになっていく。


「うわっ! 危ねぇ! ちょっと二人ともストップストーップ」


「「うるせぇー!!!!」」


「ぶぅらしゃぁ!?」


「か、カズヤさん!?」


 止めに入る和也を二人は容赦無く撃退。和也は部屋の外まで吹っ飛び、フランは和也の元に駆け寄る。


「きゃ……っか……つぎ……グフっ」


「カズヤさーん!!!!」






 ――四件目


「次は良いですよ!」


「お前のその言葉信用出来なくなってきた」


 和也は殴られた頰を撫でながら疑いの目をフランに向ける。


「そんなこと言わないでくださいよ。今度は大丈夫です。あ、着きました。こちらです」


 次の建物は三階建の建物で、一階はなにやら店が開かれている。


「ここの二階になります。下は店でちょっとお腹が空いたらすぐ食べに来られますよ。ここ結構美味しんですから」


「へ~それは良いな。あんまり料理しないし、近くに飲食店があるのはポイント高い」


 二人は中に入る。一階は人で賑わい、良い匂いが漂っている。テーブルの上には見るだけでよだれが出そうなくらい美味しそうな料理が並べられていた。
 二階に行くと、一つのドアがありフランはドアを開け中に誘導する。


「さぁさぁ中にどうぞ」


「へ~これは中々」


 今回は期待できそうだ。中は三件目と同じくらい広く、窓の外には多くの人が行き交い、日当たりも上々、基本的に家具も揃っている。今までで一番の部屋だ。


「ここなら自殺現場も熊も他の住民も無いし、ゆっくりできそうだ」


 そんなことを言っていると、中に誰か入ってきた。髭を生やしたおっさんが瓶を片手に顔は赤く、フラフラしている。


「んお? なんだそこのお二人さん、ヒックあれ? ヒッここはどこだヒック」


「フラン、説明求む」


「この部屋ドアに鍵がないんで、たまに酔っ払いが間違えて入ってくるんです」


「頻度は?」


「……週七」


「毎日じゃねぇか!!」






 ********************






 二人は広場のベンチで休んでいた。


「この国には安息の地はねぇのか」


「次で最後なんですけど……」


「ん? なんだ?」


「いや実は、次は一戸建てなんですけど、ちょっと問題がありまして……」


「問題?」


 フランはなにやら言いづらそうにしている。


「部屋自体は今までで一番良いんです。安い、広い、環境は良い、外見はきれい、近くには大通りがあって買い物もすぐできる」


「なんだよ、そんな良いとこあるなら最初に言えよ」


「ただ……そこに住んだ人は不自然な死を遂げるんです」


 不穏な空気を漂わしながらフランは続ける。


「皆さん、突然発狂したり、叫び声をあげたりして気づいた時には息をしてなかったんです」


「なんだそれ? 呪いかなんかか?」


「原因はまだ解明されてません。とりあえず行ってみますか」


「え? いや俺はいい……ってちょ、聞いてます? 手を放せ! 俺は行かねえぞそんな物騒なとこ!」


 フランは和也の手をつかみ、強引に連れていく。和也の力が弱いのもあるが、凄い怪力だ。






 ――と、いうわけで五件目


 その問題の家は見た目はきれいだ。外はしっかりと塗装され見た目は抜群に他を凌駕していた。


「見た目は貴族の屋敷みたいなのにな」


「なんでも造りは有名な建築家が建てて、他と違ってしっかり塗装を施されている、建てられたときは大変有名になりました」


「まあそうだろうな」


 中に入ってみると、三人で住んでも問題無いくらい広い。設備も一通りそろっている。


「なんかいい香りだな」


「あーあれのせいです」


 フランが指さした先には魔石が置いてあった。


「実はこの家独特な匂いがありまして、一応芳香結晶を置いてるらしいです」


 芳香結晶は無属性魔石の一つで、和也の世界の芳香剤だ。ただし効果は芳香結晶の方が良い。
 和也は一回り見て回るが、まったくおかしなところが無い。変な噂さえなければ一億ホルムでもおかしくないくらいだ。
 和也は気が変わり、謎の死因について調べることにした。問題がなければ噂をネタに安く買い取ることができる。調べても損はない。


「とはいえ、どうするかな?」


 ――もし本当に呪いとかだったら証明のしようがない。実際ならそんなはずないと言いたいとこだが、この世界は魔法や能力が存在している。呪術ぐらいあっても不思議じゃない。


「なぁ、その建築家って今も生きてんの?」


「いえ。十五年前に亡くなられてます」


「じゃあ、なんか酷い死に方をしたとか、この家を建てさせた奴がいて恨みを持っていたとか」


「いや、その人は病気で亡くなられましたが、最後に王城の改修に携われて未練はないと引退しましたし、この家も本人が自分で住むために建てたので」


「自分で住むためって住まなかったのか?」


「いえ、引退後はこちらで暮らしていたそうなんですけど、体調が悪くなってほとんど診療所の生活でしたね。未練があるとするならその家に長く住めなかったことですかね」


「へぇ~」


 和也は手に顎を乗せ考え込む。フランも邪魔をしては悪いとその様子をじっと見守る。
 そして和也は建築家以外に焦点を合わせることにした。


「なぁ、呪いとか呪術ってどうやって使うの?」


 その言葉を聞いた瞬間フランの表情が曇った。



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