天才の天才による天才のための異世界

白兎

第四話  クラネデアの宝剣



 一冊の本を手に取ると和也の脳に衝撃が走った。


「うっ、くあぁぁぁぁぁ!!!!」


「ちょっとカズヤ!? どうしたの!? 大丈夫!?」


 ――やばい! なんだこれ? 脳に何かが流れ込んでくる! これは――情報か? 分かる。この本の内容、材質、歴史――いろんな情報が脳に入ってくる! 


 頭を抱えて苦しそうにしている和也を見て、リリはかなり取り乱している。
 すると、和也はふと我に返った。息が荒れており、額から汗が流れている。


「はぁはぁ」


「だ、大丈夫?」


「ん? あ、ああ、だ、大丈夫だ。問題ない」


 額の汗をぬぐい、呼吸を整える。顔色は悪いがとりあえず落ち着いた様子の和也を見て、リリは安堵する。


 ――今のは一体……


「その本は貰い物なの。図書館に置きたいんだけど読めなくて。なんか凄いことが書かれてるって言ってたけど」


「そんなふわっとした説明で貰ったの?呪い本とかだったらどうするんだよ。まぁでも、確かに凄いことが書かれているな」


「あんたこの本読めるの? で、なんて書いてるの?」


「なんかクラネデアの宝剣について書かれてた。内容からして凄い武器らしいんだが――」


「クラネデアの宝剣!?」


 リリが驚きの声を上げると、急に人目を気にしだし、和也に顔を近づけて手を添えて小声で話し出す。


「絶対にその本のことは誰にも話しちゃだめよ。わかった?」


「それはいいけど……なんで?」


「あんたクラネデアの宝剣を知らないの?」


「知ってはいるけど、あれだろ? 遥か昔クラネデアって騎士が使ってた剣だろ。刀身は意思が宿っており寝ていても達人のように扱うことができ、鞘は軽さに似合わず岩すら破壊する硬さって有名なやつ」


 ――でもあれって確か伝説上の代物だったような……存在するのか?


「南の採掘場に洞窟があって、その奥にクラネデアの宝剣があるらしいの。ただ……」


「ただ?」


 途端に口ごもるリリに和也は話の続きを求める。
 するとリリの表情が曇り


「ただ、その洞窟の中に入った人はまだ戻ってきてないの。足の速かった人、頭のいい人、腕っぷしに自信のあった人、そして――私のお父さんも……」


「そうか……なら、俺たちも行ってみないか?」


 リリの暗くなった表情は一変した。


「行くってあんた話聞いてた!? 入ったら戻ってこれないのよ?」


「じゃあ、いいのか? このままだとお前の親父さん生死の判断もできず、お前自身受け入れることもできないぞ。そりゃー親が死んでいるかもしれない場所に行くのは嫌だろうけど、このままだと、お前の時間は止まったままだぞ」


「あんたって……結構不謹慎よね。まぁいいわ。そこまで言うなら最後まで付き合ってもらうからね」


 リリはクスッと笑いながら和也の提案に乗る。普通なら最低!! っとビンタでもかます場面なのだろうが、リリ自身、自分の親の生死に向き合いたいのか、あまり重い空気にはならなかった。


「んじゃ、明日の朝図書館前に集合ってことで。っで、話変わるんだけどさ……」


「な、何?」


 途端に真剣なまなざしを向ける和也に、リリは思わず後ずさりしてしまう。
 そして、普段に似合わずまっすぐなまなざしを向け――


「お金を貸してください!!」


「へ?」






 ――そして、翌日……






「へ~意外と似合うのね」


「いや~金貸してくれてサンキューな。さすがにいつまでもあんなぼろい格好でいるわけはいかねぇしな」


 リリにお金を借りた和也は服を調達した。そこまで高い服ではなく冒険者用の黒ベースの安っぽい服を買った。右腰には探検を装備している。
 対するリリは、動きやすい格好で魔石や携帯食料などが入ったバッグを身に着けている。


「んじゃ、そろそろ行きますか」






 ――洞窟前……






「ここが洞窟か――結構奥まで続いてそうだな」


「まぁ、中の様子は誰も知らないしね」


「準備はいいか?」


「ここまで来て引き下がれないわよ!」


「わーカッコイイ」


 中に入る決意を固めたところで、二人はゆっくりと中に進んでいった。






 ********************






「光の魔石って思ったより明るいな」


「光の魔石は灯りにもってこいだから。長くても十二時間しか持たないから定期的に光に当てて充電しないといけないけど」


 光の魔石であたりを照らしながら二人は進んでいた。
 ある程度進んだところで分かれ道に出くわした。


「どうする? 二手に分かれる?」


「お前、ただでさえ入ったら戻れないって言うのに別行動は危険だろ。分かれて中にモンスターでもいたら誰が俺を守るんだよ」


「自分で守るって選択肢はないの? こういう場面だと男が守るのが普通じゃない?」


「俺に助けを乞うのは無駄だぜ。自慢じゃないが俺は喧嘩で勝った試しがない!」


「ほんとに自慢じゃないね」


 軽口を叩いている間に和也はそれぞれの道を魔石で照らす。
 右の道にはかすかに血が続いており、左の道には剣が散乱していた。


「右だな」


「根拠は?」


「左の道に落ちてある剣は折れたものや血がついてるものがある。ここに来るまで特に危ない場所はなかった。つまりこの散乱した剣は左の道に進んだ結果、何かと戦った跡ってわけ。それに右の道の血はよく見たら左の道から続いてる。おそらく左の道で何かに襲われた後、手傷を負い右の道に逃げたってことになる」


「なるほどね。じゃ、進もっか」


 二人は右の道に進んだが、今のところ危ないことは起きなかった。
 だが、和也は内心不安に満ちていた。


 ――はたして俺の選択は合っていたのだろうか。もし俺の言った通りならなぜ先に入ったやつは入り口ではなく右の道に逃げたんだ?怪我をしたならいったん引いて出直すべきだろう。それとも戻れない理由があったのか


「ねぇ、ちょ、ちょっとカズヤ、何あれ?」


 考え事をしていた和也にリリがおびえながら声を掛ける。
 その先には和也が元の世界では絶対に見ることがない生物がいた――





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