雑学部!!

白兎

言葉の雑学

「急げ! おい津樂、手が止まってるぞ!」
「はいはい」
「ハイは一回」
「はい×2!」


 放課後の雑学部。津樂たちは雪代の溜まりに溜まった書類業務を手伝わされていた。


「いい加減“適度”という言葉を知っていただけるとこちらも助かるのですが……」


 ため息交じりに霧崎が言ううと、雪代は返す言葉もなく、


「こ、こら津樂手が止まってるぞ!」
「先生気持ちはわかりますけど、霧崎に反論できないからって俺に当たるのやめません?」


 そんな会話に、集中していたのか珍しく静かだった一ノ瀬は、作業を止めて雪代を見た。


「にしても、先生なんでそんなに慌ててるんですか? 何か予定でも?」
「あぁ、今日は高校の同級生と飲み会基女子会なんだ。ほら、先生もたまには友人と羽目を外したいのだよ」
「いつも外しるんじゃ……」
「なんか言ったか?」
「いや別に……」


 青筋を浮かべて津樂を睨む雪代。
 そんな光景に一ノ瀬は苦笑いを浮かべて、


「それにしても、先生が女子会って似合わないですね。もうすぐ三十でしょ? 女子っていうにはギリギリな気が……」
「フ……女はいつまでたっても少女なのだよ」


 何故か決まったと言わんばかりの表情を浮かべる雪代。


「まぁでも、先生が言うことはあながち間違いではないけどな」
「え?」


 手を動かしながら言った津樂の言葉に、一ノ瀬は疑問符を浮かべた。


「女子の“子”や男子の“子”は、子供って意味じゃなくて人なんかを表す接尾語なんだ。ほら、男子トイレ女子トイレとか、日本男子代表とか。つまり男子は“男である人”って意味だ。そういう意味ではいつまでたっても女子会は通用するぞ」
「で、本音は?」
「先生子供っぽいから女子でいいんじゃね?」 


 誘導するように放った一ノ瀬の言葉に、津樂も笑みを浮かべながら乗っかると、ぶちっという音が心なしか聞こえた気がした。
 雪代はその長い髪を耳にかき上げて、その場を立つ。


「そろそろ時間だな。二人ともありがとう。もう帰っていいぞ」
「ん? 二人?」
「お疲れ様でーす」
「あれ? 一ノ瀬さん何さり気に残りの書類俺の方に寄せてんの?」
「お疲れさまでした」
「おっと、霧崎さん? あなたほどの方が仕事を押し付けて帰るわけじゃないよね? なんかお前がやってた未完了の書類が俺の手元にあるんだが……」
「さ~て、私もそろそろ帰ろうかぁ」
「いやいやいやいや、すべて終わったみたいに体伸ばしてますけど、これ先生の仕事ですよね! なんで全部俺の手元にあるんですか!?」


 そして、騒ぐ津樂をまったく相手にせず黙々と帰る準備を進め、教室の扉を開けると、まるで打ち合わせでもしてたかのように、


「「「じゃ、頑張って」」」


 扉が閉まる音を最後に、開いた口がふさがらない津楽を静寂が包んだ。



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