虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたので復讐することにした
25・敵
「お、戻って来たか……て誰だその嬢ちゃん」
その場に居たのはクラッド、クラリス、メアリー。フォルテの姿は見受けられない。おそらく身を隠す事が可能なのだろう。クラリスの恩恵をバレないようにする為には必須だから普段からそうでも何ら不思議では無い。
クラッドの視線は、戻ってきた優希からすぐさま隣の少女へ。
クラッドの問いに答えたのは優希。
「ぁぁ、こいつは亜梨沙。ちょっと前に知り合ってな、チームを探してるみたいだし連れてきた」
細かい事は省略し、大まかな事だけ説明した。
あの後、優希と亜梨沙は何チームか回ってみたが、どれもこれもイマイチと言った評価だ。
それに移動中何度か襲撃に遭い、優希も少なからず疲弊している。入るチームは頼りになる方が、優希としても楽だ。
だが、優希はもう他のチームに入ることは諦めている。
なぜなら、優希は戻るまだの幾度の襲撃で、ある仮説が浮かんでいたからだ。
優希が戻るまでに遭った襲撃は、どれもこれも似たようなものばかりだった。
家屋から地面からと死角という死角を狙ってきたのだ。そして交戦しているのは優希達だけで、他はまだ均衡状態を保っているのか至って静かだ。
その状況を踏まえて優希が立てた仮説とは、周辺のチームが優希達のチーム含めて二つしかないこと。
それは人数が減ったとかではない。周辺の人数はおそらくまだ数百はいるだろう。だが、チーム数は二つ。つまり、
「敵チームは二十人をゆうに超えている」
優希の仮説に他の三人にも動揺の空気が流れる。メアリーは澄ました顔をしているが、優希の言葉を真面目に聞いていた。
「でもよぅ、そんなことありえんのか? この試験の合格者は多くても二十人前後。百人規模のチームなんか作れねぇだろ」
クラッドの言う通り合格者二十人のこの試験で、百人規模のチームを作るのは難しい。ほぼ不可能と言っていいだろう。
一時共闘などで同盟を結ぶことはあり得るだろうが、それをする意味がない。この試験で同盟を結ぶ時は共通の敵が必要だからだ。
「けど、同盟以外にも百人規模のチームを作ることは出来る」
言葉の続きを急がせるかのように、亜梨沙、クラッド、クラリスは優希を見る。
「他の奴に試験を諦めさせるんだ」
優希の発言に三人は小首をかしげた。
その反応を見て、説明の続きをしたのは優希ではなくメアリー。
「つまり、プレートを奪ったやつを脅して無理やり仲間、いや、奴隷にしているってことだろう」
 メアリーの説明に優希はうなづき、
「この試験はプレートを奪われただけじゃ失格にならない。つまりプレートを奪われても活動できるということ。それを利用するやつがいてもおかしくない」
「……つまりここら辺にいる受験者は全員脅されてるってこと?」
亜梨沙の声は疑問形にしては重く、確信に満ちていた。
彼女の脳裏にはそれが出来る人物が浮かび上がっていたからだ。
「この試験は命の保証がないから、殺さない代わりに手伝えとかなんとか言われてんだろ」
だが口約束の脅しだけではないだろう。でなければ、エリアの広いこの試験ではいくらだって逃げ出せる。そうさせない何かがあるはず。もしかしたら、敵も天恵が使えるのかもしれない。
「つまり、敵チームの主メンバーが百枚集めるまでは迂闊に行動出来ないってわけか」
「そうとは限らねぇな」
クラッドが納得すると、優希は更に否定する。自分なりに組み立てた推論を即座に崩されて、クラッドは否定した白髪の少年を見た。
「敵チームの主メンバーが二十人なら、敵の目的が終わる頃には俺たちの合格は無いし、敵が五、六人だとしても、敵は全プレートを集める可能性がある」
「なんでそんなめんどくせぇことする必要があるんだ? 時間の無駄だろ」
「そうとは限らない。むしろ合格率を上げるなら集めた方がいい」
優希の言葉にクラッドは似合わず頭を回す。
しかし中々答えが出ず、諦めて優希に続きを求めた。
「この試験の合格者が五、六人ならこの後の試験を省かれる、もしかしたらこの試験だけで終わる可能性があるってことだ」
この試験で合格するのは二十人前後。ならこの後の試験はその人数で行われることを想定しているはず。つまり、この試験で他の合格者を削れば、今後の試験はいくつか省けるのだ。
「まぁそういうこと……で、主敵の人数は?」
優希は唐突に亜梨沙を見た。いきなりのフリに、彼女のセミロングの金髪が揺れる。
「三人……いや四人かな」
優希が彼女に聞いた理由。それは周辺で唯一チームを見ていないのは、亜梨沙が元いたチームだけだからだ。彼女のいたチームは調べる前に見切りをつけたからだ。
もちろん広い庸人街。周辺ではなく、遠くの受験者が脅している可能性もあるが、亜梨沙を引き留めていた獣使の男の服従の仕方から、獣使の男が言う“リーダー”が、主敵の一人だろう。亜梨沙が確信を持っているのが何よりの証拠。
「そいつらの恩恵は?」
優希はすかさず亜梨沙に情報を求める。主敵の恩恵が分かれば対策も立てられるからだ。
だが、優希の質問に亜梨沙は首を横に振る。
「全員は知らない。あたしが知ってるのはあいつらがリーダーって呼んでた奴だけ」
「呼んでたというと、名前はご存じないのですか?」
黙っていたクラリスも話に入り始める。
クラリスの質問に亜梨沙は首を横に振って、
「名前は知らない。あたしもあのチームに入って速攻別行動になったから。特攻服来たモヒカン男と同い年位の軍服の少年。で、リーダーってのが、卑屈そうな目をした男」
その三人は優希も試験前に目をつけていた。
「で、最初人数を省いていた一人は?」
優希に敵の人数を聞かれた時、亜梨沙は三人と言った後に四人と答えた。
「もう一人は仲間って言うより、目的が一致してるって感じかな。なんか物凄くエロい格好した女」
亜梨沙は赤面しながら言った。
これで優希が試験前に警戒していた人物が揃ったわけだ。
「なるほどな。で、そのリーダーはどんな恩恵なんだ?」
「あの男が何の恩恵かは知らないけど、チームにいたあたしよりも年下の子供は、あいつの力で体に爆弾持って特攻した」
優希は彼女と出会った時に話題に出ていた話だと思った。
「あの子供はあいつに何もされてない。ただ言われた事が出来なくて、謝っていただけ」
それだけで相手を操る天恵。それはかなりの脅威だが、単に謝罪しなければ良い。
本当にそれだけならだが。
「では、これからどうします? 相手がどんな人かは分かっても、結局戦力差は変わりませんよ」
クラリスの声は落ち着いているが、瞳の奥には憤りを宿していた。人を操り利用する事に不快感を抱いているのだ。
優希は今三つの作戦が脳裏に浮かんでいた。
一つはまだ敵に利用されていない受験者達と合流する。それでも人数差は覆すことはできないだろう。
それの代替案として二つ目、〖行動命令〗で、同じように奴隷を増やしていくこと。だが、〖行動命令〗は人に仕掛け辛い。受験者は警戒している為余計に難しい。操られている受験者に使っても権能と天恵の板挟みでまともに使えないだろう。
三つ目は、このまま五人で行動する。主敵は四人で、他は優希にとって雑魚ばかり。なら人数差はあっても結果的には四対五だ。それに相手の内一人は味方につけることも出来そうだ。
優希が口に出さず選ぶのは三つ目だった。
何故なら、その方がリスクは高いが楽で見返りも大きいからだ。
今この場に正体を知られたく無い人物はいない。と言うことは〖予備情報〗から肉体情報を〖読込〗出来る。つまりは死ぬ可能性が無いのだ。
それに、敵がプレートを集めるだけ集めてくれれば、その分優希が敵を倒した時に手に入るプレートも増える。この作戦は一度クラリスに無言の否定をされている為、口には出さない。一応味方は居た方がいい為、クラリスにも気を使う。三つ目の作戦の代わりに、
「暫く身を隠そう。ここがバレるのも時間の問題だし。他のチームには俺が掛け合うからそれまでは隠れてやり過ごすんだ」
前半は本当の事を言う。だが、後半は嘘だ。優希は他のチームに掛け合うつもりは一切ない。だが、三つ目の作戦を遂行するには、優希は別行動なら、わざわざ伝えなくとも遂行できる。
「そうですね。ジークさんに頼ってばかりですけど、お願いします」
申し訳なさそうに頭を下げるクラリス。
クラッドも亜梨沙も異議が無いようだ。メアリーは既に飽きているのか、いつも通り冷めた表情。
「なら、今から別行動ってわけで」
優希はすぐさま行動を開始する。
敵が千九百一枚集めた時点で他に合格者が出ない為、会場に向かうだろう。つまり、百枚集めていれば敵は終わらない。なら優希は後十六枚集めなければならない。
獣使の男と、盗賊姿の女はプレートを持っていなかった。おそらくそれも敵がまとめて持っているのだろう。なら、周辺の敵は無駄。より遠くの受験者を狙う。
優希は巡回している奴隷達に隠れながら、庸人街を散策していった。
********************
「動いた」
若く高いが冷徹な声が発せられる。
軍服を着た少年は右目を抑えている。その右目の視界に映るのは隠れながら移動する白髪の少年。彼の声に反応したのは、大人びた声を持った男。
「気付いたな。おそらく奴らは遠くの受験者を狙うのと同時にこちらにスパイを送り込むはず。でなければこちらの戦力が分からないからな」
脳内で考察した事を述べる卑屈そうな目をした男。
そして、冷静な二人と比べて殺気がダダ漏れのモヒカン男。
「今なら一人なんだろ? なら俺様が倒してきてやるよ。あの女がいないなら楽勝楽勝」
余裕そうな笑みを浮かべるモヒカン男。しかし、彼の言葉を否定するのは、女性の声。
「無理でしょうね♡あの子は結構慎重そうよ。単純な力量はあなたの方が上かも知れないけど、戦うとなれば戦略的にあの子が勝つでしょうし♡」
妖艶に笑う女。露出度の高い服を着て、垂れた目が笑みを浮かべてさらに歪む。
「どうだろうな。奴は既知の情報をまとめる考察力はあるだろうが、情報を集める分析力は足りないと見た。でなければ、ここで単独行動はしない」
彼らは優希達の居場所を知っていた。いくら身を隠しているとはいえ、クラッドとクラリス、メアリーは動いていないのだ。その間はかなり長い。一度も交戦していない事に違和感を感じてもおかしくない。
なら何故彼らは場所が分かっている優希達を襲撃しなかったか。襲撃出来ない理由があるからだ。
「あいつがその理由に気付いていれば、隠密行動ではなく、取引をするはず。つまり、奴はヒントを与えれば気付けるが、そうなる前までは他の連中と何ら変わらない」
卑屈そうな目をした男は、優希を一切警戒していない。むしろ警戒しているのは別の人物だった。
「なら俺様が負ける心配はないってわけだ。いいだろ行って? 俺様の血が疼いて仕方がねぇんだ」
妖艶な女の言っていた敗北条件は無くなった。だが、モヒカン男が優希と接触するのを防ぐのは、またしても女の声で。
「ダメよ♡あなたの力は温存しとかないと。て言うわけで私が行くわ♡あなたもあの子の力は知りたいでしょ?」
女はリーダーである卑屈そうな目した男を見る。お互いに目を合わせて数秒。
「そうだな。ルイスは監視を続けろセフォントは戦闘まで力を温存しておけ。ルミナスはあの白髪のガキの情報を持ってこい」
軍服を着用したルイスは近くの樽に腰を据えて監視を続ける。セフォントは疼く血の勢いを殺すように、舌打ちしながら歩き回る。そして、露出度の高い服を着るルミナスは、その瞳の奥に白髪の少年を思い浮かべながら、
「ウフフ♡楽しくなりそ♡」
顔を赤らめながら言うルミナスを、リーダーである卑屈そうな目をした男――レクラムは椅子に腰掛けながら見つめていた。
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