生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。〈ヤキモチ編〉




「おにーさん、夜ご飯できたよ」


キッチンの方から、零央が俺のことを呼ぶ。俺は目の前のテーブルに散らかした用紙と睨み合いながら生返事をする。

「なにこれ、生徒のテスト?」

後から覗き込んできて、零央はそう聞く。

「んー…そう、なんだけどー…あともうちょっと…」

テストの採点を、家に持ち帰って終わらせることにした俺は、たった今数々の珍解答と格闘していた。

「すごい、バツばっかじゃんこの子」

笑いながら零央が指さす。

「…今回のはちゃんと勉強してないとできないぞって忠告したはずなんだけどなぁ…」

自分が教えているクラスなだけに、マルがつかないのには残念な気持ちになる。

「ごめん、あと一人分だけやらせて…そしたらご飯食べるし…」

そう言って次の解答用紙をめくると、それは楠木くんのものだった。それに次々とマルが付いていくと、あからさまに背後の零央が刺々しいオーラを放つのが、見なくても分かった。

「…す、すごい……満点…」

初めてのことに俺が感動していると、零央が俺から赤ペンを取り上げる。

「ほんと生意気な奴、いっちょまえに宣戦布告なんかしてきてさ」
「ま、またその話かよ…?本気にするなって言っただろ…どうせ楠木くんだって勢いで言ったに決まってる」
「おにーさんがそんなんだから言ってんだって。まさか、このテストの見返りとか要求されてないよね?」

満点の解答用紙を指さして、至極不機嫌そうに零央は俺を睨んできた。

「見返りなんて、そんなのあるわけな……………………」

俺がハッとあることを思い出して黙ると、零央は俺の背後からテーブルに両手をついて、俺の逃げ道を塞ぐかのように上から覗き込んでくる。

「…は?まさかなんか言われたの」

テスト週間に入ったばかりのとき、そういえば楠木くん、何か言ってたような…。

放課後、数学準備室に通ってまで俺に勉強を教えて欲しいなんて、頭の良い楠木くんにそう頼まれたときはすごく驚いた。それでももちろん教師として教え子のやる気に答えないわけにはいかないと思い、了承したが。

「ちょっと、なんて言われたのおにーさん」
「………………」

放課後に楠木くんが俺のところに通っていたなんて、口が裂けても零央には言えない…何も無かったとはいえ、俺と楠木くんの二人きりで勉強をしていたなんて、零央が許すわけない…。

答えられないままでいると、当然のように零央の冷たい手が俺の服の下を滑り込んできた。

「っ、ちょ……零央…!」
「おにーさんが答えないんじゃん。なんかやましいことでもあんの?」
「ち、違う、無い…から!その手やめろ…!」

胸の突起のまわりを、しつこく零央の指がくるくると撫で回す。俺はそのぞわぞわとする感覚に、耐えられず零央の腕を引き剥がそうと抵抗する。

「…ふーん、そんな態度とっていいんだ?」

妙に落ち着いたトーンで零央の声が俺の耳元をくすぐる。そしてすぐに、耳の穴に向けて零央の吐息がふっと吹きかけられた。

「ぅあっ」

たったそれだけのことなのに、なぜか全身がくすぐられたみたいな感覚に陥って、ビクリと大袈裟に反応してしまう。

「おにーさん、ほんと耳弱いよね。性感帯なのってくらい」
「せ、せいか……っなわけないだろ…!」

くすくすと馬鹿にするような笑いにカチンときて、俺は勢いよく椅子から立ち上がる。

「も、もう、飯食べるんだろ…!」

俺が零央の手から逃れようとするも、すかさずがっちりとホールドされて、身動きがとれない。

「まだ、聞いてないんだけど?あのガキになんて言われたのか」
「…が、ガキっておまえなぁ…」
「ほら、話終わってない。早く座って」

……話って……手が出てんだよ手が…。

そうは思ったものの、更に零央の機嫌を損ねそうで、口に出すのは躊躇われた。しかしこの状況で再びこの椅子に着席してしまったら、本当に答えるまで逃がしてもらえないような気がしてならない。俺はそれを確信していた。

早速この思考中にも既に、言うことを聞かない俺に痺れを切らして零央は、次の手に出ていた。

「っひあ…!」

突然腰を撫でられ、思わず変な声を出してしまうと、零央はまた俺の背後で笑った。下では俺の腰をあちこち撫で回して、上では俺の耳に弄ぶように息を吹きかける。

「っ……ちょ…やめ、」
「俺はおにーさんが腰も耳も弱いこと知ってるんだから。ほら、早く俺の言うこと聞かなくていいの?」
「ひ……ぅ、……れ、零央ぉ……やめろ、ってぇ…」

腰を撫でられるとどうしても体が跳ねてしまうし、耳元にかかる吐息ひとつひとつにくすぐられているようで、さっきから脚が震えてしまう。

「脚、ガクガクじゃん」

くすりと笑うようにそう耳元で囁いて、零央は俺の太腿を撫でるように、ズボン越しに下から上へ指を這わせた。ついにそれが追い打ちとなって、俺の脚は体重を支える力を失い、ズルズルと素直に椅子の上へ腰を下ろしてしまう。

「上出来、良い子じゃん」

ニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべてそう言ってくる零央を、俺は睨みつける。

……くっそ……思わず脚の力抜けた……ムカつく………!

「はは、今ので勃っちゃうとか、万年発情期なのおにーさん。学校でどうしてるわけ?」

そう言って、緩く反応してしまった俺のそれをズボン越しに撫でる。

「っぁ…、ち、がう……学校で、なんて…っ」
「で?なんて言われたんだっけ?楠木クンに」
「……い、言われてない…なにも…っん」
「うそ、俺がおにーさんの生徒だったら絶対見返り求めるね。"テスト満点とったらご褒美ください"って」

見透かされていて何も言い返せないのが悔しい。

俺が黙っていると、零央は俺のズボンのベルトを外しはじめる。

「ちょ、零央っ…ご飯食べるんじゃ…っ」
「気が変わった」

そう言ってあっという間にパンツごと脱がされ、勃ちきった俺のものが露わになる。零央は躊躇なくそれを指先で弄ぶように撫でる。

「ぅあっ、ぁう、…っん、」
「喘いでないで答えて?おにーさん。あのクソ生意気なガキに、なんておねだりされた?」

零央は追い詰めるように俺のものを扱いて、耳元のわざと息が吹きかかる距離で喋る。

「っあ、や、んっ………い、イく、からぁ……っ!」

答えさせる気があるのか無いのか知らないが、零央の手に導かれるまま俺は達しそうになる。しかし寸前のところで、零央の指はぴたりと動きを止めた。

「ぁっ………、え………?な、なんで…」
「なんでって、答えないからじゃん。イきたい?なら早く聞いてることに答えて、ほら、センセイ」

そう言って、零央は今か今かと待つ俺のそれを指で軽く弾いた。その瞬間びくりと体が震える。

「ひぁ、ぁ……っ」
「あ、ちょっと、イっちゃだめだって。まだ答えてないんだから」
「……ふぇ………?」

半ば楽しそうな零央に、俺はイきそうなのを無理やり止められ、泣きそうになる。そんな俺をよそに、零央は俺の脚を開かせると、後孔に人差し指をあてがって、先の方だけ沈めていく。そして指先を浅いところで抜き差しして入口を解すと、その手はそのままテーブルの上の赤ペンを手に取った。

「………へ、…ちょ…零央…………?」
「おにーさんが仕事中も俺のこと思い出せるように、ね?」

何の悪気もなさそうな顔でそう言って、零央はさっきまで俺がテストの採点に使っていた赤ペンを、そのまま後孔に押し込む。俺はそのまさかの行動に衝撃を受ける暇もなく、冷たい無機物が中に入り込んでくる違和感にぞわぞわと背筋を凍らせた。

「おにーさんのココ、俺以外入れたことないんじゃない?オモチャとか使ったことなかったし」
「い、やだ、んなの……入れるなぁ…っ」
「そんなこと言って、ヨくなっちゃうくせに」

そう笑うと、零央はペンの先で良いところを探り当てるように動かして、そこをグリグリと刺激した。

「ぁっ、ん……っ」

冷たい無機物が中を刺激する慣れない感覚に、俺はぞわっと背筋を凍らせる。

「こんなペン一本じゃ、おにーさんのココは満足しないかなー」
「ぬ、抜けって、それやだ……っ」

呑気な調子でそう笑う零央に、俺は頭を振ってペンを抜くように言う。

いつも仕事で、学校で使っていたはずの赤ペンが、こんな形で使用されることになるとは思いもしなかった。

「やだ?じゃあ、何が欲しいのおにーさんは?」
「ぁっ、う」

同じところをペンの先で刺激して、言えと言わんばかりに圧をかけられる。その瞬間に、一気にペン一本の物足りなさに気づいてしまい、俺の中で葛藤が起こる。

……ここで素直に答えてしまえば零央の思惑通り、……でも…こんな冷たい無機物なんかじゃなくて俺は…。


「………れ…零央が、ほしい……っ」

恥を忍んで、俺は縋るように零央の服の袖を掴んで懇願した。

「…は、素直だねほんと、よく出来ました。でも残念、まだあげない」
「っ、な……なんで…」
「さっきから言ってるじゃん、俺の質問はなんだっけ?」

俺の耳元でそう囁かれ、零央の声が直接頭の中を支配するかのように響く。素直に懇願すれば与えられるものだと思っていた俺は、もう既に零央の手中だったのだ。

「………く、楠木くんに…ご褒美…何を強請られたのか……っ」
「そう、それに答えたら、おにーさんの欲しいモノあげる」

そう言って、意地悪にペンを浅いところで入れたり抜いたりを繰り返す。その行為に、早く欲しいという欲求がぞくぞくと俺の中を駆け巡る気がした。

「……っ…………き……キス………してほしいって……!……言われたんだよっ」

俺はもうヤケになって、やはり零央に抗えないという悔しさを噛み締めながら、そう答える。すると想像以上に低い声が、耳元で呟いた。

「………へえ、キス…ね。それで、OKしちゃったんだ?…じゃなきゃこんな綺麗な満点とらないよね」

零央を怒らせたというのは明確だった。もちろん想定もしていた。だからこんなこと、言わずに隠しておきたかったのだ。

「ち、違う、まさか本気だとは思ってなかったし……お、俺もぼーっとしてて…」

確かそう楠木くんに言われたときは俺も数学の難問を解いてる途中で、そんなやり取りをしていたことすら、さっき思い出した。けれど零央の言う通り、テーブルの上の綺麗な解答用紙が、あのおねだりが本気だったのだということを物語っている。

「おにーさんつけ込まれやすいんだって。…で、どうすんの?ほんとにキスしてあげちゃうわけ?」
「っな、わけないだろ……!」

俺がそんなことしないと分かっていて聞くのだから、本当に意地悪でタチが悪い。けれどそれが嫉妬心から来ていると考えると、少し心地よくも感じてしまうのは、不謹慎だろうか。

「ぁう、」

零央はおもむろに突っ込んでいたペンを抜くと、椅子ごと俺を零央の方へ向かせた。

「じゃあもし、またそんなふざけたおねだりされたらこう言って」

零央は、興奮しきった自分のものを俺の後孔にあてがう。少し触れただけでわかる、さっきとは違うその熱と重量に、俺の心臓は痛いくらいにうるさく鳴り始めた。


「…おにーさんの唇も身体も全部、永遠に先約がいるって、ね​────」


























「…………こ…腰…死ぬ……」


ベッドの上、俺は屍のように横たわる。時計を見ればもう、22時を指しているのが確認できた。

「……明日仕事なのに…容赦ないよなお前……」
「おにーさんが煽ってくるからじゃん」

冷蔵庫から取ってきたのか、水の入ったペットボトルを俺に渡して悪びれも無さそうに零央はそう言う。煽った覚えなど無いと、否定する気力ももう無い。

「…………悪かったよ…不本意とは言え、簡単に楠木くんのお願い聞くなんて約束しちゃって…。ちゃんと断っとくし…心配しなくても…他の奴にキスとか、したりしないし…」

テスト勉強を頑張ってくれた楠木くんには悪いが、やはりそんなお願いは聞いてやれない。優秀な彼なら分かってくれるはずだ。

ギシリとベッドの上に来て、横たわる俺に覆い被さるように、零央が寄ってくる。未だに何を考えてるのかイマイチ分からない無表情に、加えて何も言わずに唇を重ねてきた。

「……ん、ふ……ぁ……」
「かわい、おにーさん」
「っ……お、俺だって心配してるんだぞ…!の、飲み会から帰ってきたときなんか…めちゃくちゃ香水の匂いつけてくるし…」

呑気な零央にムカついてそう口走ると、零央はくすくすと笑い始める。

「俺が浮気してるって思ってんの?」
「そ、そこまでは言ってないけど…!」
「するわけないじゃん、こんなに可愛い恋人がいんのに」
「っ…」

恥ずかしげもなくそんなことを言ってみせる零央に、俺は思わず何も言い返せずに黙ってしまった。

「あ、今度オモチャでも買って遊んでみよっか」
「っな、……ぜっ……たい嫌だ…!」


結局あの赤ペンもゴミ箱行きで、新しいのを買い直した。しかしそれでもなお、赤ペンでテストの採点をする度にあのことが頭をよぎるようになってしまったのは、言うまでもない。





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